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挨拶

 二人の視線の先には、踊るアーグムとアマータがいる。いる、のだが……

(……なんだか……ダンスというか……)

「それに引きかえ……なんですの、あのダンスは」

「ダンスというより、お酒の入った乱痴気騒ぎのようですわね」

 フィオーレたちの思いを、誰かが容赦なく言葉にして述べた。必要以上に密着して体をくねらせる二人の動きはとても文化的なダンスとは言い難かった。直視に耐えず目を逸らす人がいる一方で、じっくりと見入る人もいる。なんだか趣旨が違うような気もする。

 自分もアーグムと踊り続けていたら、いずれ捌き切れなくなってああなっていたのだろうか。考えるだけでぞっとした。

「……君は今後一切、あの男とは踊らないように」

 ソルクスの言葉に、フィオーレは一も二もなく頷いた。


「……それにしても。アーグム殿下のお相手の方、男爵家の娘さんなのでしょう? どこで殿下とお近づきになったのかしら。身分が足りないように思うのだけど……」

「確かに、自然にお近づきになれるような身分ではないわよね。噂だけど、かなり高位の方のお力添えがあって、王子が出席されるような格の高い集いに招かれたりしたのだとか……」

「まあ! 高位の方、ね。どなたにどんな方法で取り入ったのでしょうね。分かったものではないわ」

 口さがない噂話が漏れ聞こえてくる。フィオーレは内容を聞き流すだけにして、つとめて感情を抑えた。フィオーレがアーグムの婚約者だった時にもこうやって色々と悪しざまに言われたりしたのだ。正直なところアマータに良い印象は持っていないが、それでも無遠慮な噂話に興じるようなことはしたくない。

 抑制的に振る舞うフィオーレの姿は、本人は自覚していないながら、小国の公女とは思えないほどの気品があるものだった。アーグムの婚約者だった時は彼に虐げられ、彼の不始末の後始末を負わされていたために目立たなかった部分が、ソルクスの婚約者として、外部の人間としてモンティスに戻ってきた今になってあらわになってきている。

 厳しい王妃教育を受けてきて、実際にアーグムに代わって様々な公務などをこなしてきた彼女の立ち居振る舞いは、アマータとは雲泥の差だった。見比べれば一目瞭然だった。

 モンティスの国王夫妻がこの場にいれば、フィオーレがアーグムの婚約者でなくなったことを改めて惜しんだだろう。アーグムに何度目か分からない叱責をしたことだろう。だが、この場に国王夫妻はおらず、代わりに珍しい人物が出席していた。

 ざわっと辺りの人々がざわめき、何事だろうかとフィオーレは顔を上げた。そちらの方から、誰かが歩いてくる。人々が無意識のように道を譲ったその人物は、アーグムと同じ金髪碧眼の、しかし彼とは決定的に雰囲気の異なる者だった。

「イリスト殿下……?」

 フィオーレは確信なく呟いた。ほとんど表に出てこなかったモンティス王国第二王子イリスト、その彼がほとんど初めて公の場に姿を現している。

 立ち姿や顔立ちがアーグムと似通っているから、国王夫妻の面影もあるから、イリストなのだろうとは思う。だがフィオーレは彼とまともに顔を合わせたことがない。この場に集う貴族たちも、彼とはあまり接したことがない者ばかりのようだ。どうやらあの人物が第二王子らしい、という情報が波紋のように広がり、あたりをざわつかせていた。

 兄と同じ金髪碧眼の美男子であるイリストは、表情を柔らかく綻ばせてフィオーレに挨拶をした。

「ようこそおいでくださいました、ロージア公女フィオーレ様。ご婚約者であられるプルーウィス王国第一王子ソルクス様も、歓迎申し上げます。あなたがたの国と、今後も良いお付き合いをさせていただければと存じます」

「こちらこそ、モンティス王国第二王子イリスト様。こちらに長く住まわせていただいたのにあまりご挨拶もできず、申し訳ありません」

「いえ、そもそも私があまり表に出なかったのですから」

 イリストと挨拶を交わしつつ、意外すぎる思いでフィオーレは瞬いた。

(アーグム殿下と違いすぎる……)

 これまでアーグムの陰に隠れ、アーグムを立てるようにしてきた第二王子であるのに、彼こそが次期王位継承者にふさわしいのではないか。実際に会って言葉を交わしてみると、そう思ってしまう。

 彼についてはそういった話がこれまでにも上がっており、しかし本人が兄に遠慮して辞退していたと聞いている。だが、その兄があれなのだから、いっそイリストが次のモンティス国王になってくれた方が周辺諸国にとっても良いのではないだろうか。

 彼の良い印象は、フィオーレをモンティスのものだと示さなかったことで更に高まった。フィオーレをロージア公女と認めつつ丁重に挨拶し、ソルクスとの婚約関係もそれとなく強調している。フィオーレをモンティスのものだと思っているらしいアーグムとは真逆だ。

 ソルクスもイリストに対しては丁寧に挨拶し、謝礼の言葉を述べた。アーグムに対する態度とはこれまた真逆だ。

 そのイリストは二人に言った。

「舞踏会が終わったら、少しお時間をいただけないでしょうか。お二人とお話がしたいと思います」

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