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評価

 他の令嬢と踊っていたはずのソルクスが、そこにいた。フィオーレとアーグムとの間に割って入り、彼を引き剥がすようにして庇ってくれる。

 正直、すごくありがたいし嬉しい。でも……

「……ごめんなさい。ソルクス様の社交の邪魔をしてしまって……」

「いや、君より優先する社交などない。邪魔だなんてとんでもない」

 きっぱりと言い切り、ソルクスは剣呑な表情をアーグムに向けた。

「そもそも私のところに大勢の女性たちが来たのは、お前の差し金のようだな? 私と踊った女性が話してくれたぞ」

「え……!?」

 それは本当だろうか。いや、彼の話は本当だと思うのだが、話してくれたというところに引っかかる。アーグムのことを告げ口したというより、ソルクスの魅力に惑わされて口を開かされたというのが正しい気がしてならない。

「私に女性たちを差し向けて、フィオーレと引き離しておいて、自分がフィオーレと踊る……それで自分のものだと見せつけたつもりか?」

「ええ……!?」

 フィオーレは思わずアーグムの表情を見た。彼は舌打ちせんばかりに忌々しげな表情で、ソルクスの言葉を態度で肯定している。

(それが彼の意図なの……!? 婚約破棄したのはアーグム様なのに、それを覆そうと……!?)

「なにが『婚約者に戻してやらんこともない』だ。お前が身勝手にそうしたいと思っているだけだろう」

「……ちっ……」

 口調だけは淡々と、しかし容赦なくソルクスはアーグムを追いつめる。

「知っているぞ? 最近はお前の立場が危うくなってきているらしいな。第二王子イリストが次期王位継承者に指名される日も遠くないのではないかという噂だ」

「そうなのですか……!?」

 フィオーレは二重に驚いた。話の内容はもちろん、ソルクスがモンティスの国内情勢を詳しく把握していることにも。

(そもそもこういうことは、わたくしが知っておくべきことだったのだけど……)

 モンティスから出られた解放感に浮かれて、情報収集を怠ってしまった。だからこんなふうにパルセノを人質に取られるまで気付かなかったのだ。モンティスの情勢に疎くなってしまっていた。

(でも……ソルクス様はご存知だったのにこの状況になってしまったのだから、わたくしが知っても阻止はできなかったかもしれないけれど……)

 フィオーレの視線の先で、アーグムは噴火寸前の形相になっている。しかし否定はできない様子だ。

 下手に動くと引火してしまいそうだ。フィオーレは動けずにいたのだが、そこに空気を読まない声がかけられた。

「アーグム様? ごめんなさい、遅れてしまいまして……」

 艶のある声で、まるでデートに遅刻したかのような軽い謝罪をしたのは、アーグムの婚約者であるアマータだ。その後ろには、やはりアーグムに近しい令嬢であるラーラが付き従っている。遅れて到着したアマータを連れてきたようだ。

 アマータの格好は例によって扇情的だった。ドレスの襟ぐりなどが際どいところまで開いている。

 そのアマータをじっと見たかと思うと、アーグムは無言で彼女の腕をつかんでダンスの場に連れ出した。アマータは驚いた様子だったが、嫣然と微笑んで応じた。

「私たちも踊ろう」

 八つ当たりのように激しい動きをするアーグムから呆れたように視線を戻し、ソルクスはフィオーレを誘った。

「君の記憶を上書きさせてほしい。君をあんな男と踊らせてしまったなんて……。私がもう少し早く気付いていればよかったものを」

「いえ、ソルクス様は悪くありません。……でも、お誘いはお受けいたします」

 フィオーレは応え、ごく自然に、二人は手を取り合って踊り始めた。

 互いを気遣い合いながら、呼吸を合わせる。ごく自然にステップが噛み合う。リードに会わせてくるりと回ると、ドレスの裾が優雅に広がり、彼のステップがそれを追いかけるように調和した。

(踊りやすい……)

 同じ感想をソルクスも抱いたようだった。先ほどの余韻でまだ少し険しかった表情が和らぐ。

「やっぱり君とは相性がいいようだ」

「ソルクス様!」

「冗談だ。というより願望かな。それはそうと君はすごいね。基礎がしっかりしているし、リズム感も鍛えられている。そのうえで柔軟に合わせていく力もある。リードが要らないくらいだ」

「よかったです。学んだ甲斐がありました。でもリードはお願いしますね?」

 ダンスも王妃教育の一環だった。舞踏会では基本的に放置されていてアーグムと踊る機会は少なかったが、他国からの要人をもてなしたりするときなど、踊ることはままあった。背景もさまざまな者に合わせて経験を積んでいたことがここで生きている。

「ほら、見て」

 促されて周りを見ると、二人に賞賛の視線が向けられていた。感嘆した様子で囁き合う声が耳に入る。

「さすが大国プルーウィスの王子様は違いますわね。でもお相手の方ってロージアの公女様なのでしょう? あの小さな国の……」

「小さいけれど美しくて文化的な、歴史のある国なのよね。それを体現するような洗練されたダンスだわ。ドレスもよくお似合いで……」

 そんな会話が漏れ聞こえてくる。嬉しさにフィオーレは思わず頬を紅潮させた。ロージア公女として、自分がロージアの名前を高められることが嬉しい。

「これが君の頑張りの結果だよ。これからはもっと正当に評価されていくはずだ。今まではあいつに手柄を奪われていたのだろうが、私はそんなことはしない」

「ソルクス様……」

「……それに」

 何やら含みのある表情でソルクスはフィオーレを促した。フィオーレはそちらを見て微妙な表情になった。

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