述懐
そうしてフィオーレは初めての友達を得た。フィオーレはあまり頻繁に自由時間を得られなかったし、彼女と会える機会は少なかったのだが、だからこそ会えた時はいっそう嬉しかった。
最初は互いに距離を測っていた感じだったし、彼女は年齢の割に大人びていたのだが、打ち解けてからは普通の友人同士になれた。クッキーの缶に入れて手紙のやり取りをするのも楽しかったし、クッキーや他のお菓子を一緒に食べることもした。彼女は他の人に姿を見られることを避けたがったので庭の他の場所を一緒に歩いたりすることは少なかったが、誰にも見つからないように庭のあちこちに隠れながら進む遊びは楽しかった。
遊ぶだけでなく、フィオーレは王妃教育のあれこれを相談させてもらったりもした。彼女は頭が良く回答が的確で、ずいぶん助けられた。その知識のありようも、外見も、かなり身分の高い者でありそうなのに、城の中で彼女を見かけることがなかった。もっと突っ込んで探してみたくはあったが、なんとなく後ろめたくてそれもできず、やがて別れの時がやってきた。やはり彼女は一時のあいだモンティスの王城に滞在していただけだったのだ。
城を去ることを彼女から聞かされて、フィオーレは涙を止められなかった。教師から厳しくされた時でさえ、そんなふうに泣いたことはなかったのに。
そんなフィオーレを彼女は優しく慰めて、いつかまた会おうと約束してくれた。その約束があるから、頑張っていればまたいつか会えると思うから、フィオーレはモンティスを出るその日まで頑張っていたのだ。
「でも、あれから十年近くが経って、しかもわたくしはモンティスと縁がなくなって……それでもいつか、会えると信じてはいるのですが……」
フィオーレは述懐した。
「それとも、信じているだけでは駄目で、やはりわたくしから探さないといけないのでしょうか。彼女は自分のことを知ってほしくないようだったので、調べるのは気が引けたのですが……」
つらつらと思いを述べて、ふと顔を上げると、ソルクスが顔を覆っていた。フィオーレは瞬いた。
「すみません、話しすぎてしまって。どうなさいました……?」
「いや…………」
応える声が上ずっている。フィオーレは眉を寄せた。
「もしかして具合がよろしくないのでしょうか。お座りになりますか? 歩けるようなら、戻りましょうか?」
「いや……大丈夫だ……」
大丈夫、と言いつつソルクスは手で顔を覆ったままだ。しかもその頬が赤らんでいるのが見えた。熱があるのだろうか。とても大丈夫そうには見えないのだが、あまりうるさく言って煩わせる方がよくないだろう。
フィオーレは先導して少し歩き、テーブルセットのある場所に案内してソルクスのために椅子を引いた。向かい側の椅子に自分も腰掛ける。秘密の場所とは生垣を隔ててちょうど反対の位置にあるテーブルセットだ。花の咲く生垣の表側は整えられて美しいが、裏側でところどころに奔放に咲く花々も見ていて楽しかった。
しばらくするとソルクスの具合もましになったようだが、手をどけた後もまだ頬が少し赤らんでいる。
「暑いですか? 木陰のある場所の方がよろしかったでしょうか」
「いや、暑くはない。ありがとう。……しかし、参ったな……」
「? まだお体の具合がよろしくありませんか?」
「体は大丈夫だ。問題は、心かな……」
「?」
首を傾げるフィオーレにソルクスは言った。
「その……君の友人のことだが。探さないでいい……と、思う」
「探さない方がいいとはわたくしも思うのですが……時間が経つ一方なので、手がかりもどんどん消えていってしまいますし……正直なところ、今から探してももう遅いのではと思ったりもしています」
具合がよくなさそうなソルクスだが、フィオーレの話をちゃんと聞いていてくれたようだ。そのソルクスの様子に気付かずに話し続けてしまった自分を反省する。
「でも……また会いたいので。嫌がられてでも探すしかないのかと…………どうなさいました!?」
またソルクスが顔を手で覆った。テーブルに突っ伏さんばかりにする。
慌てるフィオーレにソルクスはくぐもった声で言った。
「私は大丈夫だ。ちょっと色々……考えてしまって。それよりも、友人のことは大丈夫だ。君のことはずっと気にかけているし、君の前に名乗り出たいと思ってはいるよ。それは間違いない」
「……? そうであったら嬉しいのですが。……もしかしてソルクス様、彼女をご存知なのですか? ご親戚とか?」
ソルクスの言葉は妙に確信ありげだ。単にフィオーレを力づけたいだけというわけではないような感じだ。フィオーレは首を傾げた。
「いや……そういうのではないのだが。親戚とかではないが……一般論というか……君の友人は約束を反故にしたりはしないよ。約束を破るような人ではないのだろう?」
「ええ、それは間違いなく。手紙のお返事も律儀でしたし、わたくしを宥めるためとはいえ真剣に約束してくれました。そのことを思い出させてくださって、ありがとうございます」
そうだ。ほかならぬ彼女が言ったのだ。また会おうと。そのことを思い出せば、言葉を信じていればいいのだと気持ちを新たにできる。
それにしても……
「……できれば、早く再会したいのですが……」
呟いたフィオーレに、ソルクスは今度こそテーブルに突っ伏した。




