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人質

 ソルクスから話を聞いたフィオーレは顔を青ざめさせた。

「え……パルセノが、モンティスの王城に……!?」

 パルセノはフィオーレの弟だ。ロージアにいるはずの弟が、アーグムによってモンティスの王城に招かれているのだという。

 招かれていると言えば聞こえはいいが、要は人質だ。ロージアの手綱を握るために、フィオーレに代わって連れて来られたのだろう。

「……済まない。私がもっと目配りをしておくべきだった」

「いえ、殿下のせいではありません。わたくしのせいです……」

 まさか、アーグムがそんな単純な強硬策に訴えるとは思わなかった。間接的にプルーウィスに喧嘩を売っているし、筋の悪い手だと思うのに、実際にこうして彼の身柄を押さえられてしまうと厄介だ。

 ロージア公女フィオーレがモンティス王子アーグムの婚約者ではなくなったことに付随する問題――モンティスがロージアへの圧力を強めかねないということ――は、ロージア国民への影響についてはソルクスが抑えてくれた。モンティスを牽制してくれた。

 だが、フィオーレの家族を人質に取るという、フィオーレ個人への攻撃については考慮していなかったのだろう。これはソルクスではなく、フィオーレの落ち度だ。なぜかすべてを彼に任せてしまえるような気がしていたが、そんなふうに甘えるべきではなかった。力が足りないかもしれないが、それでもフィオーレが自分で何とかすべきだったのだ。

 フィオーレの考えを読んだようにソルクスが首を横に振った。沈痛な表情で言う。

「これは私が注意しておくべきことだった。本当に済まない」

「いえ……」

 責任の押し付け合いならぬ責任の取り合いになってしまいそうなので、フィオーレは言葉少なに首を横に振った。

「それで……彼女は何と?」

「厚顔にも、君をモンティスの王城に呼ぼうとしているようだ。城に君の家族を招いているから、久しぶりに会いに来てはどうかと……」

 ラーラがなぜプルーウィスにいるのかと思ったが、この言伝のためだったのだろう。アーグムに近い彼女がわざわざ知らせを持ってきたのは、フィオーレに圧力をかける意図があるはずだ。向こうは何としてでも、フィオーレに招待を受けさせる気だ。

(どのみち、受けるしかないのだけど……)

 弟を人質に取られてしまっては、他にやりようもない。ソルクスはフィオーレに謝った。

「君ひとりを行かせはしない。私も一緒に行って、あの礼儀知らずのならず者に理解させてくる。君の家族に手を出したらどうなるかということを」

「……ありがたいし心強いですが、ほどほどにお願いします……」

 ソルクスが出てくれるなら話は早く済みそうだ。しかし分からないのが、なぜアーグムがフィオーレを呼び戻すようなことをするのかということだ。今のフィオーレはプルーウィス第一王子の婚約者なのだし、下手に関わるとプルーウィスを敵に回してしまいかねない。実際、こうしてソルクスが敵対的な姿勢になっている。

「向こうの狙いは何なのでしょう? わたくしを呼び戻して彼らに益があるとも思えないのですが。間接的にソルクス殿下をお招きしたいのだとしても、これでは心証が悪すぎるでしょうに……」

 首を傾げるフィオーレに、ソルクスは意味ありげな笑みを返した。

「向こうの思考を理解してやることなんてないよ。君の弟を助けて、向こうの王子を懲らしめて、それで終わり。単純な話だ」

「確かに、話をややこしくすることはありませんね」

 考えすぎて本質を見失ったりしては本末転倒だ。フィオーレが考えるべきなのは、パルセノを助けることだけ。そして二度とこういうことが起きないようにアーグムを牽制することができればなお良い。そのくらいのことだ。

 頷くフィオーレの頭を、ソルクスが撫でた。顔を赤くしたフィオーレは顔を上げて声を上げようとしたが、ソルクスがさらに強く撫でるので結局大人しくされるがままになった。

 彼がどんな表情をしているのか、フィオーレからは見えなかった。


 ラーラはプルーウィスにしばらく滞在し、フィオーレにちょっかいをかけ――ソルクスから先んじて話を聞いておいたおかげで翻弄されずに済んだ――、ソルクスに気のあるようなそぶりを見せ、ソルクスとフィオーレがプルーウィスを発つよりも少し前にモンティスへ帰っていった。

 そして、支度を済ませたソルクスとフィオーレは、彼女から数日遅れるかたちでモンティスへと向かっている。

 馬車の中で、フィオーレは気になっていたことを聞いてみた。

「ソルクス様……ラーラ様に何かされたりなんて……しませんよね?」

「ん? 気にしてくれるの?」

 ソルクスは少し笑い、フィオーレを悪戯っぽく覗き込んだ。美貌の持ち主がそんなことをすると破壊力が大きすぎる。フィオーレは手と首をぶんぶんと振った。

「違います! その……彼女への態度が冷たかったような気がして。何かされたわけではありませんよね?」

 フィオーレは心配して問うたのだ。ソルクスは「からかってごめんね」と謝りつつフィオーレの頬を撫でた。

「何もされていないよ。君以外にそういうことは許さないから安心して。そうではなくて、個人的に彼女が……というより、外見だけを見てころころ態度を変えるような人が嫌いなんだ」

「……? ソルクス様、彼女とそんなに面識がおありだったのですか?」

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