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 王妃はおしゃべりだった。ソルクスが言っていた、ある意味うるさいという意味が分かった。美味しいお茶菓子をたっぷりと頂きながらフィオーレは王妃の話に笑顔で相槌を打った。

(でも、まったく嫌な感じはしないわ……。賑やかで明るくて楽しい方ね)

 フィオーレとは真逆かもしれない。真面目くさって面白味がないとモンティスではさんざん言われた。だが王妃教育はフィオーレをそちらの方向に誘導したし、それに逆らうつもりもなかった。求められた役割をこなしていけばいいと思っていたのだが、それが間違いだったのだろうか。

「あら、浮かない顔をしていらっしゃるわね? なにか気になることでもおあり?」

「! すみません! ……少し、昔のことを思い出してしまって。妃殿下のように明るくなりたいのですが」

「ふふ、可愛いことを言ってくださるわね。でも無理することはないのよ」

「妃殿下も、ソルクス殿下も明るくていらして素敵だと思っていたのです。眩しくて……」

 眩しいのは美貌ばかりではない。気さくで明るい雰囲気が二人に共通している。そのうえで、過度に気安くなりすぎない高貴さとでも言うべきものがあると思う。

 王妃は小さく吹き出した。

「ふふっ! 今のあの子を見たらそうも思うかもしれないわね。でも、小さい頃はあんなのじゃなかったのよ? 明るさなんて欠片もなくて、人間不信で。……周りの悪意から守り切れなかった私に非があるのだけど……」

「え……いえ、そんな……」

 思いがけない話を聞かされてフィオーレはうろたえた。気になるが、これは突っ込んで聞いてもいいことなのだろうか。

「でも、あることをきっかけに見違えるように明るくなってね。良い出会いがあったのよね。……人生を変えるくらいの」

「……素敵ですね。それなら、良かったです」

 その出会いとは、もしかしたら女性が相手なのだろうか。なぜか胸がちくりと痛んだが、フィオーレは痛みを押し殺して微笑んだ。ソルクスが良い方向に変わったのだから喜ばしいことだ。掘り下げて聞いてみたいが、聞いてみるのが怖くもある。

 王妃はそんなフィオーレを意味ありげに見ていたが、満足そうににっこりと笑って立ち上がった。

「さて、糖分補給もしたことだし、まだまだ付き合ってもらうわよ。あなたの寸法に合うように他にもいろいろとドレスを作らせてあるの。お腹が苦しくなるようなものは避けるけど、それでもたくさんあるわ。着てみてちょうだい」

「え、ええ……!?」

 今回の細かい採寸ではなく、前回の採寸結果に沿って王妃はフィオーレ用のドレスを色々と用意してくれていたらしい。促されるままに部屋を移動すると、淡い色合いの可愛らしいものから古風な重厚なものまで様々なドレスが並んで掛けられていた。

「これらすべてを……ご用意くださったのですか……!?」

 王妃付きの侍女の手で手早く着せ替えられつつ、当のフィオーレは状況の理解が追い付かない。いま着せられているのは青いドレスで、裾が魚の鰭のように薄く優雅に広がっているものだ。伝承の人魚をモチーフにしているらしい。

 真珠の飾りをフィオーレの髪と首に手ずからつけつつ、王妃は大満足の笑みを浮かべた。

「ああ、これもすごく素敵! よく似合っているわ! 可愛いわねえ、私、ずっと娘が欲しかったの!」

 ソルクスは王妃の一人息子だ。王族は他にもいて姫と呼ばれる身分の者も何人もいるが、義理の娘になる者だとまた何か違うのだろうか。面食らったが、嫌だというわけではない。

(実の母とは疎遠だし……。それに、義理の母子……ということは……)

 自分がソルクスの婚約者であることは理解しているが、まだ実感が追い付いていない。こんなに良くしてもらっているのに、何かの間違いではないかという気がいまだにしているのだ。

(わたくしは……いずれ殿下と結婚、するのよね……?)

 それを考えると顔が勝手に熱を持ってしまう。婚約者という立場にまだ慣れない。

「初々しい表情も相まって可愛いわ! ぜひ絵に描かせたいわね。次はどれを着てもらおうかしら……」

 どうやら王妃は実用ではなく趣味としてこれらのドレスを用意したらしい。フィオーレは着せ替え人形になりながら、いったいこの趣味にどれだけのお金がかかっているのだろうかと空恐ろしくなった。しかもこれらすべてが、自分用に用意されたというのだ。

「どれもいいわね! やっぱり本物の女の子は違うわ……」

(本物の……?)

 王妃は着せ替え人形を持っているのだろうか。着せ替えで遊ぶならフィオーレよりも人形にドレスを用意する方がよほど安上りだと思うのだが、実際にこうやってあれこれと用意されて次々と着替えてみると、なんだか吹っ切れて楽しくなってきた。王妃はセンスがよく発想も豊かで、忙しい日常の息抜きにとドレスのデザインを考案したりしているのだそうだ。実際それらがフィオーレに似合っているので、さすがだと他人事のように感心しながらこの状況を楽しんでしまうことにした。

 あれこれと着替えて、最後に花をモチーフにしたと思われる繊細なドレスをフィオーレが纏うと、王妃は満足げな溜息をついた。

「ああ、楽しかったわ。付き合ってもらってありがとうね」

「いえ、こちらこそ楽しうございました」

 気疲れはしたが楽しかったのは確かだ。着替えが意外といい運動になったせいでフィオーレの頬に赤みがさし、目も輝いている。自覚のないその様子を見た王妃が笑った。

「いいわね。ねえ、あの子を呼んできて頂戴」

 王妃は侍女に言いつけ、ソルクスを呼びに行かせる。フィオーレは瞬いた。

(あれ……この流れ、どこかで……)

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