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鬱憤

「ちくしょう……!」

 モンティスの第一王子アーグムは荒々しくドアに拳を叩きつけた。その音に、ベッドの上にいた女性がびくりとする。アーグムの寵愛を受ける男爵令嬢のアマータだ。

 彼女の怯える様子は悪くないが、今はそれを楽しむ気分ではなかった。むしろ気分を逆撫でされて更に苛立つ。

 そちらに険しい視線を向けると、アマータは甘い声で媚びるように声をかけた。

「殿下、どうなさったの……?」

 それはアーグムを案じるものではなく、自分の身の危険を回避するためのものだ。こちらにおもねる様子に、アーグムは舌打ちを漏らした。

「どうでもいいだろう!? お前に説明する必要などない」

 彼女は鬱憤のはけ口になってはくれるが、相談相手にはなり得ない。それはむしろ、彼女ではなくて……

(……フィオーレ。あいつが……あいつのせいで……)

 自身の婚約者だった者のことを、アーグムはまるで自分の所有物であるかのように思い返した。

(あいつがいなくなってから、すべてがおかしくなっていった……)

 そもそも、アーグムはフィオーレを手放す気などなかったのだ。面白みのない冴えない女だとは思っていたが、利用価値はあった。なんでも彼女に押し付ければ済んだ。

 だが、彼女が自分の妃になると思うと我慢ならなかった。それはこのアマータのように、女性的な魅力に溢れた美女の方がふさわしい。アマータは男爵家の娘で王子妃になるには身分が足りないが、それを補って余りある魅力があった。

 フィオーレは公女で、ロージアの姫君であったが、その彼女との婚約を破棄してモンティスの男爵家の娘よりも下なのだと知らしめるのは気分がよかった。モンティスにはロージアを軽んじる風潮があるから、その場にいた多くの者もアーグムに追従して彼女を笑いものにした。いつも真面目くさって面白味がなく、女性的な魅力もない彼女なのだからそうした扱いが妥当だろう。

 だが、手放す気はなかった。貶めて笑いものにした後は、彼女の方から縋ってくれば再び拾い上げてやらないでもなかった。婚約者に戻すつもりはなかったし、あまり近くにいられても目障りだが、適当な立場を与えて働かせておけばいいと思っていた。

 彼女はモンティスに戻れない立場だし――モンティスの第一王子の機嫌を損ねたのだから、立場の弱いロージア側は彼女を庇うことができず、モンティスに頭を下げるしかない――、こちらに置いてほしいと懇願するだろうと予想していた。他に行く当てなどないはずだった。

(それなのに……プルーウィスだと!?)

 認めるのは癪だが、プルーウィスは大国だ。モンティスよりもはるかに力が強い。おいそれとは手が出せない相手だ。その国の第一王子がなぜか、フィオーレを拾い上げた。婚約を申し出た。

(絶対におかしいだろう!? モンティスの男爵家の娘以下だと貶められた者を、なぜ大国の王位継承者が拾い上げる!? 酔狂にもほどがあるだろう!?)

 そうは思ったが、あの場では何もできなかった。フィオーレを貶める言葉でプルーウィスの第一王子ソルクスが怒りをあらわにしたことで、彼女とは何もなかったという言質を取られて大勢の前での求婚を許してしまったのだ。あの場にいたすべての者が証人だ。フィオーレはソルクスの婚約者になった。

 アーグムは苛立ちを手近な物にぶつけた。なんだか重要そうなことが書いてある紙を破り、文鎮を投げて壁に穴を開け、カーテンを引きちぎる。フィオーレにこうして当たりたいと思ったことは何度もあるが、あれでも一国の公女で結婚前の娘なのだ。下手なことをしたらアーグムの立場が危うくなる。

 その点、国内の男爵家の娘でしかないアマータは都合がいい。第一王子たる自分の寵をねだってあんなにすり寄ってきたというのに、今は怯えた顔を見せている。

(それにしても……あいつはどこで、プルーウィスの第一王子などと知り合ったんだ!? まったく心当たりがないぞ!?)

 ソルクスの様子は明らかに、正義感でフィオーレを助けたいというだけのものではなかった。彼女に執着していることが誰の目にも明らかだった。一目惚れであそこまでは思い入れたりしないだろう。

(何度考えても、分からん……。あいつはモンティスかロージアから出たことがないはずだし、プルーウィスの第一王子がこちらに来る機会は限られていた。長期間の滞在もなかったし、仲を深めるのは無理だろう。そうなると、ロージアにいた頃のことか……?)

 プルーウィスの王族は他国と比べて数が多い。何親等だか知らないが傍系まで含むらしく、その人数の多さを生かして外交活動を行っているようだ。彼ら彼女らは子供の頃から実地で経験を積むそうだから、ソルクスもそうやってロージアに来たのかもしれない。少なくともモンティスに彼が来たという記憶はない。さすがに第一王子が来たら記憶に残っていると思うのだが。

(いや……そいつのことはこの際どうでもいい。問題はあいつだ、フィオーレだ! あいつがいなくなったせいで、俺が理不尽な目に遭っていることが問題なんだ!)

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