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婚約破棄

「フィオーレ・ロージア! お前との婚約を破棄する!」

 モンティス王国の王城の大ホール、華やかな舞踏会が行われている会場で、ロージア公国の公女フィオーレは婚約者アーグムから婚約破棄を突き付けられた。

 アーグム・モンティス。王国の第一王子である彼の傍らには、金の巻き毛をしどけなく下ろした豊満な美女が寄り添っている。王子の手は彼女の腰に回されており、ときおり熱い視線を交わし合う様子からは親密さが見て取れた。

 王子も金髪碧眼の美男子ではあるので、似合いの一対には見える。……娼婦と、娼婦に入れ上げた道楽息子という雰囲気ではあるが。

 だが、そんなことを考えている場合ではない。フィオーレの頭の中は真っ白になっていた。

(どうしよう……! わたくしが失敗してしまったら、母国ロージアがいいようにされてしまう……!)

 ロージア公国は小国だ。その国境の大部分がモンティス王国と接しており、王国なしでは民の生活が成り立たない。

 そんな公国から、フィオーレはほとんど人質同然にモンティス王国に連れて来られ、厳しい王妃教育を受けてきた。いずれ第一王子アーグムの妃になるために。その結びつきは公国の従属を象徴するものであると同時に、公国の安定をも保証するものになるはずだった。

 それが、潰えた。頭の中は真っ白、未来は真っ暗だ。

「は、泣きもしないか。どこまでも面白味のない女だ」

 アーグムは嘲った。フィオーレの表情はほとんど変わらない。少し目を瞠ったくらいだ。

 それもすべて、王妃教育の成果によるものだ。みだりに感情を表に出さないように。付け込まれないように。見苦しくならないように。身に染みついた教えが、フィオーレの顔を上げさせている。

 だが、心の中まで平気なわけではない。どうにか撤回させられないか、このまま引き下がっては母国に申し訳が立たない、色々な思いが渦巻いている。

 それが外には出ないだけだ。薄紅がかった金髪を隙なく結い上げ、ドレスも露出は必要最低限、化粧もきちんと施した――忙しさによる隈やくすみを隠すためにも必要だ――フィオーレのことを、お堅く面白味のない女だとアーグムが周囲に言っていたことは知っている。それもすべて、王妃教育の教えに従ってのことなのだが。

「本当、可愛げがないわね。泣きもしないし、縋りもしない。殿下、こんな女と別れられてよかったでしょう?」

「ああ。ロージアなどというあるかどうかも分からないような小国より、お前の家の領地の方が大きいのではないか? 女としての魅力もな」

「まあ、そんな」

 王子の手が、女性の腰よりも上へとのぼっていく。そこからさりげなく視線を外し、フィオーレはそっと腕をさすった。……自分にあんなことをされなくて良かったなどと、考えてはいけないのに。自分の魅力が足りなかったせいで窮地に陥っているというのに。

 モンティス王国中の人々が集まる舞踏会で、フィオーレは完全に孤立していた。パートナーとなるべき王子は別の女性の手を取り、フィオーレは打ち捨てられた。

 それはまるで、モンティス王国がロージア公国を軽んじていることを象徴するような見世物だった。

(駄目……ここで泣くなんて、絶対に駄目)

 そう教育されているからというだけでなく、みじめに泣くことなんて絶対にできない。母国のことを思うと涙が込み上げてきそうになるが、孤立無援の状況は泣きたくなるようなものだが、涙は絶対に見せてはいけない。

 周り中から笑われ、面白おかしく噂され、罵倒さえされる状況のなか、フィオーレは唇を噛んで涙を堪えた。

 そこに、差し出される手があった。

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