第14話 魔物退治
落ち着いてから考えるが、浄化は成功したがまだ問題は解決していない。
川を浄化したが、まだ上流に魔物が残っている。
そいつを対処しないと、また川が瘴気で汚れてしまう。
だから魔物を倒さないといけない。
私は周りの人たちに尋ねた。
「あの、魔物はまだ上流にいるんですよね?」
「ええ、そうなんです……」
農夫の男性が困ったように頷く。
「なかなか強い魔物らしくて、町の兵士達では対処がまだできていないんです」
「そうなんですか……」
私は眉をひそめる。
町の人たちも困っていて、口々に言う。
「早く王都から兵士が来ないかと待ちわびているんですが……」
「いつ来るかわからなくて」
「このままじゃ、また川が汚れてしまう」
その声には、不安が混じっている。
私もまだ強い攻撃魔法などを覚えているわけではない。
水魔法の浄化は得意だけど、戦闘は無理。
さすがに魔物を倒すのは無理だ。
やはり王都の兵士を待つしかないのかと思っていたが――。
「じゃあ、私が倒しますよ」
セドリックが、さらっと言った。
「えっ?」
私や周りの人たちが、驚いて彼を見る。
彼は穏やかに笑っていた。
「本当に倒せるんですか?」
私が慌てて聞く。
魔物って、危険なんじゃ……。
セドリックは頷いた。
「学園の実習でも魔物を倒すこともあるので、よほどのものじゃない限り倒せると思います」
その言葉に、周りの人たちがざわめく。
「本当ですか!?」
「だったら、ぜひお願いします!」
「助かります!」
口々に頼む声。
セドリックは断らず、頷いた。
「わかりました。では、上流に向かいます」
私は心配だった。
いくら学園で実習をしているとはいえ、魔物は危険だ。
もし何かあったら……。
そう思うと、胸がぎゅっと締め付けられる。
「私も、一緒に行きます」
私は、そう言い切った。
セドリックが驚いたように目を見開く。
「アメリア、でも――」
「一緒に行きます」
譲らない。
彼一人で行かせるなんて、できない。
セドリックは少し困ったように笑った。
「わかりました。では、一緒に」
私たちは川の上流にまず馬車で移動する。
馬車に揺られながら、私は窓の外を見る。
景色が変わっていく。
町から離れ、森が深くなっていく。
木々が密集し、道が細くなっていく。
やがて、馬車が止まった。
「ここから先は、道が険しいので歩きで移動します」
御者がそう言う。
私たちは馬車を降りた。
セドリックは、私を見て言った。
「僕一人で行きますから、アメリアはここで――」
「一緒に行きます」
私は、かたくなに言い張った。
彼の目を見て、譲らない。
セドリックは、ため息をついた。
「……わかりました」
そして、真剣な顔で続ける。
「でも、僕より前に出ないでください」
その言葉に、私はドキッとする。
私を、守ろうとしてくれている。
胸が温かくなる。
「わかりました」
私は、素直に頷いた。
二人は、川沿いに歩き始める。
道は険しい。
石がごろごろしていて、足場が悪い。
木の根が地面から飛び出していて、つまずきそうになる。
私は慎重に歩く。
でも、やはり足を取られる。
「わっ……!」
転びそうになる。
その瞬間、セドリックが振り返って私を抱きとめた。
「大丈夫ですか?」
彼の腕が、私の腰を支える。
顔が、近い……!
心臓が跳ねる。
「だ、大丈夫です……」
私は慌てて体を離す。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、セドリックは少し考えるような顔をした。
「おんぶして運びましょうか?」
冗談気味にそんなことを言った。
その言葉に、私の顔がまた熱くなる。
おんぶ……推しに、おんぶされる……?
いや、待って、それは心臓が持たない。
「だ、大丈夫です」
私は平静を保って答える。
でも、心の中は大騒ぎだ。
セドリックは、少し残念そうに笑った。
「そうですか。では、気をつけて歩いてください」
「はい」
私は、頷いた。
そして、また歩き始める。
今度は、もっと慎重に。
セドリックが時々振り返って、私を確認する。
その優しさが、嬉しい。
そんなこんなで上流の方に歩いていると、前を歩いていたセドリックが急に立ち止まった。
私は、ぶつかりそうになって慌てて止まる。
「どうしたんですか?」
聞こうとしたら、セドリックが静かに、と小さく言った。
人差し指を唇に当てる。
私は息を呑んで、黙る。
彼が、指を指す方向を見る。
そこに、魔物がいた。
五体ほどの狼型の魔物。
灰色の毛皮で、鋭い牙。
赤い目が、不気味に光っている。
川の水を飲んでいる。
どうやら、あれが上流に住み着いている魔物のようだ。
しかも、五体もいる。
一体だけだと思っていたのに。
とても危険だ。
私はセドリックの袖を引いた。
「セドリック、危ないですよ……!」
小さな声で言う。
「いえ、あれなら問題ありません」
でも、セドリックはいけると判断したらしい。
彼は、私を見て微笑んだ。
「ここにいてください」
そう言って、前に出る。
私は不安で胸がいっぱいになる。
「セドリック……」
彼は魔物たちに近づいていく。
すると、五体が気づいた。
警戒したようにセドリックを睨む。
耳を立て、牙を剥く。低い唸り声。
そして、一体が襲ってきた。
地面を蹴り、跳躍する。
鋭い牙が、セドリックに迫る。
「っ……!」
噛まれる、と思った瞬間――。
セドリックが、手を上げた。
「凍れ」
短い詠唱。
瞬間、五体全員が氷像となった。
動きが、止まる。
空中で跳躍していた魔物も、そのまま凍りついている。
セドリックの目の前で噛もうとしていた魔物は、牙を剥いたまま氷像になっている。
時間が、止まったように見える。
私は、呆然とその光景を見ていた。
一瞬で、五体全部を倒してしまった。
私は、駆け寄った。
「セドリック……!」
氷像に近づく。
触ってみる。
冷たくて硬い。
本当に、氷になっている。
「すごい……」
私は、感嘆の声を漏らす。
セドリックは、穏やかに笑った。
「このぐらいは問題ないですよ」
さらっと言うけど、今の魔法は本当にすごかった。
一瞬で、複数の敵を無力化する。
さすが首席、そして私の推し。
私の心の中で、尊いの花火が上がる。
でも、氷を出したからか、周りの空気が冷たくなっている。
私は少し寒くなってきて、思わずくしゃみをしてしまった。
「くしゅん!」
その音に、セドリックが振り返った。
「寒いですか?」
「少し……」
私は、腕をさする。
セドリックは、すぐに上着を脱いだ。
そして、私の肩にかけてくれた。
「これを」
「え、でも……」
「僕は大丈夫です。魔法を使った後は、体が温かいので」
そう言って微笑む。
彼の上着……温かい。
そして、彼の匂いがする。
ほのかに、石鹸の香り。
まさか推しが直前まで着ていた服を着せられるなんて……!
ご褒美のような、罰のような……いや罰じゃないわね、絶対に。
でもそれくらい私にはダメージが大きい。
顔が熱くなってしまう。
「あ、ありがとうございます……」
私は照れながらお礼を言った。
「では、帰りましょうか」
「ええ」
そして、二人で来た道を戻り始めた。
上着を着たまま、歩く。
セドリックの匂いに包まれながら。
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