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蜻蛉商会のヒトガミ様 ~死にたがりな神様は、過保護なあやかし従者たちに執着され、今日も鳥籠の中から出ることを許されません〜  作者: 御崎菟翔
第二部

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68. 主神の顕現

「奏太様、ご指示の通りに日石をお持ちしましたが……これ、どうするんです?」


 部屋を出てエントランスに向かう途中。奏太の指示で日石を取りに行っていた巽がタタタッとかけてきた。その両手の上には小さな日石が三つ。


「ありがとう」


 奏太はそう言いながら受け取り、何気ない動作で、両手で包み込むようにして力を込めた。純白の光が手のひらから溢れ、日石を輝く色に染め上げる。その中に、奏太は周囲に悟られないよう、そっと金の光を押し込む。


「奏太様っ!!」


 漏れ出す光に金が溶けている事に気づいた亘に止められた時には、既に日石には白と金の力がいっぱいに込められていて、日石とは思えない輝きを放っていた。


「これくらいの力なら、問題なく使えるよ」


 力の放出による体のだるさを隠しながら、奏太は笑顔を作る。なるべく多くの神力をと詰め込んだのが良くなかったらしい。


「それより、はい。これ」


 表情を歪める亘と、不安気な椿に、奏太は日石を一つずつ差し出した。しかし、亘と椿は受け取ろうとしない。


「奏太様、我らの守りの為に御自身を削るのはおやめください」


 椿が切実に、懇願するように言う。

 亘もまた、苦々しげに日石を見下ろした。


「我らは、貴方の力を込めた御守りを持たせるほど頼りないと?」

「そういうわけじゃないよ。ちゃんと信頼してるから、これを渡すんだ」


 二人の怪訝な目が向いて、奏太は小さく肩を竦めて見せた。

 

 正直なところ、二人の御守りという意味合いが無いわけではない。ハガネや闇の女神が何を企んでいるか分からない以上、備えはしておきたい。一緒に連れて行く二人に何かがあっては堪らない。でも、それだけではない。

 

「この前のこともあるし、闇の女神の力で動けなくなった時に、自分の力が外にあった方がいいと思って。楓ちゃんの力をまた借りるわけにはいかないし。あと、闇の女神が現れた時に、俺自身が動けなくても金の力があれば対抗できる。万が一の時の備えだよ」


 言い訳がましく聞こえないように言ったつもりだが、亘は未だに疑念の籠った目のままだ。


「念のため自分でも持っておくけど、何があるか分からない。俺がこの前みたいに闇に支配されたら、それで助けてよ。信頼してる二人に保険をかけておくんだ。頼むよ」


 もう一つは、楓の為に用意したものだが、ここで一々言う必要もない。


 奏太が押し付けるように二人に日石を渡すと、二人はようやく、渋々といった様子で日石を受け取った。

 

 

 エントランスに戻ると、燐鳳と同じく、完全に上辺の笑顔を消した玄が、朱と共に待っていた。


 着いてきていた者達を押し留めて二人のそばに行くと、玄が低い声を出す。


「分かっておいでですね? 我が君」

「お前こそ、他の誰にも手を出すなって言ってあったはずだ」


 奏太が睨むと、玄は、ハッと声を上げて嘲笑した。それから、ツカツカと奏太の横までやってきて耳元に顔を寄せる。


「御自分の罪を棚に上げて、よくもそのような事を。この場で全てを明かしても良いのですよ」

「それとこれとは話が別だ。封印されたくなければ、これ以上、人界の者に手を出すな。亘達も含めてだ」


 背後に控える者達から見えない位置で、玄の手が奏太の首に伸びる。


「御自身が犯した罪を、正しく理解いただけていないようだ。これでは、いつもの罰では足りなさそうですね」


 奏太はギュッと奥歯を噛んだ。


「……俺に対してだけなら、お前の好きなようにすればいい」

「相変わらず、潔いことで」

「やめないか、玄」


 近くにいた朱が、グッと玄の腕を掴んで奏太から引き離す。


「邪魔者は、きちんと追い払っておいてくださいね、我が君」


 玄はそう、鼻で笑った。



 光耀教会門前。

 巽の知らせを受けたセキが、白日教会から駆けつけていた。


「ごめん、セキ。すぐに来てもらって」

「いえ、貴方様の要請であれば、なんなりと」


 セキは恭しく頭を下げつつ、明らかにギスギスした雰囲気の面々を見て頬を引きつらせた。


「ハガネが、光耀教会のどこかにいるはずなんだ。人間の女の子を連れて。光耀教会ぐるみだと思う?」

「いえ。光耀教会の枢機卿、サイは、むしろ、ハガネの行方を捜しているようでした。先の事件で国からの探りがあったので……」


 セキはそう言うと、玄と朱を見やった。

 朱は、眉を下げる。

 

「鳴響商会と聖教会の繋がり、巽の一件、いずれも奏太様を狙うものでしたから、人妖保護の名目で国の力を使って詳しく調べに入ったのです。ただ、ハガネ大司教の周辺以外に、奏太様に関わるものが見つからず」

「少なくとも巽の一件は、ここの枢機卿が関わってたって聞いたけど」

「あくまで、日の力を使う白日教会の司祭を引き入れる手助けをしただけだと。巽への行いも否認され、関与の証拠は出ませんでした」


 巽から、あの時の事を詳しく聞いた時には、確かに枢機卿の名前も出ていた。けれど、セキを引き止め巽から引き離したこと以上の何かをされたとは言っていなかった。


「サイ枢機卿は、俺の正体を知ってるのか?」

「いえ、日の力を使う司祭とだけ。ただ、貴方が何者かを知れば、御前に膝をつき頭を垂れないわけにはいきません」

「セキの言葉だけじゃ足りないのか?」


 奏太の言葉に、セキは、後悔とも諦めともつかない顔でゆっくり首を振った。


「私は、アレに恨まれているので……」


 何か、事情があることは分かった。

 セキの力で足りないなら、奏太自身の立場を使うしかない。なるべく隠していたかったが、楓を救うための最短距離なら仕方ないと割り切るべきだ。


「枢機卿のところまでは行けそうか? 効率よく探すなら、一番上を押さえたほうが早い」

「それでしたら、どうか、お任せください」


 セキは申し訳無さそうに頭を下げた。


 

 通常、教会関係者は、白日、光耀関係なく、聖教会内に自由に立ち入りができる。そのうえ、それが白日教会の枢機卿であれば、その後ろにどれほど異様な者達が続いていようが文句を言えるような者はいない。


 枢機卿、人の司祭、その護衛。その後に国の紋章のブローチをつけた玄と朱、さらにその後ろに、燐鳳につけられた妖界の武官達が続いていても、だ。


 異変を感じ取って青ざめた者が数名、どこかに走り去っていくのが見えた。

 

 そこからさらに数分後。

 枢機卿の執務室に近づいたところで、慌てた様子で駆け寄り立ち塞がる者があった。光耀教会のブローチをつけた司祭服の男。


「お、お待ちください! どちらに――」

「サイに用がある。取り次いでくれるかい?」


 セキの言葉に、男は『やっぱり』という顔でブンブンと頭を振った。


「猊下は只今、貴族の方の対応中でして、お取り次ぎは致しかねます!」

「ここではなく、応接室か」


 セキはそう呟くと、チラッと自分の後ろに続く者達を振り返った。


「ならば、そちらに案内を」

「で、ですから――」

「国王陛下の側近二名がお見えだ。事の重大さがわからないか?」

 

 セキの視線の先を追った男は、玄と朱の顔と胸元のブローチにピタリと目を留めて、サアっと顔色を失った。


「ああ、君の顔には見覚えがあるな。人妖保護に抵触した事情聴取と罪人の引き取りで踏み込んだ時にも、邪魔をしてきた顔だ」


 玄が冷えきった目とは裏腹の柔和な声音で言うと、男はヒッと小さく声を上げた。


 怯えた男の様子に、朱が胡乱な目を玄に向ける。


「……何をしたんだ?」

「罪人を庇って逃亡幇助を図ろうとした者を片っ端から捕らえただけだよ。あまりに抵抗する者には少々手荒になってしまったが。ああ、殺してはいないから、安心しろ」 


 玄はにこやかに笑いながら、朱にパッと両手を広げて見せた。


 『少々手荒』『殺してはいない』と言うその実態は、あまり想像したいものではない。


「今回もまた、光耀教会に人妖保護法抵触の疑いがかかっている。素直に案内、してくれるね?」


 不穏な笑みのまま、蛇のような鋭い視線で玄が睨むと、男はガタガタ震え出しながら、ゴクリと生唾を飲み込んだ。


「ご……ご案内、いたします」


 司祭に連れられ辿り着いた応接室。しかし、司祭がドアをノックし呼びかけても、中から反応がない。恐る恐る振り返った司祭が、玄の仮面めいた笑みをみて青褪めたのがわかった。助けてくれと言わんばかりに執拗にノックをすると、ようやく、サイ枢機卿が出てくる。


「何事だ、騒がしい」


 サイは舌打ちせんばかりの忌々しそうな目で司祭を睨んだ。それから、その後ろに控える者達に視線を一巡させる。


「セキか。それに、国王陛下の侍従殿。また何か問題が? 御覧の通り、取り込み中なのですが」


 僅かに開いた扉をパタリと閉めてサイが言う。更に、視線はそのまま奏太に向いた。


「また、白日教会の司祭関連で?」


 厄介者を見るような蔑みの目。ただ人妖を見下すのとは違う、酷い嫌悪が混じっているような色がある。

 けれど、今はそんな事に構っている場合ではない。奏太はセキの前に一歩出た。


「ハガネの行方を聞きたい。この光耀教会にいるはずだ」


 すると、サイの目がスッと細められた。

 

「たかが司祭が、何と不敬な。セキ、白日教会の教育はどうなっている?」

「サイ。この方は、ただの司祭ではない」


 セキの言葉に、サイはフンと鼻を鳴らした。


「破滅をもたらす日の女神の血筋、か?」

「破滅?」


 奏太は怪訝に眉根を寄せる。闇の女神に対する発言であれば理解できるが、日の女神は鬼界の救い主の一人だ。聖教会の信仰対象でもある。それを、聖教会の枢機卿が貶めるのが不可解で、奏太はセキに目を向けた。

 

 すると、セキは言いにくそうに声を低くした。


「サイは、私と同郷。日の女神の訪れによって、日の力の不正所持を問われて焼かれた“奇跡の村”の生き残りです」

「奇跡の村、か」

 

 先帝白月が鬼界に降り立ち、偶然会ったセキに連れられて最初に訪れた村。陽の気の不足でその日の食べ物にも困窮した村に恵みをもたらしたのだが、日の力を求める当時の領主の嫉妬と強欲によって焼かれてしまった悲劇の村だ。


「白と金の御力で鬼界を満たし、この世に等しく恵みをもたらした秩序の神こそが、唯一絶対の真なる神。日の力を使うだけの紛い物を女神と崇めるなど、秩序の神への冒涜だ。その力を受け継ぐ君も、ね」


 サイは吐き捨てるように言う。

 

「先祖の咎を償うなら、白日教会ではなく、聖教会全体のために日の力を使ったらどうだい? 白日教会の人の司祭」


 以前、光耀教会が奏太を手に入れようとして巽を生死の境まで追いやった事件。その根底にある思想がよくわかった。日の力を使う者は故郷を奪った者の血族。『真なる秩序の神』を冒涜する存在。だから、その力諸共管理し利用しようとしたということだ。身勝手すぎて反吐が出る。


「日の女神は紛い物、か。逆恨みで従姉のことを悪く言わないでもらいたいけど、秩序の神の言葉なら素直に聞くんだな?」


 奏太が言えば、サイは小馬鹿にしたように笑う。

 

「たかが人妖の司祭が、何を言い出すかと思えば」


 不遜なサイの態度に、背後から大きな舌打ちが聞こえた。ほぼ確実に玄だろう。これ以上、会話を引き延ばす意味も利もない。問答するだけ時間の無駄だ。


 奏太はサイを一瞥すると、自分の手のひらを見下ろし、指先に力を込めた。金の力を、ほんの僅かに――自分で制御が利く分だけ解放する。指先から次第に白と金の光が肌に滲みだし、光の膜が肌を薄く覆っていく。肌を滑り広がる光に、司祭服が照らされ神々しく浮かび上がった。それは、この世のものではない、天上世界の聖なる美、その片鱗。瞳にも、全てを飲み込む金の幕が張る。

 静寂が訪れ、一切の音が消えた中、鈴を鳴らすような神言が響く。


「ただの人妖でも、ただの司祭でもないから、質問に答えてくれるかな? ハガネはどこだ?」


 息をするのも憚られるような、ピンと張り詰め冷えきった空気。


――秩序の神の顕現。


 誰も動けず、ただそこに縫い付けられたように立ちつくした。


「何と、美しい」


 玄のうっとりした声が、奇妙に反響する。

 

 サイは顔に驚愕と畏怖を混ぜたような表情を浮かべて息を呑んだ。そのまま、立っていられないとばかりにガクとその場に膝を折る。低く、低く、床に頭をつけるように神の威光に頭を垂れて。


 しかし、それは一瞬のことだった。ふらりと、奏太の身体が揺れ、肌に纏う白と金の光がフッと消失する。

 

「奏太様!!」


 崩れかけたところで、我に返ったように駆け寄る亘にガシッと支えられた。恐怖に歪んだ顔が覗く。


「……ごめん、大丈夫」

「何ということを、なさるのですか」 

「これくらいなら、大丈夫だと思ったんだけど……」


 金の力を大量に放出したわけじゃない。ただ、身体にほんの僅かに纏わせただけ。それなのに、身体の消耗が想像以上に激しい。力に身体が耐えられないとばかりに。


「あのまま呑まれていたら、貴方は――」

「呑まれていたら? 神にお戻りになったのですか? 金の御力の使用が、貴方を神たらしめようとしている、ということでしょうか」


 揺れる亘の声とは対照的な、隠し切れぬ歓喜と愉悦に満ちた玄の声。


「玄、お前は――」

「亘、気にしなくていい」


 しかし、亘は厳しい表情を、玄に向ける。


「お前は、この方の、神への回帰を望むのか?」

「望まぬ者など、お前達人界からの眷属だけだよ。ほら、よく見ろ。全てが神に膝をつき頭を垂れている。我ら眷属以外は」


 周囲を見回せば、サイだけではなく、鬼界の者達も、護衛に連れてきていた妖界の武官達も、眷属以外の全てがその場に平伏していた。


 奏太を支える亘の手に力が入り、引き寄せられる。玄から少しでも離し守ろうと。


「そう構えるな。秩序の神を守るという意味では、俺もお前も、目的は同じ。今までだって、そうだっただろう?」

「亘、玄の言うとおりだよ。俺は、大丈夫だから」


 奏太は亘の腕を軽く叩く。こんなところで諍いを起こしている場合ではないし、何より、このまま二人に問答を続けさせて、これ以上、玄に余計な事を言われては堪らない。


「しかし――」

 

 亘が否定の言葉を続けようとしたのを、奏太は首を横に振って止めた。


「今は、楓ちゃんを助けるのが最優先だ。早く見つけて、早く帰ろう」


 奏太はそう言うと、肩を支える亘の体を押して自力で体勢を立て直した。

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