表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蜻蛉商会のヒトガミ様 ~あやかし商会の死にたがりな神様は、過保護な最強従者たちに溺愛され、今日も鳥籠の中から出ることを許されません~  作者: 御崎菟翔
第二部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/61

54. 屋敷の結界の修復

「とりあえず、屋敷の結界を強固にしておくか」


 奏太はギッと椅子を鳴らし立ち上がる。


「朱、破壊された場所は、日石で応急処置をしたって前に報告を聞いたけど、状態は?」

「奏太様が繕うようにはいきませんから、あくまで一時しのぎですね」


 朱の言葉に奏太はコクンと頷いた。


「巽、燐。朱と屋敷の結界の状態を見てくるから、休んでていいよ。情報共有、お疲れ」

「貴方様が動かれているのに、休んでいるわけには参りません。私も同行いたします」


 いつの間にか立ち上がっていた燐鳳が、当然のように奏太の背後に控える。


「……お前まで来たら、護衛の数が足りなくなるだろ。結界があるとは言え、一度は破られた場所だし、警戒しないと」

「ならば、貴方の護衛も、朱殿御一人では足りません」

「朱は大丈夫だよ。先代の神から直接受けた力は伊達じゃないから」


 奏太が言えば、燐鳳は一瞬不満げな顔をしてから、ニコリと笑った。


「いずれにせよ、護衛は多ければ多いほど良いでしょう」


 燐鳳は、畳んだ扇をテーブルに、タン、タンッ! と二度叩きつける。すると、すぐにガチャリと扉が開き、縁の顔が覗いた。


「お呼びでしょうか」

「商会にいる者の中から、腕利きの者を上から五名ほど急ぎ用意せよ。主上が外にお出になる」

「承知いたしました。ただちに」

 

 縁はそれだけ告げると、音もなく扉の向こうへ消えていった。

 

 人界への帰還時から、燐鳳の後ろで所在なげにしているのは知っていたが……まさか、本当に小間使いのように扱われているのだろうか。


「……うわぁ~……縁さん、かわいそうに……」


 巽も同じことを思ったのか、奏太の背後で怯えたような声を漏らした。それが燐鳳に聞こえたのか、鋭い視線が飛んでくる。巽はやっぱり、一言多い。


「にしても、五名も必要か?」

「私の護衛も必要だと仰ったのは奏太様ではありませんか」

「それはそうだけど……」


 何というか、これまでの鬼界生活に比べて、明らかに締め付けが厳しくなった気がする。雁字搦めにされそうな予感に、奏太は密かにため息をついた。


 

 武官たちが集まると、異変を察したのか、その中に亘も混じっていた。


「……休んでろって言ったのに」

「外に出る時には、私か椿を呼んでくださいと、常々お伝えしていたはずですが」

「朱もいるし、結界の内側だぞ」

「約束は約束です」


 亘は、全く譲る気配はない。


 結局、朱、亘、燐鳳、武官五名、ついでに巽と、燐鳳の小間使いとなった縁も連れて、ゾロゾロと結界が破壊された場所に向かうことになった。


 そこは、以前に鬼の子が結界に触れてしまい、椿に手当てをさせた場所。


「その鬼の子が、奴隷商の偵察だったんです。どうか、御自分から鬼に関わるような真似はおやめください、奏太様」


 巽に、眉尻を下げてそう懇願された。


 結界の破壊された部分は、応急処置と聞いていたように、触れてみると周囲よりも気の力が弱く感じられる。


「ちょっと、強めに補強しておこうか」

「奏太様」

「大丈夫だよ、亘。使うのは、基本的に陽の気の方だから」


 奏太は結界に触れながら、少しずつ、屋敷全体を包む陽の気に馴染ませるように自分の力を注いでいく。あの事件で失った力は、完全ではないにしろ、陽の神の助けを借りずとも扱える程度には回復していた。


(……とはいえ、闇の女神が関わってるなら、対抗できる力で、強固にここを覆っておいた方がいいんだよな)


 『全てを壊す』。そう宣告した闇の女神にとって、この商会は最も狙いやすい場所。


 闇の女神は、厳密には神ではない。上位の神々に力を奪われた元神だ。真なる神の力で守りさえすれば、いかなる闇の力をもってしても、そう容易くは破れないはずだ。


 奏太は、白い陽の気に、金の力をほんの僅かに混ぜた。完璧に混ぜることはできない。それをすれば、いつ自分が自分でなくなるかわからないから。


 手加減しながら、少しずつ、慎重に。

 奏太は、確かに細心の注意を払っていたはずだった。

 

 しかし、金の力を注ぐにつれ、周囲の音が遠のき、意識が自分の内側、そして掌から溢れ出す金の光へと吸い込まれていくような、奇妙な感覚に呑まれ始めた。


 無に囚われていくような静寂。皮膚を撫でていた風の感触もなくなり、視界すら金に覆われる。頭の中に、奏太の知らない世界の風景が掠め――


 不意に、肩を強く掴まれた。

 その衝撃で、意識が急激に現実へと引き戻される。足元がふらつき、崩れ落ちそうになった身体を、強い力が支えた。


「――奏太様っ!!」


 焦燥に満ちた亘の声が耳に響く。


「……あ……、え……?」


 目の前にいる亘の瞳。そこに映る自分は金色の双眸をしている。それが、すうっと黒に戻っていくのが見えた。


「……俺、今……」


 言いかけたところで、亘に思い切り引き寄せられて、そのままグッと痛いくらいに抱きしめられた。亘から、微かな震えが伝わってくる。


「……俺、どうなってた?」


 亘の肩越しに周囲を見渡すと、巽が青ざめた顔で声を震わせた。


「結界に金が混じり始めて……わ、亘さんと燐鳳殿がすぐに止めに入ったんですけど、反応が……なくて……奏太様の瞳が金に染まっていって……御身体からも、金の……」

「あの方との同化が、始まりかけていた、ということです。我が君」


 朱が冷静に、けれど憐れむような響きを込めて告げた。


 『あの方』――つまり、先代秩序の神との同化……


 奏太は、亘に支えられたまま、自分の手のひらを見下ろす。


 事件の後遺症か、あるいは、玄に無理やり神の力を引き出された影響かはわからない。でも、朱に言われるまでもない。意識が、秩序の神という巨大な存在に呑み込まれかけていた。あのまま誰にも止められなければ、きっと自分は――


「……ごめん……亘。約束、ふいにするところだった……」


 出来るだけ長く日向奏太でいる、という約束。奏太にとって、亘達の次に大事なもののはずなのに。


「奏太様、金の御力をお使いになるのは、金輪際、おやめください」


 燐鳳の声は硬い。表情こそ冷静を装っているが、握りしめた拳が白くなるほど震えていた。

 

「……気をつける……ごめん……」

 

 奏太は弱々しく答え、朱に視線を向けた。


「朱、今後の力の使い方について、部屋に戻って、ちょっと相談したい」

「ええ。承知しました」


 見上げれば、白にキラキラとした金の粒子の混じる結界が、屋敷の周囲に一切の隙間なく張り巡らされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ