閑話.先代眷属達の密談:side.玄
王城の地下牢。白が捕らえた鳴響商会の商会長が全身を赤く染め石床に転がっている。玄はそれを冷たい目で見下ろしドッと蹴った。
男は、既に虫の息。秩序の神を汚した報いを、制約に触れない範囲で玄自身の手で受けさせた為だ。自分の手にねっとりと付いた赤黒い血すら穢らわしくて虫唾が走る。
懐から取り出したハンカチで拭ってみたが、気休めにしかならない。玄はそれをパッと床に投げ捨てた。
「マソホ、妖界の薬でも使って回復させとけ。死ねない苦痛を思い知らせる必要がある」
玄は、表向き仕えている国王に向かって雑に指示を飛ばす。
「それは構わないが、あの方がお厭いになるのでは?」
「知らせる必要があるか? 捕らえて処刑した、という結果だけで十分だ」
「しかし……」
マソホの煮え切らない態度に、玄は口元を歪めた。
「たかが鬼ごときが神の尊厳を汚しておいて、与えられる罰がそんなに軽くちゃ困るんだよ。結果的にあの方の身体を弱らせてくれたのは良かったが、やり方がマズかったってことだ」
玄の言葉に、今まで黙って見ていた朱が、ピクリと反応する。
「言葉が過ぎる、玄」
「何がだ? 事実だろう。この塵が禁忌に触れたことも、結果、あの方の身体が崩れかけて助かるということも」
「やめないか、玄。あの方は、奏太様が奏太様であることを許容し我らに託したのだぞ」
朱の声音が厳しく響く。しかし、玄はそれを受け流しながら肩を竦めた。
「だから、結果論だと言っている。我ら眷属は、直接間接関係なく、絶対者である神には本質的に逆らえない。だが、真に仕えるべき秩序の神のお戻りを願うことが叛意になるか?」
玄が言えば、マソホは納得いかなそうに眉根を寄せた。
「……何故、貴方がたが、あの方の終わりを?」
それに答えたのは、壁に背を預け腕を組んで立つ白。
「我らがあの方に忠誠を尽くしてお仕えしていることに変わりはない。ただ、玄は不完全な状態の主を許容できないと言っているのだ。奏太様に同化して一つになった秩序の神は、未だ、奏太様の身体の中で抑えられてる状態だからな」
白の言葉を引き継ぐように、玄が苛立ち交じりに吐き捨てる。
「本来、人である日向奏太という器にいつまでも収まっていて良い方ではない。陽の神と先代秩序の神の子孫であり、どちらの御力も持ち、秩序の神を継がれた何よりも尊いお方。それにふさわしい状態であるべきだ」
一方で、朱はその様子を見ながら息を吐き出す。
「奏太様御自身が望む内は今のままで良いと、私は思うけれどね。それが先代のご意思だ」
それに、白は曖昧に首を捻った。
「私も、あの方の決意が整わぬ間はそれでも良いと思ってる。玄ほど、早く本来の神の力を取り戻すべきとも思わぬ。が、もう、その器が限界だろう。遅かれ早かれ、その日はやってくる」
主の本来の姿を取り戻すことに積極的でない態度の朱と白に、玄はチッと舌打ちをした。
「お前らには、神の眷属という矜持がないのか? あの方の記憶が戻ってほしいと思わぬのか?」
自分たちは、秩序の神の眷属。決して、鬼に捕まり良いようにされるような、人、日向奏太の眷属ではない。あの方が、秩序の神だから、仕えているのだ。
「うぅぅ……」
気がついたらしい足元の鬼が呻く。
それを玄は力いっぱいに踏みつけた。
「下等な鬼ごときが」
鬼も、妖も、人も、本来、あの方の前ではその頭すら上げてはならない。跪き崇拝すべき方。それが、人の身にしがみつき、あろうことか神聖なはずのその身をこんな屑に、そう思うだけで腸が煮えくり返る。
「楽に死ねると思うなよ」
玄は、憤りをぶつけるように、そう吐き捨てた。




