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蜻蛉商会のヒトガミ様 ~過保護な護衛に怒られながら、鬼の世の闇を祓う~  作者: 御崎菟翔


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4. 貴族の館②

 軍の者たちが入ってしばらくしてから、奏太達もその後を追うように屋敷内に入った。

 

「……にしても、闇の発生地は相変わらず嫌な雰囲気だな」

 

 扉を開けた途端、グワッと声とも言えない声を上げながら襲って来た虚鬼(こき)を亘が鈍色の刀で斬り捨てるのを見ながら、奏太はボソッと言った。

 

 薄暗い屋敷内。光源はところどころにある小さなランプだけ。


 数日前までは、明るく照らされ屋敷の者達が行き交っていただろうエントランスも、今や変わり果てたものになっている。

 鬼の遺体があちこちに転がり、床や壁には血が飛び散るような状態だ。

 

「あれだけの口を叩いておいて、軍の者たちは虚鬼を始末しきれていないではありませんか」


 椿は、遠くを徘徊する虚鬼に目を向けて不満げにこぼした。

 虚鬼は声に反応して奏太達の方へダッと駆け出してきたが、椿が危なげなく対処する。

 

 確かに、あそこまで言うなら、仕事はきっちり済ませておいて欲しかったと、奏太も思う。

 

「発生源は、三階の一番奥だったな」

「ええ。ですが、軍の者達の姿を見ませんね」

「……確かに」


 倒し漏れていた虚鬼がいたとしても、ここまで誰も居ないのは不自然だ。


「……まさかと思うけど、功を焦って、早々に闇の発生源に向かったとかじゃないよな?」


 何だか嫌な予感がしながらも、階段を登ろうとしたその時だった。


「う……うわぁぁぁっ!!!」 

「近づくな!! 取り込まれる!!」

「早く逃げろ!」

 

 周囲のおどろおどろしい雰囲気を切り裂くような悲鳴が響いた。


「……あぁ〜〜……」


 思わず、奏太から声が漏れ出た。

 

 階段を上る途中、ガチャガチャと鎧を揺らしながら一目散に逃げていく者たちとすれ違ったが、誰も奏太達に目もくれない。


 三階に出ると、長い廊下の突き当たりがこれでもかと言うくらいに真っ黒に塗りつぶされ、そこから溢れた濃い闇によって、まるで黒い靄でもかかったかのように廊下全体が覆われていた。


 そこには、先ほど奏太に突っかかってきていた大男と五名ほどが、表情もなく闇の中を徘徊している。

 軍の鎧を着た者が複数倒れているのは、闇に取り込まれ仲間内で殺し合った結果だろうか。


「奏太様」

「わかってる。一気に焼いたほうがよさそうだ。残ったのがあれば任せるよ」


 短く会話を交わすと、虚鬼に変わり果てた大男達がピクリとこちらに反応する。

 そして、ダダダッと足音を立てて我先にとこちらに駆け出してきた。奏太達を喰おうとしているのか、それとも闇に引きずり込むつもりか。

 

 奏太はそれに向けて、両手をバッとかざした。意識を集中して自分の中に内在する力を両手に集めていく。


(屋敷内なら、加減が必要だな)


 そう思いながら、力を前に押し出すようにすれば、奏太の両手からキラキラと眩く煌めく白の光が溢れ出した。


 それは、鬼や妖にとって脅威にも恵みにもなる、何よりも貴重な日の力。


 この鬼界に、奏太と同じ力を宿す者は一人としていない、『陽の気』と呼ばれる、奏太だけの特別な力だ。


 奏太の手のひらから溢れる眩い光に、廊下全体がパァっと照らし出され、闇がどんどん打ち消されていく。

 

 虚鬼達にその光が届くと、ギャッと声が上がり、こちらに駆け寄ろうとしていた足がピタリと止まった。

 

 鬼の身体は陽の気に耐えられない。

 その身は赤く焼かれ、次第に黒く焦げていく。


 その様は、正直見られたものではない。体を焼かれながら少しずつ確実に死に向かっていく苦痛を見ているのは、手を下している自分の方が辛くなる。

 

 奏太が顔をしかめながら白の光を放っていると、すぐ横で、亘の仕方のなさそうな声が聞こえた。

 

「いつまで経っても、繊細すぎていけませんね。貴方は」


 奏太がチラと声の方へ視線を向ければ、

 

「椿、奏太様を任せるぞ」

「はい」


というやり取りとともに、亘がそのまま光の中に突っ込んでいくのが目に入った。刀を振り上げ、未だ動いていた虚鬼を一刀両断にしていく。


 亘は妖だ。

 普通であれば、鬼と同様、その身が陽の気に耐えることはない。陽の気に晒された瞬間、虚鬼達と同じように焼かれてしまっていただろう。

 

 けれど、亘もまた、特別なのだ。陽の気の中に居ても、その身を焦がすことはない。椿や巽、汐も同様に。奏太を主と仰ぎ身命を賭すと誓った繋がり故に。


 陽の気に晒され苦痛の中にいてもなお向かってこようとしていた虚鬼達を、亘はあっという間に始末していく。


 すべてが倒れて動かなくなると、奏太はほっと息を吐いた。


 更に手のひらに力を込めれば、ついさっきまで黒い靄に覆われていた主人の部屋まで続く長い廊下は、きれいさっぱり闇が祓われ元の状態に戻っていく。


 陽の気の放出を止めると、そこに残ったのは、亘に斬られ黒く焼け焦げた虚鬼達の遺体のみ。


「奏太様を侮ったことを後悔させたかったのですが、手遅れでしたね」


 亘は、恐らくあの大男だっただろう遺体を見下ろしながら、そう言った。


「闇に支配されたのに、聖なる神の力に浄化されて天に昇ったのなら、幸運なくらいですよ」


 椿も不快そうに眉根を寄せた。

 しかし奏太は微妙な心持ちで、焼け焦げた者達を見る。

 

「……聖なる、ね」


 もしもそうなのだとしたら、虚鬼に変わった者達を元に戻してやれても良いはずだ。全てを浄化して救ってやれたらどれ程いいか。けれど、奏太の持つ力はそれ程万能な力ではない。


 奏太の表情が曇ったせいだろう。亘は仕方がなさそうに小さく息を吐いた。


「貴方が気に病まれることではありませんよ。いくら貴方でも、全てを救うことなど不可能です。貴方がすべきはこの世の秩序を守ること。そうでしょう。この世の安定を司る、秩序の神よ」


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