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蜻蛉商会のヒトガミ様 ~過保護な護衛に怒られながら、鬼の世の闇を祓う~  作者: 御崎菟翔


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28. 鬼界での異変

 妖界との結界の穴を閉じて蜻蛉商会に戻る途中、鈍色の空の下を亘に乗って飛んでいると、唐突に、ズキっと胸に痛みが走った。


 この痛みには経験がある。ざわりと背筋が寒くなるような、嫌な予感がする。自分の力を無理矢理奪われる感覚。


 奪われかけているのは、自分の()にある力。


「…………どっちだ……?」


 奏太は口元だけで呟いた。

 どくどくと鼓動が強く打ちつける。恐怖に体が硬直する。


「奏太様、何か?」


 奏太の異変を感じ取った亘が、硬い声を出した。


「分け与えた力の一つが、弱くなってるんだ」


 亘を掴む手にジワリと汗が滲む。


 その身の危機を感じ取れるのは、奏太自身が金の力を一定量分け与え、その身に宿らせた者だけ。該当者は四名。亘と椿はここにいるが、異常はない。

 

「巽か汐、ですか」


 亘の言葉に、奏太は首肯した。


 分け与えた力の在り処は、正面に迫る王都内。


 一箇所は右手前、恐らく蜻蛉商会。もう一箇所は、真っ直ぐ奥にある一際大きな王城、その左側。白日教会だ。


 奏太はスッと、自分の中の力が示す先を指さした。


「亘、白日教会だ」


 弱くなっている方は、白日教会側。

 ざわざわと胸騒ぎが収まらない。完全に奪われたわけではない。けれど、何かがあったことだけは確かだ。


 心の中が、焦燥で埋め尽くされる。

 

「奏太様、まずは商会へ」

「馬鹿言うな! 一刻を争うかもしれないのに!」


 奏太は声を荒らげた。しかし、亘は言い聞かせるような声音を出す。

 

「妖界の衣装のままでは、白日教会に入る前に足止めです。司祭服に着替えねば、入るまでに余計な時間がかかります」

「強行突破すればいいだろ」

「騒ぎになり、それが原因で中の者に何かがあれば、どうなさるのです?」


 奏太はグッと口を噤む。


「着替えの間に、商会の者に詳細を聞く事もできるでしょう。状況の整理が必要です。少し、冷静に」

「…………わかった」



 商会の上空からそのまま敷地内に入る。緊張しながら屋敷の扉を開ければ、何かがあったとは思えないくらいに落ち着いていて、商会員達がいつも通りに仕事をしている姿が目に入った。


「……どういう事だ?」


 奏太はポツと呟く。


 一方の商会員達は、突然、束帯姿のまま鬼界に戻ってきた奏太に、ぎょっと目を見開いた。


「へ、陛下!! どうなさったのです!?」


 鬼界に来てからは名前で呼ばせていた者達が、奏太の姿に、咄嗟にそう叫ぶ。


「どうしたもこうしたもない。汐と巽はどうした? 何かあったんじゃないのか?」

「汐殿なら、商会室で情報の整理を……商会長は、例の聖遺物の件で昨日光耀教会に行かれて、しばらくあちらに滞在する事になったと知らせが来てから、まだ帰ってきておりませんが……」

「は? 聖遺物の件? そんな連絡、受けてないぞ」


 奏太が言うと、商会員達は顔を見合わせる。


「……ご連絡をすれば、燐鳳様を振り切ってお帰りになってしまうだろうから、と商会長が……」


 奏太はギリっと奥歯を噛んだ。

 

「咲楽、着替えを手伝え! 急いで白日教会にいく」

「はい!」


 何枚も着込み帯で固められた状態では、一人で着替えるのも難儀する。咲楽は妖界に居る間も奏太の着替えや身の回りの事を手伝ってくれていたため、一番勝手がわかっている。


 奏太が自室に戻ろうとすると、上階から青い蝶がヒラリと舞い降りてくる姿が見えた。


「奏太様! いったい、何が」


 元気そうな声。汐の無事が確認できただけで、ほんの少しだけ、胸のつかえが取れる。

 

「汐、巽が置かれている状況を、分かってる範囲で全部教えてくれ。あいつに与えた力が奪われかけてる」


 

 自室に戻り汐から、ここまでの間にあったことを確認する。けれど、汐も大した事は把握していなかった。

 

 曰く、光耀教会から呼び出しの手紙が届いたのは数日前。燐鳳の話の通り、巽は呼び出し日であった昨日、対象の姿を変える目眩ましが得意な者と護衛を一人連れて光耀教会に出て行ったらしい。


 夕方、そろそろ帰ってくる頃か、そう思ったころ、光耀教会からの使者が白日教会を訪れた。

 そこには、巽の筆跡で、光耀教会の枢機卿に気に入られたため、翌日の夕食に招待された。部屋が用意され丁重にもてなされているので心配しなくて良い、というようなことが書かれていたらしい。

 

 文官のような顔をしているが、巽は元武官。今も、全然伸びないと亘に匙を投げられかけているものの、時間を見つけては鍛えていた。 

 それに巽のことだから、何かを探ろうとしているか、もしくは強引な押しに負けて滞在せざるを得なくなったか、そのどちらかだろうと、皆がそう思っていた。

 

 だから、今の今まで帰って来るか次の知らせが来るのを待っていたのだそうだ。


「それ以降、知らせは?」

「……いえ、まだ……」

「巽がいるのが光耀教会ではなく、白日教会っていうのも、よくわからない。何がどうなってるんだよ」


 ヤキモキしながら、咲楽に手伝ってもらいつつ司祭の服に着替えると、奏太は飛び降りんばかりに階段を駆け下りる。


「奏太様!」

「汐、お前はここにいろ! 屋敷から絶対に出るな!」


 奏太は後ろから追ってくる汐を一切振り返らずに命じる。汐には戦う力がない。汐にまで何かあっては堪らない。


「しかし……!」

「命令だ、絶対に来るな!」


 奏太はそう言いつつ、乱暴に屋敷の扉を開いて外に飛び出した。


 

 亘に乗って白日教会の手前で降り門前に行くと、いつも通りに門番に足止めを食らった。


 焦りに心が波立ちイライラしていると、落ち着けとばかりに亘に後ろからグッと両肩を押さえられる。

 更に、奏太が何を言い出すか不安だったのか、亘が慣れた調子で奏太に代わって門番の受け答えをした。


 教会内にようやく入ると、奏太は巽の持つ力の方へ向かって一目散に駆け出した。

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