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空と海を継ぐ者 神も仏も居るんです  作者: 平木 ナヲル


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旅立ちの章  その5

「兄貴…さっきのは何?」と、海が優を問い詰める。


「詳しい説明は後だ。その白衣ひゃくえが助けてくれるから、やり方だけ覚えろ!」と、小角から教わった入我我入の悟りと、仏身一体に至る九字印を伝えると、空の元へ急ぐ。



「あそこだ!」と優が指差すと、そこでは空が三体の邪鬼を相手に戦っていた。

「兄貴、空兄が危ない!早く助けなきゃ!!」と海が優を急かした。



ーーーー



時は少しさかのぼる。



空は、熊童子の攻撃を辛うじて持ち堪えていた。


熊童子の持つ棍棒が振り下ろされる。

空は手にした金剛杖で、その一撃をなす。


同じ攻防が幾度となく繰り返されていた。

「クソッ!なんて重い一撃なんだ!反撃するチャンスが来ない!!」


一方の熊童子も、攻撃を往なし続ける空に驚きを隠せないでいた。

「未熟な小僧のくせに生意気な!」


「「おやおや、普段は偉そうな熊童子様が苦戦してますね〜!お手伝いしましょうか?!」」と、嫌らしい声が重なる。


「ふん、牛鬼ぎゅうき豚鬼とんきか!手を出すな、コイツは俺様の獲物だ!!」


それを見た空が、『これは…チャンスだ!』と熊童子と牛鬼、豚鬼をあおる。


おいでおいでと手の指を曲げ、「熊に牛と豚が加わったところで、大したことはないぞ!三匹まとめてかかってこい!!」



「「「バカにするな〜!!」」」と、熊童子と牛鬼、豚鬼が一斉に空に襲いかかる。


空は熊童子の一撃をなしながら、斧を手にした牛鬼の背後に回り込む。

すると、同志撃ちを恐れた豚鬼が、振りかぶったまさかりを止めた。


『よし、狙い通り…』


連係の取れた相手であれば、一対多数は不利にしかならない。


だが、連係の取れていない多数であれば、味方が邪魔になり動きが制限されることを、実践形式で厳しく直公に鍛えられた空は知っていた。




それでも、相手の攻撃を凌ぐだけでは、やがて体力が尽きる。

敵に密着することで、相手に攻撃を躊躇ちゅうちょさせ、そこから金剛杖の一撃を何度も三体の邪鬼に撃ち込むが、その巨体にダメージを与えた気配はない。


名を持つ邪鬼を相手にするには、圧倒的にパワーが不足していた。


『どうすれば…』


その時…「空!」「空兄!!」と声が響き、「「お待たせ〜」」と、優と海が駆けつけてきた。


「これで、三対三だ!!」と、優が手にした剣を牛鬼に向けた。


「私の相手はコイツね!!」と、海が豚鬼をにらむ。


空は、この世界に現れた優に驚きながらも、「さあ、熊童子…覚悟しろよ!!」と金剛杖を突きつけた。



ーーーー 



【優VS牛鬼】


「来やがれ、ビフテキ野郎!!」


「ビフテ鬼?何のことかわからぬが…我が一撃をくらえ!」と牛鬼が手にした斧を叩きつける。


「そんな大振りが当たるかよ!」


「ふん、異世界の修験者どもは、逃げるまわるだけか」と、凄まじいパワーで斧を振り回す。


その攻撃をかわし続ける優だが、当たれば即死を免れないその緊張感に息が上がる。


「大口を叩いた割には、随分と余裕が無さそうだな」と牛鬼がニヤニヤと笑う。


「俺は3歳から、1日も休まずに竹刀を振ってきたんだ!これしきの事でやられるか〜!!」と、牛鬼の斧を掻い潜り、胴を薙ぎ払った。


「おや、何か当たったかな?」


優の渾身の一撃も、牛鬼の巨体には通用しない。


しかし、その一撃により牛鬼と距離を取った優が、「頼むぞ、小角のオッサン!!」と叫び、九字印を切った。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」


すると、闇の道が地中に伸び、闇が浮かび上がる。

その闇から「我は八部鬼((1))が一鬼 羅刹らせつ」と、一体の小さな鬼神が現れた。


が身体は既に仏身なり、仏身宿りてわれとなす…仏身一体 羅刹纏身!!」


「フハハハハ。そのような小鬼を纏ったところで、我には敵わぬ!」と、牛鬼が再び斧を振りまわす。



羅刹の御力を纏う優に、羅刹の思考が流れ込む。

が御力を使えるのは、一撃のみと知れ』


それを感じた優は、剣を鞘に収め…その場で目を閉じた。


「観念したか…ならば、死ね〜」


振り下ろされた斧が、髪の毛に触れ頭を砕く…その刹那、優の身体が牛鬼に向かい弾け飛んだ。


「仏神一体のスキル 神技しんぎ 速疾抜刀そくしつばっとう!!」



『チンッ』と、剣を鞘に収める。

そのと共に、牛鬼の胴体が二つに分かれ…その場に倒れた牛鬼の身体が黒いモヤとなって消えていく。


「危なかったが、何とか勝てたな。羅刹、来てくれてありがとう!」

優が礼を言って纏身を解くと、羅刹は再び闇となり、地中に潜っていった。




【海VS豚鬼】



「私が相手よ!トンテキさん!!」

(やはり兄妹。センスが同じ…)


「トンテ鬼?何のことやらわからんが…ワイの一撃を喰らいなはれ!」と、手にしたまさかりを叩きつける。


海は、八相に構えた薙刀の柄で受け流し、そのまま脛打すねうちを狙う。


慌てて下がる豚鬼に、上段から面打ちを叩きつける。


「危ない危ない!良い太刀筋だが、お嬢ちゃんではパワーが足りないな!!」と、面打ちを防いだ豚鬼がニヤニヤ笑う。


小鬼には一撃で決まっていたが、名が付くような邪鬼が相手では、海では絶対的にパワーが足りていなかった。




豚鬼のニヤニヤ顔を見て、海の中の何かがプツンと切れた。


『兄貴…信用するよ…』


海が両手を前に出し、ぎこちなく九字印を切る。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」


すると、光の道が天に伸び、光の道から「妾が手伝いましょう」と、美しい女性が現れた。


「海とやら、妾の名は摩耶まや ((3))。人々は妾を摩耶夫人まやぶにんと呼びます。さあ、妾の御力をまといなさい」


「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす…仏身一体 摩耶夫人纏身!!」


すると、摩耶夫人が光となり、その御力が海の身体を包み込んだ。




「死ね〜!」と豚鬼の鉞が、摩耶夫人の御力を纏う海を真っ二つに切り裂いた!!


しかし、真っ二つになったはずの海の身体は、ユラユラと揺れながら消え失せ、少し後ろに傷一つない海の姿が現れる。


「バカな?手応えはあったはずだが…」


「ならば、もう一度だ!」と、再び海の身体を鉞が

切り裂く。


「何処を狙っているの?」と、背後から切り捨てたはずの海の一撃が豚鬼を捉える。


「おのれ〜!怪しげな術を使いおって!!」


「摩耶とは幻。其方如きでは、妾の影さえも踏めぬと知れ」と、摩耶夫人の御力をまとう海が、切先を豚鬼に向けた。


「ならば…これは、かわせまい!」と、円を描くように鉞を振りまわす。


「バカね!隙だらけよ!!」

豚鬼の背後に回り込み、必殺の一撃を放つ。



「仏身一体のスキル 神技 幻影一文字斬り!!」



豚鬼の首が胴体から離れ、海の戦いが終わった。



『空は大丈夫かしら?』と心配する海に、摩耶夫人が優しく声をかけながら、光となって天に去っていった。




「安心なさい。其方の連れ合いの元には、我が息子の弟子が向かいましたよ」





空の決着は次話に持ち越します。


用語解説  基本的にはWikipediaを参考にしています


(1)【八部鬼衆】

四天((2))に仕え、仏法を守護する8つの鬼神

乾闥婆けんだつば - 持国天の眷属けんぞく

毘舎闍びしゃじゃ- 持国天の眷属

鳩槃荼くばんだ - 増長天の眷属

薜茘多へいれいた- 増長天の眷属

那伽ナーガ - 広目天の眷属

富單那ふたんな - 広目天の眷属

夜叉やしゃ - 多聞天の眷属

羅刹らせつ - 多聞天の眷属


(2)【四天王】

帝釈天に仕え、世界の四方を守護する四体の天部

持国天じこくてん- 東方を守護

増長天ぞうじょうてん- 南方を守護

広目天こうもくてん- 西方を守護

多聞天たもんてん- 北方を守護


(3)【摩耶夫人まやぶにん

釈迦しゃかの生母

摩耶まや、マーヤーとは、神の力・神秘的な力を意味し、その後、幻影という意味に変化した。人を幻惑させる力という意味で、「幻力」と訳されることもある。


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