旅立ちの章 その4
海の腕の中で、体長30センチにも満たないマスコットのような小鬼…前鬼と後鬼がジタバタともがいていた。
「「えぇい、離さぬか〜無礼者!」」と、前鬼と後鬼の声が重なる。
その可愛らしい姿を見た優が、「あれ?こんなはずでは…??」と首をひねる。
前鬼が「キサマの徳が足りぬ故、このような情けない姿になるのじゃ〜!!」と、小さな鉄斧を振りかざしプリプリと怒る。
「そうじゃ!キサマは今すぐ徳を上げよ!!」と、後鬼も短い杖を片手に、プンスカと振り回した。
「怒った姿も…可愛い…」と海は、今が戦闘中と言うことを忘れて、メロメロになっている。
「隙だらけだバカめ!そのまま死ぬがよい!!」
餓舎髑髏の巨大な腕が振り下ろされる。
「バカはキサマなのじゃ!」と、後鬼が持つ杖から結界が現れ、餓舎髑髏の腕を弾く。
「後鬼は護鬼なり。妾の守りが、その程度で崩せるわけないのじゃ!!」と胸を張った。
「いゃん、ゴキたん…かっこいい!」
海の腕の中で、『ゴキたん』と呼ばれた後鬼が項垂れ…「この娘…もう嫌なのじゃ!後は前鬼が始末するのじゃ!!」と言い残し、黒いモヤとなって消えた。
「やれやれ、後鬼の気持ちが痛いほどわかるが…」と、前鬼が海の腕から抜け出し、餓舎髑髏と対峙した。
「我は前鬼。前鬼は戦鬼なり!餓舎髑髏よ、覚悟せよ!!」と、小さな鉄斧を振りかぶった。
「ガハハハ!なんじゃこの豆粒は?」と餓舎髑髏が前鬼を指差して笑い転げる。
「センちゃんじゃ無理だよ〜!」
「センちゃん言うな〜!!」と絶叫しながら、前鬼がスコップ程の鉄斧を餓舎髑髏の右腕に叩きつけた。
すると、小さな鉄斧からでは考えられない爆発的な衝撃が巻き起こり、餓舎髑髏の右手を吹き飛ばした。
「え?センちゃん…凄い!!」
前鬼が満更でもない様子で胸を張り、「ふん、優の徳では、この程度が精一杯か!」と鉄斧を構え直した。
餓舎髑髏が吹き飛んだ右手を見て、「これは驚いた」とニヤニヤ笑う。
すると、地面から小さな骸骨が現れ、餓舎髑髏の腕にまとわりつくと、右手が再生されていた。
「再生能力があるだと?ならば…弱点は魔石だな!」と、優がラノベの知識を衒らかし、「左目の奥が光っている!あれが魔石に違いない!!」と、餓舎髑髏の左目を指差す。
餓舎髑髏が…「そ、それがわかったところで、キサマらに何ができる!」と、アワアワしながら両腕を振り回した。
そんな餓舎髑髏を見て、「アイツって馬鹿?」と海がつぶやいた。
しかし、「おい、優よ。我は、あと一撃分の力しかないぞ!」と前鬼が告げる。
それを聞いた優が一瞬青ざめるが、直ぐに気を取り直し、海が持つ破魔の弓矢をみた。
「よし、前鬼はもう一度、奴の右手を吹き飛ばしてくれ。左手は俺が止めるから、その隙に海がその弓矢で魔石を破壊しろ!」
「あの左手を止めるって…兄貴無茶だよ!」
そんな海に優がドヤ顔で、「俺の切り札を見せてやる!」と告げ、「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」と九字印を切った。
「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす…」と唱えると、地の底から闇が浮かび上がる。
その闇から一体の龍が、「我は八部鬼衆が一鬼 那伽なり!」と告げながら顕現した。
「きゃー!この子も可愛い…!!」
「あれ?またこのパターン??」
そんな二人を前鬼と那伽が冷たく見つめる。
そう、そこに顕現した龍は子犬ほどのサイズだった。
那伽も優の徳の低さに文句を並べるが、最後は「仕方ない…」と諦める。
「四天王の頼みゆえ召喚されてやったが、其方の徳では、我の御力を纏えるのは30秒が限度じゃぞ!」
「30秒あれば十分」と、気を取り直した優が答え、「仏身一体 那伽纏身 !!」と叫ぶと、那伽が再び闇となり、その御力が優の身体を纏った。
「タイミングを合わせろよ!」と前鬼と海に声を掛け、那伽の御力を纏った優が餓舎髑髏に斬りかかる。
「仏身一体の行をくらえ!神技 ドラゴンインパクト〜!!」と那伽の御力を剣に込め、餓舎髑髏の左手を切り捨てる。
そして、前鬼が「戦鬼の一撃 パワーブロー!!」と、餓舎髑髏の右手を吹き飛ばした。
「ナーゴちゃん…センちゃん、後は任せて。これで止めよ!行 神技 ホーリーアロー!!」と、破魔の弓矢に導かれるまま、餓舎髑髏の左目の奥にある魔石を打ち砕く。
しかし…
「ナーゴちゃん言うな!!」
「センちゃん言うな!!」
と抗議の声を上げながら帰っていく那伽と前鬼の声は、残念ながら海には届いていなかった。
餓舎髑髏が倒れると、邪鬼は一斉に逃げ出し、残るは熊童子と牛鬼、豚鬼のみとなった。
優と海は、1人で戦う空を救うべく駆け出した。
用語解説 基本的にはWikipediaを参考にしています
(1)【臨兵闘者皆陣列在前】
九字護身法で、災難除けや戦勝などを祈る作法。
意味は「臨む兵、闘う者、皆 陣烈(裂)れて(きて)前に在り」
(2)【八部鬼衆】
四天王に仕え、仏法を守護する8つの鬼神
乾闥婆 - 持国天の眷属
毘舎闍- 持国天の眷属
鳩槃荼- 増長天の眷属
薜茘多- 増長天の眷属
那伽- 広目天の眷属
富單那 - 広目天の眷属
夜叉 - 多聞天の眷属
羅刹 - 多聞天の眷属
(3)【四天王】
帝釈天に仕え、世界の四方を守護する四体の天部
持国天- 東方を守護
増長天- 南方を守護
広目天- 西方を守護
多聞天- 北方を守護
(4)【纏身】注)造語
仏神の御力を身体に纏うこと




