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空と海を継ぐ者 神も仏も居るんです  作者: 平木 ナヲル


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封印の旅『つるぎの里』  その3

それは、何度目の飛斬を弾いた時だったか?

それは、何度目の魔弓を躱した時だったか?


空が己の内に光を感じ…だがそれを当たり前のこととして自然に受け入れる。

そこには気負いも、力感もなく、ただ自然に佇む空の姿があった。



海も優も、空が醸し出す雰囲気が変わったことを感じとる。

『ふむ、海よ!神技を仕掛けよ!!』

那伽が海に指示した。

「行くよ、空兄! 神技 竜斬一閃りゅうざんいっせん!!」


同じく、羅刹も優を導く。

「神技 速疾抜刀そくしつばっとう!!」


だが空は、神技により放たれた必殺の斬撃を冷静に見極める。

刹那の煌めきが空を纏うと、智慧の利剣が一筋の閃光となり、2つの神技を一振りで弾き返した。


『ほう!騎牛帰家きぎゅうきかを悟り、忘牛存人ぼうぎゅうぞんじんを覗き見たか!!』

天から声が響くと、帝釈天がその場に顕現した。


『空よ。仏を我が身に宿しながら、それを自然として受け入れよ。内なる仏を忘れてはならぬ。なれど仏を意識してはならぬ。常在無覚じょうざいむかくこそ人牛倶忘じんぎゅうぐぼうの悟りと知るが良い』


さらに、海と優に視線を移し、『海に優よ。其方らは那伽に羅刹を纏い、その動きをなぞることで、仏身を感じたであろう。その感覚を忘れてはならぬぞ』と声を掛けた。


『修行はこれまでじゃ。剣山におもむくがよい』と那伽と羅刹を連れ、帝釈天が天に戻っていく。

その去り際に『死ぬでないぞ!』と呟いたのは、空達の耳には届いていなかった。



「よし、行くか!!」

空が声を上げ、次郎笈の頂上を目指して歩き出した。

すると、いつの間にか青牛が現れ、空達を案内するように前を歩き出した。


「なるほど、この青牛はこの山の権現ごんげんなんだな。と言うことは、黒牛は剣山の権現なのか」

空が納得したように頷いた。


「権現って何?」

海が納得顔の空に尋ねる。

「権は仮と言う意味で、仏様が仮の姿で現れるのを権現と言うんだ。その青牛は次郎笈の仮の姿で、黒牛は剣山の仮の姿なんだろうな」


「なるほど、だから権力って仮の力と言われるのか」優がつぶやく。


そんな話をしながら青牛について歩くと、視界が開けた。


「綺麗!」

海が感嘆の声を上げた。


次郎笈の山頂付近は、緑の笹が一面に広がり、青々とした傾斜が見る者の心を奪う。

そして、緑の尾根が剣山の山頂を結び、二つの山が競い合うようにそそり立っていた。


「この尾根を行けば、剣山の山頂に着くのか!」

空が切り立った尾根の山道を眺めた。

「見事な景色だな」

優も次郎笈と剣山の景色に圧倒されていた。


「先ずは飯を食べるなり!」

「腹が減っては戦はできぬなり!!」

前鬼と後鬼には景色より食い気が大切なようだった。



ーーーー



元の世界では、悪天候の中、剣山の山頂を目指す月読と須佐之男の姿があった。


「空様が騎牛帰家の悟りを得たみたいね。流石は直公様のご子息だわ!」

月読が須佐之男に話しかけた。


「だが、本地垂迹ほんじすいしゃくには辿り着いてないだろ。それで勝てるか?」


「帝釈天が修行をつけたみたいだから…信じるしかないわね!それに、次郎笈も手助けしてるみたい!!」

月読がそう答えた時、よこしまな気配が辺りを覆った。


「余りの邪気の強さに、こちらの世界まで影響が出始めてるな」

須佐之男が、突然現れた邪狼をほふると、周りを見渡した。


「邪気の影響で天気が荒れてるのが救いかもね。一般の人に被害が出る前に片付けられたら良いけど……空様、急いでください!!」

小鬼を倒した月読が祈るように呟いた。


ーーーー


「こいつら、何体いるんだ?」

既に何体もの魑魅魍魎を切り捨てた優が、息を整えながら周りを見渡す。


次郎笈から尾根を渡り、剣山にたどり着くや否や、待ち構えていた邪鬼が空達に襲いかかってきた。


「ムダ口叩いてる暇はないわよ!」

海も薙刀を振り翳し、邪狼を切り捨てる。


「とにかく、一体づつ減らすしかない!!」

空が海と優を励ますように声を掛ける。


そんな中、前鬼と後鬼は嬉々として戦闘を繰り広げていた。

「我は前鬼!前鬼は戦鬼なり!!」

「妾は後鬼!後鬼は護鬼なり!!」


「戦いは楽しいなり!」

「これぞ妾達の本懐なり!!」

まるで疲れを見せず、前鬼と後鬼が邪鬼を蹴散らしていく。


そこに突然、『厄災様を煩わす修験者ども!待っていたぞ!!』と大声が響き渡った。


「お前らは?」

声がした方を空達が見つめる。


『我は厄災様の一番の臣下、死天王の飫炉血おろち様よ!』

『その配下、魅頭血みずち!』

『同じく、蟒蛇うわばみ!』

『我は、盧頭血のずち!』

『ヒッヒッヒ、ワシが蛇骨婆じゃこつばばあじゃ!』


そこには、五体の蛇妖怪が空達を睨みつけていた。



飫炉血に対峙したのは空だった。


飫炉血の瞳孔が縦に割れると、くらい闇を滲ませ、手に持つ三又の槍を空に向けた。

口元から、チョロチョロと嫌らしく舌を出し入れしながら『ここがキサマの墓場よ!』とその槍を突き出す。


その一撃は、優の飛斬に匹敵するほど速く、次郎笈での修行を受けていなければ躱せなかったであろう鋭さを持っていた。


智慧の利剣で軽々と飫炉血の一撃を躱すと、驚いたように飫炉血の瞳孔が空を睨む。

『ほう、挨拶代わりの一撃とは言え、よくぞ防いだな!』と、飫炉血の口元が歪み更に激しい攻撃が空に襲いかかり……本格的な戦いの火蓋が切られた。




元の世界では、月読と須佐之男が戦いの始まりを敏感に感じていた。


いつものように須佐之男が海に神力を送ろうとした時、月読がそれを止めた。

「我らの神力は、この後で必ず必要になります。今は海様と優様を信じて、神力を残しておきましょう」


「だが、それでは海も優も殺られるぞ?」と月読の言葉に須佐之男が驚く。




「いえ、海様と優様ならば……きっと大丈夫です!」

月読が祈るように次郎笈を見つめ呟いた。



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