表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空と海を継ぐ者 神も仏も居るんです  作者: 平木 ナヲル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/39

封印の旅『ぬらりひょん』  その3

百鬼夜行ひゃっきやぎょう

それはあらゆる妖怪が、ぬらりひょんを総大将に街中を練り歩く死の行軍であり、人がこの百鬼夜行に巻き込まれると、その魂は崩壊し百鬼夜行に取り込まれると言われている。



「百鬼夜行に巻き込まれれば、命はないなり!」

「妾達でも、あらがうことは出来ないなり!!」

前鬼と後鬼が心配そうに空を見た。


「直ぐにでも逃げ出したいが…狙いが俺たちなら、被害が拡がる可能性が高いな!」

空がつぶやく。

「それに、俺たちを追ってくるなら、逃げきるのも無理かもな!」

優もぬらりひょんがいた場所を見つめる。

「そうね、あの妖怪は不気味よ。現れた時も、消えた時も、全く気配を感じなかったわ!!」


ひらら焼きの石の上で、程よく焼けたアメゴが美味そうな匂いを立ち昇らせていた。


無言で、その様子を見つめる空達に、突然声がかかる。

「これは、美味そうにアメゴが焼けておる。其方達、ワシにもそのアメゴを馳走してもらえんかのう?」



ーーーー



「ぬらりひょん様、今夜あの修験者達を始末していただけるのでありんすね」

絡新婦じょろうぐもがぬらりひょんに撓垂しなだかる。

「ふん、何のことだ。俺は百鬼夜行を行うだけよ。それに巻き込まれて誰が死のうが、知ったことじゃねえよ」と、絡新婦の胸元に手を忍ばせる。


絡新婦がそのてのひらつねり、「お楽しみは、全てが終わった後でありんすよ。まあ、百鬼夜行に巻き込まれては、彼奴等の命も今夜限りでありんすね〜」と嫌らしく笑う。


『どうだろうな。あの空とかいう坊やのとくがあれば…何かが動くかもしれんな』と、ぬらりひょんがつぶやくが、その声は絡新婦には届いていなかった。



ーーーー



「そのアメゴを馳走しろ」と、声がした方を見ると、見事な青い毛並の牛を引き連れた修験者が立っていた。


「いつの間に?」と驚く優の隣にドッカと座り、修験者がひらら焼きのアメゴを頭からかじり出した。


その様子をじっと見ていた前鬼が、おもむろに口を開いた。

「修験者よ、ただ喰いは許さないなり!」


すると、その修験者が笑いながら三冊の経典を取り出した。

「そもそも、お前達もただ飯だっただろうに!」


「それはそれ、これはこれなり!!」

後鬼がその経典を手に取り、中を確認した。


「ひらら焼きは、客人をもてなす料理よ。よく考えるんだな!」

美味そうにアメゴを食べ終えた修験者が告げると、青牛を引き連れて去っていった。


「何だったんだ?」と頭を捻る優の横で、空がその経典を見つめながら、修験者の言葉の意味を考え込んでいた。




「野郎ども!夜の世界は我ら妖怪の世界よ。さあ、俺について来い。百鬼夜行の大行進だ〜!!」


ぬらりひょんの号令に、魑魅魍魎ちみもうりょうの妖怪が従い歩き出した。


そこには、大鬼や小鬼、餓舎髑髏がしゃどくろに加え、中天狗や小天狗の姿もあった。

そして、その大軍を率いるのは、ぬらりひょんだった。


そして、その魑魅魍魎の大軍はまるで大河の流れのように、全てを巻き込む濁流となり、夜の街を練り歩く。


やがて、その濁流は被害が拡がることを恐れ、河原で野宿していた空達に襲いかかろうとしていた。



百鬼夜行が空達のテントに襲いかかろうとした時、その動きがピタリと止まった。

そのテントの前では、前鬼と後鬼が仁王像のように入り口を守り、百鬼夜行を睨みつけていた。

百鬼夜行について来た絡新婦じょろうぐもが、「たかが小鬼2体が、何を気張っているでありんすか?」と、馬鹿にしたように前鬼と後鬼を睨み返す。


「さあ、あの生意気な小鬼と修験者どもを始末するでありんす!」


だが、ぬらりひょんはその場を動こうとはしなかった。


「どうしたでありんすか?」

絡新婦じょろうぐもが慌ててぬらりひょんの腕に縋り付く。


「俺に指図するんじゃねえよ!それに、キサマにはあれが聞こえねえのか?」

ぬらりひょんが、冷たく絡新婦じょろうぐもを睨みつける。


それを聞いた絡新婦じょろうぐもが慌ててテントの方を見た。

すると、中から厳かな読経の声が聞こえてきた。


「「「ノウボ バキャビテイ タレロイロキャ ハラチ•••」」」


空の滑らかな読経に続き、海と優がぎこちなく経文を唱える声が、夜の静寂しじまに響き渡る。



「あの読経がどうしたでありんすか?」

一向に動こうとしないぬらりひょんに、イライラとした感情をぶつけて絡新婦じょろうぐもが詰め寄る。


「あれは、陀羅尼だらに ((1))の最高峰、仏頂尊勝陀羅尼ぶっちょうそんしょうだらにだよ。あれを唱えられたんじゃあ、百鬼夜行とは言え手は出せねえな!!」


「ぬらりひょんよ、厄災様の指示が聞けぬでありんすか?」

「何を言ってやがる。俺は厄災の配下じゃねえし、厄災に義理は通したぜ。これ以上は、俺のやることに口出しするんじゃねえよ!」


ぬらりひょんの剣幕に押され、「後悔するでありんすよ!」と捨て台詞を残して絡新婦じょろうぐもが立ち去った。


「流石に、あの坊や達じゃあ酔っ払う ((2))訳にはいかねーからなあ。どこのどいつが入れ知恵したのか、あの坊やの持つ智慧か知らねえが…してやられたぜ!!」

そうつぶやくぬらりひょんは、何故か嬉しそうだった。



ーーーー



〜翌朝〜


テントの前に立つ前鬼と後鬼の前に、前日の修験者が青牛を連れて現れた。

「よお、前鬼に後鬼。無事に百鬼夜行を乗り越えたようだな」


「小角様のおかげなり!」

前鬼が修験者に頭を下げた。


青牛を連れた修験者は、役小角えんのおずぬが変装した姿だった。

「今回の手助けは、この次郎の願いよ!」と、青牛の首筋を優しく撫でる。

それに応えて、前鬼と後鬼を見つめる次郎の眼差しは、深山のように蒼く澄んでいた。


「それに、ぬらりひょんはお前達を受け入れていたよ。そうでなければ、ひらら焼きを囲むはずはないし…ましてアメゴを差し入れるなんてありえないからな。それは、空もわかっていたようだ」

昨夜の疲れから、泥のように眠り込む空達のテントを見て小角がつぶやく。


「そうは言っても、絡新婦じょろうぐもの見張りがあったから、仏頂尊勝陀羅尼の経典が無ければ危なかったなり!!」

後鬼も小角に頭を下げた。



「大歩危峡の巡所は、これで封印出来るだろうが…次のつるぎの里の封印は大変だからな。坊や達をよろしく頼むぜ!」と言い残し、青牛を引き連れて去っていった。





役小角が去った先には、霊峰剣山(けんざん) ((3))が朝日を受けて、蒼く輝いていた。






用語解説  基本的にはWikipediaを参考にしています


(1)陀羅尼だらに

仏教において用いられる呪文の一種で、比較的長いものをいう


(2)酔っ払い

酒に酔った者は、百鬼夜行の害を免れると言われている


(3)剣山けんざん

『つるぎさん』とも呼ばれる、四国第2位の高さを誇る名山


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ