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空と海を継ぐ者 神も仏も居るんです  作者: 平木 ナヲル


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封印の旅『ぬらりひょん』  その2

〜元の世界〜


般若波羅蜜多はんにゃはらみた•••』


朝靄あさもやが立ち込める鞍馬山に、凛とした声が響く。

そこには、山伏の出立いでたちをした直公が、鞍馬山の山道をひた走る姿があった。


直公が僧正ヶ谷(そうじょうがたに)と呼ばれる、鞍馬山の山中に入り込むと、「僧正坊殿 ((1))おられぬか!」と大声で叫んだ。


やがて、『何じゃ、騒がしい!!』と直公の呼びかけに応えて、一体の大天狗が現れた。

『誰かと思えば、今牛若丸と名高い直公殿か!』


「僧正坊殿、その呼び名はわれが幼少の頃のもの。恥ずかしいのでお辞めくだされ。その節は、修行の数々、お世話になりました」

直公が大天狗に頭を下げて挨拶した。


『それで、わざわざ昔話をしに来た訳でもあるまい。何用じゃ?

「こちらは、日孁様からの書簡にございます。彼方の世界に我が息子達が召喚され、大歩危峡を目指しておりますれば、僧正坊殿の御尽力を賜りたい」


『そうか、厄災が目覚めようとしておるか。しばし待て』と、日孁の書簡を読み終えると瞑想を始めた。

『なるほど、ぬらりひょんの隣によこしまな気配があるな。恐らくは死天王の絡新婦じょろうぐもあたりであろう』


「なんと。既に、厄災の手が及んでおりましたか」

直公の顔が歪む。

『まあ、そこまで心配する必要はないであろう。ぬらりひょんはああ見えてしたたかよ。色香に惑わされたように見えて、その真意は掴めぬからな』


『日孁からの頼みもある。彼方の世界に繋ぎはつけておくのが、後は本人達に任せるしかない』

大天狗が直公に伝えると、直公は一礼し帰って行った。


『だが…厄災を封印する程の才があるなら、ぬらりひょんが黙って協力するとは思えぬが…。まあ、ここで百鬼夜行 ((2))に呑まれるようでは、厄災の封印など叶わぬか』

僧正坊と呼ばれた大天狗が、手に持った羽団扇はうちわを一振りすると、旋風つむじかぜが巻き起こり、風がおさまった後には、深い静寂だけが残った。



ーーーー


その頃、空達は中天狗に案内され、川原に案内されていた。

食材を運び込む小天狗達は、嬉々として平べったい石の上に味噌を土手のように塗り固め、その石の下のまきに火をつけた。


『修験者殿。ひらら焼きの石が焼けるまで、時間がありますので、アメゴや山菜を獲りに行かれますか?』

中天狗が空達に尋ねる。


『ほう!ひらら焼きなりか?』

前鬼の目が、火に焼かれる大きな石を見つめる。

『既に味噌の焼ける匂いが香ばしいなり!!』

後鬼の口元が緩む。


「先ずは、話を聞かせて欲しい。あなた方の目的は何だ?」

空が前鬼と後鬼を宥めながら、中天狗に尋ねた。


『我らに悪意は無い。僧正坊から頼まれたので、其方らを見定めていただけよ』


「僧正坊?」

優が初めて聞く名に首を捻る。

「確か、鞍馬山の大天狗だよな」

空が思い出しながら尋ねた。


『いかにも!』


「それで、何でその大天狗が私達のことを?」

海が中天狗に問う。


すると、中天狗が空の顔を見て、『其方が今牛若丸のせがれか。其方の父親と日孁様の依頼よ』と答えた。


「なるほど。親父達も、元の世界でも色々と動いてくれてるんだな」

しみじみと空が呟いた。


「でも、今牛若丸って…義父様おとうさまってすごい方だったのね!」と海が目を輝かせた。


「『義父様おとうさま』だと?空、ちょっと体育館の裏で話そうか!」


そんなやり取りをしている間に、ひらら焼きの石焼かれ、その上に置かれた野菜がジュウジュウと音を立て始めた。


『田舎料理だが、客人を迎える時に振る舞うひらら焼きだ。先ずは食べてくれ』と中天狗が空達に料理を勧める。


「コンニャクと味噌が合うなり!」

「この豆腐!味が凝縮しているなり!!」

前鬼と後鬼が、海の腕の中で舌鼓を打つ。



その姿を笑いながら見つめる空が、中天狗に「それで、俺たちをぬらりひょんに合わせてくれるのか?」と尋ねる。

『残念だが…少し遅かったな。ぬらりひょんの元には厄災の手の者がついておる』


「そうか。ならば、ぬらりひょんの目を掻い潜って、巡所に行くだけだ」と残念そうに空が決意する。


『それは無理だな、坊や達!』


いつの間にか、空達の隣に一体の古風な妖怪が座り込み、ひらら焼きを食べていた。


「え!いつのまに?」

「気配を全く感じなかったわ!」

優と海が驚く。


その姿に中天狗が慌てて跪く。

『これはぬらりひょん様、何用にございますか?』


『中天狗よ…!』

ぬらりひょんの目が、中天狗を射抜く。


『ひらら焼きをやるなら、アメゴがいるだろう』と、ピチピチと跳ねるアメゴを取り出した。

『俺を退け者にして、ご馳走とはいただけないな。なあ、坊や達もそう思うだろ!』

ぬらりひょんが戯けたように、空達に話しかけた。



『我は前鬼なり!そのアメゴは我が目を付けていたなり!!』

『あ〜ん?これは俺が獲ってきたアメゴだぞ!』

前鬼とぬらりひょんが、程よく焼けたアメゴを前に火花を散らす。


『妾は、そのコンニャクを所望するなり!』

後鬼が丸い田舎コンニャクを指差した。


ひらら焼きの石の上で、味噌に囲まれて焼かれるアメゴや、コンニャク、山菜に岩豆腐を空達に中天狗、小天狗、そしてぬらりひょんが取り囲み、和気藹々《わきあいあい》に宴が繰り広げられる。


初めは緊張しながらその様子を見ていた空達だが、初めての料理と楽しい雰囲気に、徐々に打ち解けて、ぬらりひょんに話しかける。

「これは妖怪屋根こじきからの紹介状です。俺たちを、巡所に案内してもらえないでしょうか?」


ぬらりひょんが、その書状をチラッと見て、空達を値踏みするように顔を向けた。


『俺は、厄災からキサマらを始末するように頼まれている。それを無視することは出来ねえな!』


「何だと?」

それまでの雰囲気が途端に冷え込み、優がガイアの剣を呼び出す。


『おいおい、食事の最中に無粋なもんを出すんじゃねえよ!』

ぬらりひょんが、手をかざすと、ガイアの剣が大地に返っていった。


「え?」と、優が目を見張る。


ぬらりひょんの目が値踏みするように、空達を射抜く。

『よし、一緒にひらら焼きを囲んだ中だ。明日の朝、お前達を巡所に案内してやる』


その言葉に「ありがとうございます」と礼を告げるが、ぬらりひょんが冷たく言葉を続けた。


『慌てるな。厄災との約束が先だよ!』と、ぬらりひょんがニヤリと口元を歪める。

『今夜、百鬼夜行が坊や達を襲う。坊や達が明日の朝日を見ることはないだろうな。天狗達も百鬼夜行には参加しろよ!』

そう言い残すと、ぬらりひょんの身体がかき消すように消えた。




空達は、ぬらりひょんが消えた跡を茫然と見つめるしかなかった。



用語解説  基本的にはWikipediaを参考にしています


(1)【僧正坊そうじょうぼう

鞍馬山の奥、僧正ヶ谷に住むと伝えられる大天狗。鞍馬天狗とも呼ばれ、源義経に剣を教えたとされる。


(2)【百鬼夜行ひゃっきやぎょう

妖怪や鬼などの化け物がぞろぞろと夜中に列をなして歩き回ること

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