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空と海を継ぐ者 神も仏も居るんです  作者: 平木 ナヲル


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3/20

旅立ちの章  その1

本作は基本的に四国巡礼をモチーフにした創作であり、真言宗がベースになりますが、日本神話からの引用も多くからめています。

あくまでもフィクションであり、筆者が素人のため詳しい宗派の差などはわからない部分もあり、この点はご理解ください。

『わ…我が意思を…継ぐ者よ… 我が意志を継ぐ者よ…此方こちらに渡り厄災を…ふ ふうい…封印… 』




う…夢か。誰かに呼ばれた気がしたが、と佐伯 空(さえき そら)は寝汗でびっしりと濡れたパジャマを脱ぎ、Tシャツに着替えて窓の外を見た。


『うん?本堂の灯りが点いている。そうか、今日は8日だったな』



般若波羅蜜多はんにゃはらみた•••



凛としたお寺の本堂に、般若心経はんにゃしんぎょうが響く。


ここ仏心寺では、毎月8日はおつとめの日として夜明け前から護摩行ごまぎょう ((1))がおこなわれていた。


行の邪魔にならぬよう、そっと本殿をのぞくと父親で住職の直公なおきみが、般若心経を唱えていたが、空の気配に気付き顔を上げた。


「空か、どうした眠れぬのか」と護摩行の手を休めずに声をかける。


「ああ親父、おつとめ大変だな」

佐伯さえきの家に生まれた者の勤めよ。我ら佐伯家の修験者にとって、8という数は大いなる意味を持つからな」


「わかっているよ」と空が応え「この前から、誰かに呼ばれている気がして•••今日も目が覚めてしまったんだ」


それを聞いた直公は、厳しい眼光をにじませ、何かを決心したかのような声で空に語りかけてきた。


「よいか空、これだけは忘れるでないぞ」と前置きし、

「人が超えられぬ苦難に遭遇した時、仏身の加護があるであろう。しかし、それは人が限界まで努力し、それでも越えられぬ苦難に遭遇した場合に訪れるもの。とくを積みぎょうを重ねる努力を怠ってはならぬぞ・・・」


「ああ、親父も無理すんなよ」


自室に戻る我が子をそっとみつめ、「ついに来てしまったか…」と直公が項垂うなだれる。

「千年と言われた封印が千二百年持ったのだ。感謝して、日孁ひるめ様に報告せねばな…」とつぶやくと、新たな護摩木を火にべ、一層激しく般若心教を唱えだした。


その朝、学校へ向かう空の耳に、聞きなれた声が飛び込んできた。


「いいか海、今俺たちが住んでいる世界は、無限にある世界の一つにすぎない。この世界と平行していくつもの世界が広がっているんだ!」

「それってパラレルワールドってやつ?相変わらず兄貴はそういうの好きだね~」


二人は空の幼馴染でクラスメイトの高野 優(たかの ゆう)と、優の妹で2つ歳下の高野 海(たかの うみ)だ。

優はいわゆるイケメンで、運動神経も良く、勉強もできる海の自慢の兄だが、シスコンがひどく妹離れができないダメ兄貴だった。


また、優はクラスの人気者だが、お調子者で巨乳好きの残念な一面を持つ。


海は街を歩けば、ほとんどの男子が振り返るであろう美貌とプロポーションを持ち、学級委員を務めるまさに才色兼備の美少女で、空のことを空兄そらにいと呼んで慕っていた。


ちなみに、空も幼いころから直公に厳しく鍛えられたことから、勉強も運動も得意な好男子と言える。

ただ、変に大人びた雰囲気があり、また実家がお寺であることから女子からは避けられていた。

海がそれを喜んでいたのは内緒の話である。


「ちょっと空兄、聞いてよ~」と、いきなり海が腕をからめる。


「兄貴ったら、この世界と別の世界があるって聞かないんだから~」

優は、(いもうと)と腕をからめる空をにらみ、「空、ちょっと体育館の裏に行こうか?」と凄むが、いつものやり取りなので、空も海も慣れた感じでスルーした。


「そうだ空、俺と一緒にパラレルワールドの可能性を・・・ってどうした?えらく眠そうじゃないか?」


「ああ、実はこの前から誰かに呼ばれている気がして…よく眠れないんだ。親父の様子も、何か変だったしな」と欠伸を噛み殺す。


すると海が、「え?私もその夢見たかも。やっぱり空兄と私は運命で結ばれているのね」と頬を赤らめた。


優がそんないもうとを可哀想な眼で見る。

「そういえば今日は8日か。お前のお寺では一日中お経を唱える日だったっけ」


「ああ、8の日は特別な日として一日中護摩行をしてるよ」

「なんで8の日が特別なの。5パーセントオフの日とか?」と海が聞く。

「それは20日と30日だな」と優が笑う。


「俺も詳しくは聞いてないが、二つの世界の接点とか、無限の循環がどうとか」と空が答えると、「ふーん、よくわからないや!そうだ空兄、今日学校が終わったら、お寺に護摩行見に行ってもいいかな?」と不意に海が言い出した。


「歴史の授業で仏教伝来とかやってるから、ちょっと本物を体験したくて」と言いながら、「それに、空兄の家のことなら知っておきたいし…」と顔を赤らめた。


「部活は良いのか?」

「インターハイが終わったから大丈夫」

「流石は一年生で薙刀なぎなたインターハイ3位になった実力者だな。それに、弓道でも上段者だしな!」と空が笑う。


「はいはい、自慢大会ですか〜?それなら、インターハイ剣道3連覇の俺がいますよ〜!!」と優がドヤ顔で2人に笑いかけた。


「空には勝てないくせに?」と海が揶揄からかう。


「空は部活に入ってないし、剣道じゃなくて総合武術だからな〜」


「まあな。俺の流派は足だろうが肩だろうが、斬れば勝ちだからな。棒や槍でも戦うし、関節技や投げ技に蹴りもある流派だからな」


「親父さんの方針なんだろ」


「あぁ、何故か知らないが、とにかく実践形式にこだわりがあるんだよな。とりあえず、石があれば投げろ…が流儀なんだから」と空が笑った。


「そんな奴と戦いたくねーよ」と優も笑う。




その時、『ゴゴゴ』と言う音と共に、地面が激しく揺れた。


「また地震か。この前は竜巻もあったし…最近、おかしなことが多いな」と空が言う。

「兄貴が変な自慢をするからよ!」と海が優を睨んだ。


「そんな無茶な!」と優が泣き顔でつぶやき、3人は笑いながら学校へ向かった。



・・・放課後・・・



仏心寺の境内で


「おい、お経が聞こえてこないぞ」と優が不思議そうに言った。


「あれ?今日はお経が途絶えるはずないんだが・・・本堂に行ってみよう」と駆け出す3人。

本堂の中を見ると、いるはずの直公がいない。


「トイレかな~?」といいながら中に入る3人の前で、突然本殿に光が溢れ、その光が空と海を包み込むと…二人の姿が天に舞い上がっていった。


空は、その光に包み込まれながら、「人が超えられぬ苦難に遭遇した時、仏身の加護があるであろう」という直公の声を聞いた気がした。




一方、一人本堂に取り残された優は、「海〜!空〜!!」と叫び続ける。


しかし、そこに返事はなく…優は二人の姿がかき消えた天に、虚しく手を伸ばした。


そのとき足元から…「どうして仏どもは、未熟な若造に試練を課すかね~!」と、半分呆れたような声が聞こえてきた。


「まあ良い、取り残された坊や…あの未熟者達の手助けがしたいか?」と軽薄な声が響く。


「当たり前だ、空は親友で海は大切な妹だ。助けるに決まっている!」


すると、突然優の周りが闇に包まれ…「ならば覚悟せよ!!」と、大地を震わすような女性の声が響いた。


そして…優の身体が闇と共に、地に溶け込むようにかき消えていった。




神話と仏教を個人的な解釈でアレンジしていますので、宗教などにこだわりがある方には馴染まない作品となる場合があります。

あくまでもフィクションとしてお目溢しいただきますようお願いいたします。


用語解説  基本的にはWikipediaを参考にしています


(1)【護摩行】

火を用いた宗教儀式で、願いなどを記した護摩木と呼ばれる薪を火に焚べることで煩悩を焼き払い、願いを成就させるための修法



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