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空と海を継ぐ者 神も仏も居るんです  作者: 平木 ナヲル


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封印の旅『美しの郷編』  その3

『やれやれ…根暗坊やにさかりのついたガキ、オマケに無鉄砲なお嬢ちゃんか。まともな戦いならかく搦手からめてからの謀略にこうも弱いとはな〜』

そこには、優をこの世界に呼び込んだ役小角えんのおずぬの姿があった。

日孁ひるめ様が記憶をイジった影響も出てるか。だからあの時、過保護は良くないと…って、今更言っても仕方ないか!』と九字印を切った。



ーーーー



空と優が海の元に駆けつける少し前…




『このままではダメだ!』

庭先を見つめながら、空が何度目かの溜息を吐いた。

だが、自然と湧き上がる恐怖心は、心の奥底に刻まれ空を苦しめる。


そこに、玉恵から離れた優が心配そうに現れた。

「なあ空。ずいぶん疲れているようだが、大丈夫か?」

優が親友であり、ライバルとも、(いもうと)の大切な人とも感じている空に話しかけた。


「優はあの邪狼に見覚えがないか?」

空が海に聞いた問いを優にもぶつける。


しばらく考え込んだ優が、ハッとしたように顔を上げた。

「あの時の不思議な体験か!」

「ああ、何故か俺も海も忘れていたが、やはり優もか。アイツを見てから、身体の震えがおさまらないんだ」



『それは、傷を癒やす事なく蓋をしてしまった為ですよ』

何処からか声が聞こえた。


思わず周りを見渡すと、そこに一羽の金色に輝く孔雀が現れた。

驚く2人の顔をじっと見つめるその孔雀の目は、深淵を映し出していた。

思わず、その瞳に吸い込まれそうになり…気づけば空と優の魂は宙を彷徨っていた。


一筋の光に導かれ、2人の魂は過去の出来事を見ていた。


少年時代の空がボス狼の攻撃を辛うじて躱わしていた時、優と海も2匹の邪狼の攻撃を受けていた。

『危ない!!』

優の魂が叫ぶが、その声は届かない。


10歳の優が、(いもうと)かばって邪狼の攻撃をランドセルで受ける。

そこに、空が石礫いしつぶてを投げつける。

その空の目は…そして優の眼差しはキラキラと輝いていた。


そして、空がボス狼の耳を叩き潰した時、その声が聞こえた。

『10歳の貴方達が出来た事が、今の貴方達には出来ないのですか?』


『そうだ。俺は皆んなを守るために、親父に鍛えられてきたんだ!』

空の魂が光り輝く。

『俺は何をやっているんだ!そう言えば、海はどこに行った?』

優の眼差しから濁りが薄まり、海を心配して不安気に呟く。


すると光の道が現れ、川縁の様子が見えた。

そこには、邪狼の攻撃に晒される海と前鬼、後鬼の姿が映し出される。


『『助けなくては』』

空と優の思いが重なった。



気がつくと、金色の孔雀の姿はなく…だが空の気持ちは晴れ渡っていた。


「海が危ない!急ごう!!」

空と優が川縁に向かって駆け出した。


「なあ空」

走りながら、優が空に話しかける。

「あの川縁で玉恵を見た時から、俺も何かおかしかったんだ」

「ああ、まるで盛りのついた猫みたいだったぞ」

「そこまで酷かったか?」

「少なくとも、海が激怒する程度には酷かったな!」

「なら、直ぐに海を助けて謝らないとな!」

優が海を心配しながらも気丈に笑った。

「それなら、俺も付き合うよ!!」

空も優に笑いかけた。


「見えたぞ!」

空が声を上げる。

「飛斬」「飛斬」

優が慌てて斬撃を繰り出した。


「遅いよ。空兄、兄貴」

海に笑顔が戻った。



「あのボス狼は俺に任せてくれ!」

空が懐に入れたタオルを取り出し、川原の石を拾い上げる。

「おい空、『智慧の利剣』はどうしたんだ?」

「10歳の時の自分に負けるわけにいかないからな」

空が優に笑いかけ、タオルに包んだ石を回しながらボス狼を睨みつけた。

「さあ、あの時の続きをやろうじゃないか!!」


そこに

「優様、危のうございます。此方へお越しください」と、ざらつくように艶っぽい声が聞こえた。

優がそちらに顔を向けると、玉恵が杉の木にしなだれながら、優をまどわせる。


それを見た優の頭の中に、くらくモヤモヤとした何かが流れ込み、「心配して来てくれたのか…」と思わずフラフラと玉恵の方に歩き出す。


「兄貴、何をやってるんだ!!」

そんな優に海の叱責が飛ぶ。


その声に『ハッ』とする優。

「そうだ。俺は一体?」

頭を振りながら気持ちを落ち着かせ、思考を働かせると、真実が見えてきた。

「俺と空の全速力に追いついた?もしや、キサマは邪鬼の化身か!!」

頭が冷えた優が、玉恵をいぶかに睨む。


そこに金色の孔雀が現れ「ケーン!」と一鳴きした。


すると、玉恵の顔が崩れ…その下から別の顔が現れた。

「キサマは…」

「貴女は…」

「「玉藻!!」」

優と海の声が重なる。


「おのれ、孔雀明王 ((1))の邪魔が入ったか!仕方ない、皆んな出ておいで!!」

玉藻が手を振ると、小鬼と中鬼の大軍が現れた。

「ここがお前らの墓場よ。さあ殺っておしまい」


「変な幻術さえ無ければ、この程度の邪鬼は相手じゃない!」

優が『ガイアのつるぎ』を取り出し構えた。

海も、薙刀を構え直すと凛とした目を邪鬼に向ける。


そして…

「力が戻ってきたなり!」

「身体が大きくなったなり!!」

前鬼と後鬼の身体が、戦闘時のサイズに戻る。


「我は前鬼!前鬼は戦鬼なり!!」

「妾は後鬼!後鬼は護鬼なり!!」

前鬼と後鬼が声高に雄叫びを上げた。



邪鬼と邪狼が優達に襲いかかる。

優と前鬼、後鬼は2匹の邪狼と邪鬼の大軍を迎え討ち、戦闘が始まった。


その隙をついて玉藻が逃げ出す。

「あら、何処に行くつもりかしら?」

海が先回りして、玉藻の鼻先に薙刀を突き付けた。

「おのれ、生意気な!」

玉藻が、三尾の妖狐に変化して海と対峙する。






ボス狼の牙が空を襲う。

「その攻撃は見飽きたよ!」

空が軽やかに躱しながら、振りかぶったタオルに包んだ石を振り下ろす。

「ギャウーン」

その攻撃がボス狼の頭を直撃すると、残っていた左耳が潰れた。

その威力にボス狼が尻尾を垂れて後退る。

『何で俺はこんなヤツを恐れたのか…?』

その姿を見て、空の心は晴れ渡った。


優と前鬼、後鬼も危なげなく邪鬼を退け、残すは2匹の邪狼だけとなる。


海に対峙しながら、その様子を見た三尾の妖狐が一際高く鳴き叫んだ。

「おのれ、生意気な修験者ども!仕方ない、邪狼よ…キサマらの力を妾に寄越せ!!」

すると、邪狼の身体が黒い霧となり、妖狐の身体を覆った。


「あら、虎の威を借る狐は聞いたことあるけど、こっちの狐は狼の威を借るのね」

海が油断なく妖狐を睨みながら、軽口を叩いた。


「舐めるな〜!!」

真っ黒な塊に覆われた妖狐が海に飛び掛かる。

その速さと強さはこれまでの比でなく、辛うじて薙刀で受け止めた海の身体が吹き飛ぶ。


「「「「海!!!!」」」」

空と優、前鬼と後鬼の声が重なる。


「来ないで!コイツは私がやっつける!!」

海が直ぐに立ち上がり、駆け寄ろうとする空達を止めた。


「フン、小娘が生意気な!ならば死ぬがよい!!」

妖狐の身体が、再び黒い閃光となり海に襲いかかる。


その時、母衣暮露ぼろぼろの滝の裾に祀られていた不動明王 ((2))が光り輝き、その光が海を包み込んだ。


「仏身一体の(スキル) 神技 憤怒邪断ふんぬじゃだん


闇を纏う三尾の妖狐(玉藻)の身体が十文字に切り裂かれ…尚も薙刀を振り回す海により、妖狐の身体が散り散りになり、闇に消えていった。




その憤怒の姿に震え上がった空達は、決して海を怒らせてはならないと、心に誓った。



ーーーー


四国山脈の某所


『おや、玉藻が逝ったようだね』

御簾みすの奥から厄災の呟きが漏れた。


『まあ良い。つるぎの里で飫炉血おろちが殺ってくれるであろうが…念の為にぬらりひょんの元にも手勢を送っておくとしょうかね』


自らの化身である玉藻を殺された厄災の目は、くらく彼方を見据えていた。



用語解説  基本的にはWikipediaを参考にしています


(1)【孔雀明王くじゃくみょうおう

孔雀明王は毒を持つ生物を食べる=人間の煩悩の象徴である三毒(貪瞋痴とんじんち)を喰らって仏道に成就せしめる功徳があるとされる


(2)不動明王ふどうみょうおう

大日如来の化身とされ、五大明王の中心的存在


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