封印の旅『神山編』 その6
朝早く出立した一行を、明けの明星が優しく導く。
すると、朝靄が残る山道に、何処からかシャンシャンと響く御囃子に乗って、雅な唄声が聞こえてきた。
まいりゃんせ〜 まわらんせ〜
お四国さんをまいりゃんせ〜
お大師さんとまわりゃんせ〜
同行二人でまいりゃんせ〜
願をかけかけまいりゃんせ〜
結願願ってまわりゃんせ〜
「あら、珍しい。舞姫のお出迎えですね」
薙刀を杖代わりに歩く媛巫女がその唄を聴きながら、空達に伝える。
「舞姫ですか?」
空もその唄声に耳を傾けた。
「御詣り様とも言われる、お遍路さんのお出迎えをする精霊で、奥深い山によく出てくると言われています。妾達は敬意を込めて、お舞り姫と呼んでおります」
「そう言えば、焼山寺山には元の世界にも札所があるから、弘法大師と縁が深いのかもな」
空達は、木々の梢に重なる舞姫の唄声を耳に、歩みを進めた。
「ここが巡所で間違い無さそうだな」
媛巫女に案内された祠の前で空がつぶやく。
その奥には、いつものように岩戸が行く手を塞いでいた。
御朱印帳を掲げると、『ゴゴゴ』と岩戸が開き奥に洞窟が続く。
「さあ行こうか!」
空と優が剣を取り出し、海は前鬼と後鬼を抱き抱えて洞窟の奥へ歩き出そうとすると、「お待ちください」と媛巫女が呼び止め、「妾も参ります」と御朱印帳を取り出す。
空が驚き「媛巫女様も御朱印帳をお持ちでしたか!」と、媛巫女を見た。
「妾達媛巫女は、その役目を仰せつかった時、始まりの巡所を訪れるのが慣わしにございます。ただ、岩戸の奥に入ることはございませんでしたが、昨夜、枕元に日孁様がお立ちになり、本日の同行を求められました」
媛巫女が洞窟の奥を見つめ、薙刀を握り直すと決意した表情で告げた。
「わかりました。ならば、後鬼をお連れください」と、媛巫女に後鬼を預ける。
「後鬼、媛巫女を守ってくれよ!」
「妾は後鬼なり!後鬼は護鬼なり!!」
後鬼が任せろとばかりに、手に持つ棒を振りかざした。
一行が洞窟を進むと、いつものようにホールが現れた。
今回のホールは草原で、小鬼の群れに混じり中鬼が数体いた。
空も海も優も徳が上がり、小鬼を一撃で葬り去る。
媛巫女も、護鬼が動きを止めた小鬼を薙刀で切り裂く。
「我は前鬼!前鬼は戦鬼なり!!」
前鬼は大きくなって暴れるのが余程嬉しいのか、バットくらいのサイズになった棍棒を振りかざし、豪快に小鬼を仕留めていく。
海は一歩下がった位置に構え、空達の背後から襲ってくる小鬼を破魔の弓で射抜く。
小鬼に混じる中鬼に少しだけ手間取るが、危なげなく鬼達を退治していく。
ただ…
倒しても倒しても襲いくる鬼達に
「あー!こいつら何体いるんだよ!!」
優が半分根を上げて叫んだ。
「経験値の荒稼ぎと思えば頑張れるだろ!」
空が優を励ましながら、一体の中鬼を切り伏せた。
息も絶え絶えになりながら、軽く千体は超える数の小鬼と中鬼を倒すと、やっとボス部屋に続く扉が現れた。
ーーーー
前鬼と後鬼が護符に戻り、空達はボス部屋の扉を開けた。
中には百を軽く超える大鬼と、一際大きな大鬼が待ち構えていた。
「嘘だろ〜!」
再び優の叫び声が響き…大鬼が空達に襲いかかってきた。
「経験値の…って、流石にこれはキツいな!!」
空も、その数の多さに圧倒される。
辛うじて、迫りくる攻撃を避けながら反撃を行い、一体づつ大鬼を倒していく。
その時「キャー!」と媛巫女の悲鳴が上がった。
護鬼が護符に戻ったため、一人で戦う媛巫女が大鬼の棍棒に押しつぶされそうになっていた。
「飛斬!」
慌てて優が斬撃を飛ばし、海も矢を射掛けるが、大鬼に怯んだ様子はない。
『マズい…』
空がつぶやいた時、二筋の金色の光が煌めき、その一筋の光が媛巫女を襲う大鬼を薙ぎ倒した。
媛巫女が立ち上がると、金色に煌めく狐が媛巫女を庇う様に大鬼に牙を向けていた。
「これは?」
媛巫女が訝しげに、その金色に煌めく狐に手を伸ばした。
すると、金色の狐が嬉しそうに媛巫女の手に頬を擦り寄せた。
そして、もう一筋の光は金色の羊となり、海の前に立った。
海がその金色の羊に手をワキワキさせる。
「モコモコ来た〜!」
一体の大鬼がそんな海に棍棒を振りかざす。
その大鬼に金色の羊が飛び掛かると、大鬼が衝撃で吹き飛んでいった。
「モコちゃん凄い!!」と、目をハートにして海が金色の羊を撫でまわした。
そこに…
『菩薩を纏うには徳が足りないから、使いを寄越したみたいね』
と、天から海に語りかける声が聞こえた。
『大宜都比売の魂を継ぐ者よ、妾を召喚するが良い』
海が両手を前に出し、慣れた手付きで九字印を切る。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
すると、光の道が天に伸び、光の道から「妾は吉祥天 、豊穣を司る者です」と、美しい女性が現れた。
吉祥天が金色に煌めく仏羊と神狐を認め、『虚空蔵菩薩 の使いに、大宜都比売の眷属が揃いましたか。貴方達は、本に天から期待されているのですね」と、温かな眼差しを空達に向けた。
『空とやらは、虚空蔵の使いの仏羊を纏いなさい。優、其方は大宜都比売の眷属である神狐を纏うのです』
「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす…仏身一体 仏羊纏身!!」
「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす…仏身一体 吉祥天纏身!!」
「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす…仏身一体 神狐纏身!!」
空、海が御仏の御力を纏い、優は神狐の神力をその身に纏った。
仏羊の御力を纏うと、空が持つ『智慧の利剣』が輝き、迸る閃光が大鬼を穿つ。
神狐の神力を纏った優が放つ『飛斬』は、一振りで三筋の斬撃が繰りだされた。
その様子を見ていた海に吉祥天が告げる。
『さあ、海よ。我が御力を解放しなさい』
それを聞き、海が印を切る。
「仏身一体の行 神技 五節の舞!!」
すると海の着衣が羽衣に変化し、その海を中心にして四体の舞姫が現れた。
すると、それまで暴れていた大鬼達が動きを止め、海と舞姫を見つめた。
何処からか、笙と横笛の音が辺りを満たし…海が厳かに羽衣の袖を翻した。
舞姫も、海に続いてその袖を翻す。
すると、全ての大鬼が膝を突いた。
五度目にその袖を翻した時、大鬼は大地に平伏し、そのまま大地に戻っていった。
大鬼が消え去った洞窟内には、静寂の世界が広がっていた。
用語解説 基本的にはWikipediaを参考にしています
(1)【吉祥天】
豊穣を司る天部
(2)【虚空蔵菩薩】
無限の智慧と慈悲を持つ菩薩
「明けの明星」は虚空蔵菩薩の化身・象徴とされる




