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空と海を継ぐ者 神も仏も居るんです  作者: 平木 ナヲル


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封印の旅『神山編』  その4

「改めまして、妾はこの神領村の隠れ郷につかえる媛巫女ひめみこと申します。先ほどは、妾が配下の玉藻が御無礼を致し、誠に申し訳ございませんでした」

媛巫女と名乗る少女が、空達に頭を下げた。


「俺たちは、厄災の封印をするために、四国の巡所を周っています。決してこの郷に被害を与える様なことは致しません」


「まあ、厄災様の封印ですか?」

あどけなく、媛巫女が応える。


海がその言葉を受け、「厄災()?」と媛巫女を睨む。


「この無礼者が!媛巫女様にその様な目を向けおって!!」と、玉藻の怒声が飛ぶ。


すると、媛巫女が混乱したように「そう言えば、何故妾は厄災に()などと?」と項垂れ、力なく目を彷徨さまよわせた。

そんな媛巫女を玉藻が忌々しげに睨みつける。


「ええぃ、その様な些事さじどうでも良い。とにかく、貴様らはこの郷から出ていけ!」と玉藻が激しい口調で空達を罵倒した。


空がその言葉をさえぎり、媛巫女に質問をする。

「何故、その玉藻と言う女中は、執拗に私達を拒絶するのでしょうか?我らは、初めてこの地を訪れました。誰かの恨みを買うようなことはないはずですが…。それに、海に言った須佐之男すさのおの加護と言うのも、覚えがありません」


いきなり海に薙刀で斬りかかってきた玉藻達と、それをかばうかのような媛巫女を前に、空と優が憮然とした態度を見せる。


「海様と申されましたか」

媛巫女が混乱した頭を振りながら海を見つめた。


「貴女様からは、間違いなく須佐之男の加護が感じられます。恐らくは、彼方の世界から須佐之男が神力を送っているのでしょう」


「その須佐之男の神力に何か問題でも?」


気を落ち着けて媛巫女が話し出した。

「皆様は、この阿波の国の女神、大宜都比売おおげつひめ様をご存知でしょうか?」


「いや、申し訳ないけど知りません」

空達が首を捻る。


媛巫女が静かに話を続ける。

伊邪那岐命いざなぎのみこと伊邪那美命いざなみのみことが国作りをなされた時、この大地に作物はありませんでした。しかし、大宜都比売様がお亡くなりになり、その御神体ごしんたいを大地に広げることで、この大地に豊かな作物を産み出しました。この為、大宜都比売様は食物の神と言われています」


「それで、その大宜都比売様と須佐之男、そして海に何の関係があるのでしょうか?」


「大宜都比売様がお亡くなりになった理由が…須佐之男が大宜都比売様を斬り殺したからなのです。すなわち、須佐之男はこの地の巫女たる妾達にとって、かたきとも呼べる存在です。そして、その加護を受ける海様もその片割れとなります」と、媛巫女が苦しげに激白する。



すると、それまで黙って聞いていた海が媛巫女に問いかける。

「大宜都比売様が亡くなり、その御神体が大地に広がったお陰で、豊かな大地が産まれたと言われましたね。では、もし大宜都比売様が御存命ならば、この大地にこのような豊かな自然は産まれたでしょうか?」


「そ…それは」

媛巫女が顔を歪める。


「それに、大宜都比売様の御神体を大地に広げたのは誰なのかしら?」

海の追求は止まらない。


「大宜都比売様の願いは、何だったのでしょうね」

海が静かに、窓の外に咲き誇る枝垂しだれ桜を眺めてつぶやいた。


そこには、満開に咲き誇る枝垂れ桜が風に揺れ、海の言葉に頷くように、その枝を揺らしている。


海の視線に釣られるように、庭先に目を向ける媛巫女が応えた。

「そうですね、妾達は、もう少し大宜都比売様の御心に寄り添う必要があるのかも知れません」



「媛巫女様。そのような小娘の戯言ざれごとに耳を貸してはなりません」

玉藻が、海の言葉に考え込む媛巫女に強い声で注意する。


「しかし、海様の御言葉には、誠実さと優しさ、そして何よりも、大宜都比売様の御心を体験したかのような力強さを感じます」

先ほどまでと違い、媛巫女の目に力がこもる。


それを聞いた玉藻が、劣化の如く怒り出す。

「須佐之男などと言う乱暴な狼藉者ろうぜきものの加護を受ける小娘が、誠実で優しい訳がありません。それこそ、お優しい媛巫女様を騙そうとしているのです」



「黙りなさい。貴女は、大宜都比売様の御心に触れたことがあるのですか?」

海が玉藻を睨みつける。


「貴女は、この大地に作物が育ち、人々が飢えることなく日々を暮らせていることが、どれほど幸せなことか分かりますか?」


「な…何を知ったような口を」

玉藻が海を睨みつけた。


「私が鬼の籠の試練を受けたのは、大宜都比売様の御心を追体験する為だったのですね」

海だけでなく、空も優も鬼の籠の試練の意味を知った。



海が静かに目を閉じると、イアリングに変化していた薙刀が錫杖しゃくじょう ((1))に形を変え、海の左手におさまった。

右手は自然に下がり、与願印よがんいん ((2))の形となる。

すると、海の身体から後光が溢れ、その光の中から、一体の地蔵菩薩が姿を現した。


われ六地蔵ろくじぞう ((3))が一体、放光王ほうこうおうです。鬼の籠の試練に応えた褒美に、われが答えて進ぜよう』


その姿を見た媛巫女が平伏した。


おごそかに、放光王の御力を纏う海の口が開いた。

「媛巫女よ。大宜都比売が種を蒔き、われが五穀を実らせることで、この豊かな大地は成り立っておる。大宜都比売の死は、この大地に取り必要であったのじゃ」

媛巫女が、海の身体を通じて発せられる、放光王地蔵の言葉に聞き入る。


「それに、其方は大宜都比売が死んだと言うが、日々食す米や麦に大宜都比売を感じぬか?大宜都比売は、形を変えて常に皆の側におるぞ」

その言葉に媛巫女が涙する。



だが…

「詭弁を申すな!」と、激しい罵声が飛んだ。


「媛巫女様、騙されてはなりませぬ。この者達は媛巫女様を懐柔して、巡所に案内させようとしているのです。厄災()の封印を目論むこの者達を、決して巡所に近づけてはなりませぬぞ」

そこには、その美しい顔を歪めた玉藻が必死に媛巫女を説得しようとしていた。


「あら、貴女も厄災()と呼ぶのね。もしかして、媛巫女の洗脳でも企んでたのかな?」

海が鋭く玉藻を睨む。


その時、優の懐から護符が飛び出し前鬼と後鬼が現れた。

此奴こやつ、邪鬼の臭いがするなり!」

「そこの女子おなごから、狐の臭いが漂ってくるなり!!」

前鬼と後鬼が玉藻を睨みつけた。


すると『ニタリ』と玉藻が笑い、「やれやれ、媛巫女をこちらの思い通りに動かす予定が狂ったわ」と、三尾の狐に姿を変えると、庭先に飛び出した。


その姿に媛巫女が驚く。

「玉藻…貴女は厄災の配下だったのですか?」


「ふん、箱入りの媛巫女を手玉に取り、修験者どもから引き離す計画が台無しよ。仕方ない…野狐達よ出ておいで!」



玉藻が変化した三尾の妖狐が声を上げると、何処からか野狐の大軍が現れた。



海が立ち上がるが…

「残念ですが、われはここまでです。たかが三尾の妖狐ごとき、其方らに任せましたよ」

放光王地蔵が光となり、天へと返っていった。



「後はお任せあれ!」

海が破魔の弓を手に、勢いよく庭先に飛び出た。

玉藻が変化した三尾の妖狐を睨みつけ、破魔の弓を引き絞る。




「さあ、玉藻。覚悟しなさい!」






用語解説  基本的にはWikipediaを参考にしています


(1)【与願印よがんいん

仏が衆生の願いを聞き届け、成就させることを示す印相。手のひらを外に向けて下げ、指先を垂らす形。


(2)【錫杖しゃくじょう

僧侶や修験者が携帯する杖の一種

先端の金属製の輪が音を出す構造で、この音を響かせ、煩悩を除去し智慧を探ります。


(3)【六地蔵ろくじぞう

六道(地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人間道、天道)のそれぞれで衆生を救済する6体の地蔵菩薩


1.金剛願こんごうがん地蔵:地獄道から救う地蔵菩薩

2.金剛宝こんごうほう地蔵:餓鬼道から救う地蔵菩薩

3.金剛悲こんごうひ地蔵:畜生道から救う地蔵菩薩

4.金剛幢こんごうとう地蔵:修羅道から救う地蔵菩薩

5.放光王ほうこうおう地蔵:雨を降らせ五穀を実らせる地蔵菩薩

6.預天賀よてんが地蔵:天上界を救済する地蔵菩薩

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