封印の旅『神山編』 その3
鬼の籠を抜けた一行は、さらに深く神山の地に入り込んで行く。
しかし、その山道をご機嫌に歩く海の腕の中で、前鬼と後鬼がプンスコと怒っていた。
「海は我らを運ぶ役目があるなり!勝手に死ぬことは許さないなり!!」
「そうなり。たとえ摩利支天の御力があったとは言え、死を迎え入れたのは許せないなり!海は妾達のことを考えてないなり!!」
『え?もしかしてツンデレ??』
海が嬉しさのあまり、前鬼と後鬼に頬ずりする。
前鬼と後鬼が、そんな海を温かい目で見ながら言い放つ。
「「二度と勝手に、我らが心配するような事をしたら許さないなり!!」」
「「前鬼と後鬼の言う通りだぞ」」
空と優も、真っ赤に充血した目を海に向け、お説教を始めた。
だが…「私は大丈夫だから。それに…今回の試練って、次の巡所の封印に、凄く大切な意味があったんだと思うんだ!」
屈託なく笑う海に、それ以上の言葉は必要なかった。
ーーーー
「媛巫女様。この隠れ郷に、須佐之男の加護を受ける者が近づく気配が致します」
媛巫女と呼ばれた少女の顔が歪む。
「玉藻よ、妾はどうすれば良いのでしょう?」
「媛巫女様の御心を乱すような輩は、この玉藻が排除致しますので、ご安心ください」
「なれど、この地に辿り着くのであれば、鬼の籠の試練を抜けたと言うこと。すなわち、御仏様の使いではないですか?」
「たとえ御仏の使いであろうとも、須佐之男の加護を感じるような者を、媛巫女様に近づけるわけにはいきませぬ。私共に全て任せて、媛巫女様は御寛ぎください」
玉藻と呼ばれた奥女中が、その美しい顔を下げながら媛巫女をなだめる。
その後も、玉藻が媛巫女を安心させるように言葉をかけ、その場を退く。
だが、去り際に見せた玉藻の薄ら笑いと、怪しく光る目に、媛巫女が気付くことはなかった。
その場に残された媛巫女が天を仰ぐ。
「あぁ、大宜都比売様。妾はどうすれば良いのでしょうか?」
ーーーー
神山を深く分けいる一行が
••••• ヌルリ ••••••
と、再び結界を抜けたことを感じた。
結界を抜けた一行の目に飛び込んできたのは…
「ここは…」
「すごく綺麗!」
「ここが桃源郷か?」
一面の枝垂れ桜が満開に咲き誇る、まさに神の楽園だった。
「枝垂れ桜の園だから、櫻源郷と言うべきかな」
空が周りを見渡しながらつぶやいた。
その時、凛とした女性の声が響いた。
『修験者達よ。直ちにこの隠れ郷から去りなさい!』
いつの間にか、白装束の姫騎士達が薙刀を構えて空達一行を取り囲み、その中心に立つ、一際美しい女中が、空達を睨みつけていた。
「待ってくれ、俺達は怪しい者じゃない。厄災の封印をするために、この地を訪れただけだ」
「そのような戯言で、この神領の隠れ郷を乱させはせぬ。媛巫女様が御座すこの地は、この玉藻が守ります。特に…そこな穢らわしい小娘。其方だけは、媛巫女様に合わせるわけにはいきません」
玉藻と名乗る女中が、海に薙刀の鋒を突きつけた。
「あら、私が何か?」
身に覚えがない海が平然と笑うが、その目は厳しく玉藻を睨みつけていた。
「其方から臭う、その忌々しき神力は紛れもなく須佐之男のもの。よくも図々しく、この地に来れたものよ」
「ちょっと何を言ってるかわからないんだけど、薙刀の勝負なら受けて立つよ」
前鬼と後鬼を護符に返し、イヤリングを薙刀に戻して玉藻と正対する。
「生意気な。これを喰らうがよい…め〜〜ん!」
玉藻の掛け声が響き、海の頭上を鋭く刃先が襲う。
「甘い!」
海が軽くその切先を払い、お返しとばかり「お脛〜」と玉藻の足元を払う。
慌てて後ろに飛び退く玉藻。
「穢らわしい小娘が、小癪な…」
玉藻が、更に激しく薙刀を振るうが
「ほら、踏み込みが甘いわよ!」
「あら、今の一撃は惜しかったわね」
海が危なげなく、玉藻の薙刀をかわす。
やがて…
「あら、息が上がってるけど、年配の方には厳しかったかしら」
息も絶え絶えの玉藻に、海が揶揄うように声をかけた。
「舐めるな〜」
その声に、更に激しく玉藻が薙刀を振り回すが、徳を高めた海は、軽々とその斬撃をかわしながら、時々揶揄うように反撃を加える。
空と優、そして姫騎士達が、その様子をオロオロしながら見つめていた。
そこに
「玉藻よ、貴女の負けです。薙刀を引きなさい」
と鈴を転がすような声が聞こえた。
「媛巫女様、危のうございます。あの娘からは、須佐之男の加護を強く感じます」と、尚も海に一撃を加える。
海がそれを払いのけ、「その娘の言うことを聞いた方がいいんじゃない」と玉藻を挑発する。
「双方とも引きなさい。修験者達よ、失礼を詫びますゆえ、わが屋敷に参られよ」
媛巫女が強く告げると、玉藻が悔しそうに薙刀を引いた。
そして、媛巫女と呼ばれた少女が空達を屋敷に招き入れた。
忌々しげにそれを見る玉藻の目が、空達を…そして媛巫女を怪しく睨みつけていた。




