エピソードZERO 【後編】
短編として公開済みの導入部分を修正しています。
長いので、前後編に分けています。
『第3話 旅立ちの章 その1』からが本編となります。
10話までは毎日更新します。
以降は3日ペースで投稿予定としています。
真如の教えを体得し、即身成仏の悟りを得てから数年の月日が流れた。
死國の地を巡り、修行を重ねて徳と行を高めた空海は、遂に厄災のアジトに辿り着く。
厄災のアジトの入り口では、空海と対峙する飫炉血の姿があった。
「空海よ、この前は逃してやったが、今回は確実に殺ってやるぜ〜」
「飫炉血よ、あれから数多の修行を積み、菩薩の悟りを得た吾が徳と行を見せよう」と九字印を切る。
「刮目せよ…臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
「吾が身体は既に仏身なり、仏身宿りて吾となす…『入我我入』」と、両手を合わせ仏身を召喚する。
そこに召喚されたのは観音菩薩だった。
観音菩薩は、相手に応じて姿を変える能力を有していた。
「仏身一体 観音菩薩の三十三応現身 より、『変化仏身 龍頭観音纏身!!』」
それは観音菩薩が変化する33の仏身の一つ、龍の背に立つ龍頭観音の御力だった。
「菩薩がどうした。我は厄災様の第一の家臣、死天王の飫炉血様よ。喰らえ、『邪蛇絞牙!!!』」
しかし、蛇の妖怪である飫炉血では、龍を従える龍頭観音に敵うはずはなかった。
「『天龍水砲!!!』」
全てを打ち砕く龍の水流により、飫炉血は滅された。
観音菩薩の纏身を解き、厄災のアジトに入り込むと、空海の前に無数の邪鬼を引き連れた、絡新婦と酒呑童子が立ち塞がった。
「数が多いな、ならば」と再び九字印を切る。
「仏身一体 執金剛神纏身!!」と、金剛力士とも呼ばれる執金剛神の御力をその身に纏う。
執金剛神の御力を纏った空海が、「『怪力無双!!!』」と手に持つ金剛杵を振り翳し、邪鬼を叩き伏せていく。
全ての邪鬼を祓い、絡新婦と酒呑童子を見据える。
『死天王を二体同時に相手にするには…』と印を切り直す。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前『仏身一体 千手観音纏身!!』」と、今度は千手観音の御力をその身に纏う。
「『千手千眼宝戟!!!』」
千手観音の御力により放たれた法術が、絡新婦と酒呑童子を滅した。
死天王の三体を退けた空海が、アジトの奥にある御簾の前に立つ。
「死天王は、三体で終わりか?」と訝る空海。
「役小角なら、妾が自ら処分したよ」と、御簾の奥から声が響いた。
ーーーー
それは、空海が厄災の棲家に辿り着く、少し前のこと。
「小角よ、あの空海とか言う修験者に、手を貸しておらぬかえ?」
「これは厄災様。何故にそのような言い掛かりを…。あの者は、五道を進む者。修羅道を往く我とは、相容れぬ関係にございます」
「ならば、石鎚山での修行に手を貸し、菩薩の悟りに導いたのは、どう言い訳するのかえ?」
「なるほど…何やら熱い視線を感じたと思えば、玉藻前にございましたか…ならば仕方ありませんな」と九字印を切る。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
小角の九字印によって示された道は、闇の道となり暗く地面の下を指し示す。
そこに召喚したのは、3つの顔に6本の腕を持つ、三面六臂の阿修羅だった。
「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす…『仏身一体 阿修羅纏身!!』」
そこには、阿修羅の御力を纏った小角の姿があった。
「厄災様よ、且方に恨みはないが・・・大いなる災いを防ぐため、其方を祓わせてもらう」
「おや、『島喰い』を知っておるか。しかし、阿修羅と帝釈天は不仲と聞いていたが…ずいぶんと仲良しになったみたいだねぇ」と、帝釈天の召喚に手を貸したことを皮肉る。
「あれは、あの坊やのセンスの悪さよ」と受け流し、厄災に躍りかかる。
その戦いは、熾烈を極めるが・・・やがて厄災が寝床に横たわり、「役小角・・・やはり喰えぬ男であった」
「此度も殺られた様に見せかけて、何処かで生き延びておるのであろう」と、辛うじて退けた小角に付けられた傷を労わるように目を閉じた。
「やはり厄災の力は強力だな〜。死なずに済んだだけでも儲けものか」と、小角は血塗れの身体を辛うじて動かしながら、厄災のアジトから遠ざかっていた。
「お膳立てはしておいた。後は任せたぜ…空海の坊や」
ーーーー
空海は御簾を払い除け、「残るは貴様だけだ。厄災よ、貴様を滅する」と改めて九字印を切る。
「吾が身体は既に仏身なり、仏身宿りて吾となす…『仏身一体 弥勒菩薩纏身』」
「おやおや、せっかちな坊やだねぇ」と、厄災が寝床に横たわったまま空海に笑いかけた。
「しかも弥勒とは・・・妾にも慈愛を施してもらえるのかねぇ」と、空海が纏う弥勒菩薩の御力を揶揄う。
「貴様の栄華も今日までだ。私がこの死國を平和な国に導く」と、空海が厄災に挑み掛かる。
「如来にも至らない坊やに、殺られる様な厄災様じゃないよ」と厄災が迎え撃つ。
果てしなく続くと思われた死闘であったが、先の戦いで役小角が宿す阿修羅が付けた傷が、厄災の力を徐々に奪う。
その隙を見逃さず、「56億7千万年 の封印『下化衆生 !!!』」と空海が唱えると、遂に厄災が封印された。
その封印に囚われながら、「其方の徳であれば、千年で妾は復活できよう。大いなる災いの前では…千年程度、昼寝のようなものよ・・・」
「弥勒菩薩の力を持ってしても、千年の封印までしか叶わぬか。だが、吾が意志を継ぐ者が、いつか如来を顕現し、九尾の妖狐を打ち倒すであろう」
空海は厄災の持つ88の能力を、四国各地の地下深くに一つ一つ封印し、その上に祠を建てた。
また、少しでも封印が永く続くように、この祠を参拝した者には、功徳 を与え、その功徳を持って封印の力と成すように施す。
「この地は、もはや死の國などではない、これからは四国として、平和に発展していくであろう」
すると、「空海様〜」と金長狸の声が聞こえてきた。
「これで悪い狐どもは全て追い出したね。これからは、いつでも遊びに来てね」と、その愛くるしいお腹をポンポコと叩いた。
ーーーー
そして、千二百年の時が流れ…時は令和
「ちょっと待ってよ、空」
「早くしないと置いて行くぞ、海」
と、明るい男女の声が響く。
ふと空が「そう言えば…」と話し出す。
「今朝、変な夢で目が覚めたんだよな〜。何か九尾の妖狐がどうとか、大いなる災いを防ぐため仏様と一体になるとか?」
「その夢私も見た」と海が驚く。
2人が同じ夢を見るって…とお互いに顔を見合わせた。
「お〜い、2人とも何してるんだ〜」と離れた所から海の兄である優の声が聞こえる。
「優、お待たせ」と、空が手を振る。
「ごめんごめん兄貴」と、海も笑いかける。
「おい空、何を馴れ馴れしく海の手を握ってるんだ?」
「そもそも、俺はお前たちの仲をまだ認めていないからな~」と空を睨む。
慌てて海の手を離した空が、照れ笑いを浮かべながら、「早く行かないと終わっちゃいますよ」と2人を急かした。
そのやり取りを聞いていた海は、『兄貴が『まだ認めてない』ってことは…』と、一人で頬を赤らめていた。
その頬は、『空』を染める夕日のように…赤く『海』を染めていた。
ここまでが短編で公開済みの導入部分に手を加えたものとなります。
なお、小角は役行者(役優婆塞)をモデルとしているので、本来なら五眼六臂の法起菩薩を纏うべきなのですが…他の仏との絡みもあり、メジャーな三面六臂の阿修羅を纏わせています。
仏教用語などは宗派でも解釈が異なるため、転移物のフィクションとして強引に引用する部分など、温かい目で見ていただけますようお願い致します。
用語解説 基本的にはWikipediaを参考にしています
(1)【三十三応現身】
観音菩薩が全てを見通し、全てに応じて変化する33の姿を現したもの
(2)【6道 5道】
「6道」は、仏教の概念である「六道輪廻」のことで、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天の6つの世界を指す。一方、「5道」は、修羅道を除いた5つの世界(地獄、餓鬼、畜生、人間、天)を指す
(3)【56億7千万年】
考えも及ばぬほどの年月を比喩したもの。
(4)【下化衆生】
菩薩が全てを導き迷いから救うこと。
(5)【功徳】
善行によって身につく能力や力、またその善行がもたらす良い結果や利益。
(6)【四国に狐がいない理由】
弘法大師が悪い狐を追い払ったため、四国には狐がいないとされています。




