表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空と海を継ぐ者 神も仏も居るんです  作者: 平木 ナヲル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/20

封印の旅『神山編』  その2

『鬼の籠の試練、その娘が代表して受けよ!』

無慈悲な声が響く。


「「待ってくれ!試練ならば俺が受ける!!」」

空と優が叫ぶ。

『貴様らはその娘の試練を見届けよ。それもまた試練よ』

再び声が響くと、海は荒れ果てた荒野に一人で立ちすくんでいた。


そして、その周りには痩せこけて今にも死にそうな子供達が、食べ物を求めて彷徨い歩いていた。

慌てて手を差し伸べるが、その手は子供の身体をすり抜けた。


『ここは死者が落ちる餓鬼の世界。娘…貴様の試練は、この世界に救済を与え、餓鬼を救うことじゃ。貴様の試練が終わらぬ限り、残された二人も鬼の籠からは抜け出せぬぞ』

その言葉を残し、辺りは静寂に包まれた。




周りを見渡しても、草木一つない乾燥した大地が果てしなく続いていた。

その大地をユラユラと餓鬼が彷徨い歩く。


手を差し伸べようとしても、生者せいじゃである海の手は餓鬼には届かない。

声を掛けようにも、餓鬼は食べ物を探して顔を上げることがない。



どれほどの時が流れたのだろうか?

鬼の籠に囚われた空兄と優兄貴は無事だろうか?

救いなく彷徨い歩く餓鬼を見て、海が涙を流す。


その涙が大地に落ちると、そこには一本の青々とした草が生えていた。


慌ててその草を引き抜き、餓鬼に渡そうとするが…瞬く間に枯れてしまい、餓鬼の世界に生者せいじゃの世界からの救いは届かない。



ーーーー



元の世界では、月読が須佐之男に詰め寄っていた。

「それで?…大宜都比売おおげつひめに頼まれたってどう言うことよ??」


「食べ物を行き渡らせるために、自分の身体をこの大地に拡散して欲しいと…」


「はあっ?アンタ、それで高天原たかまのはら ((1))を追放されたていよそおって、国中を彷徨い歩いてたの?バカじゃない!何で言わなかったのよ!!」


須佐之男が消え入りそうな声でつぶやく。

「だって…彼女の死に関わったのは間違いないし、大宜都比売からも、黙っていて欲しいと言われたから…」


「でも、大宜都比売は死ぬ必要があったの?生きたままでも何とかなったんじゃない??」


顕国うつしくに ((2))の大地に作物を根付かせるには…天界の女神の身体を捨てる必要があったんだ」

須佐之男が泣きそうな声で答えた。



「はあー!まあいいわ。今更言っても仕方ないけど、媛巫女にはきちんと説明しなさいよ。詳しい話はその後で教えてちょうだい」

かつての須佐之男の行動に意味があったことを知り、月読はホッと胸を撫で下ろした。



ーーーー



海が試練を受けている姿を、鬼の籠と呼ばれる暗い結界内に囚われた空と優も見ていた。


「何だよ、この試練!絶対に無理ゲーじゃないか!!」

プリプリ怒る優の横で、空は静かに手を合わせ、海の無事を祈っていた。


やがて、海の涙から草木が生える。

一瞬、光明が見えたかと思われたが、瞬く間に草木は枯れてしまった。

それを見た空が、青ざめた顔で天に向かって叫んだ。


「海の試練を止めてくれ!後は俺が引き継ぐ!!」


『それは出来ぬ。あの娘が試練を乗り越えぬ限り、其方らは先には進めぬ!』


「待て、此処には俺が残る。海と優は解放してくれ!」


あまりの剣幕に優が驚く。

「どうしたんだ空。一瞬だが草木も生えたし…あと一歩じゃないのか?」


「その一歩は…絶対に踏み越えたらダメなんだ!」

空の叫び声が響き渡る。


『流石は『智慧の利剣』を持つだけはあるか。良くぞ気がついたな』

厳かな声が天から降り注ぐ。

「ふざけるな!命を何だと思っている!!」


「え、どう言うことだ?」

優がキョトンと空を見る。

「あの餓鬼がいる世界は死者の世界。あの世界に干渉するには…海も死者になる必要があるんだ」

苦しそうに空が優に伝えた。


「何だと〜!そんなこと許せるか!!」

優も天に向かって叫び声を上げた。


『慌てるな、これは試練と言ったであろう。それに、あの娘…驚くほどの強運の持ち主と見える。間も無く試練は終わるであろう。神領の隠れ郷に向かい、媛巫女と共に八番巡所の封印を成し遂げよ』


その言葉を聞き、慌てて海の姿を見る。

その時見えたのは、海が自分の胸に短剣を刺す姿だった。


「「やめろ〜」」


その時、海の姿がかき消える。


ふと気がつくと、いつの間にか結界が消えており…笑顔で笑う海がそこに立っていた。



ーーーー



自分の涙に生えた草木が一瞬で枯れた時、海はその事実に気がついた。


「死者の世界を救うには…あの世界に行かないとダメなんだわ」

その事実に心が押し潰されそうになる。


しかし、空兄や優兄貴の笑顔を思い出し、あの2人だけでも救い出さねば…と気丈に前を向いた。

そして、飢えに苦しむ餓鬼達を救ってあげたいとの思いが溢れ出す。


その時•••

『よくぞ頑張りましたね。貴女には妾が使つかいの猪を助けてもらった恩もあります。妾がこの試練を手助けをしましょう』と、優しい声が天に響いた。


「貴女は?」


『妾は摩利支天まりしてん ((3))。海よ、妾の御力を纏いなさい』


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」


そこに顕現したのは、先程助けた猪の上に立つ摩利支天だった。


「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす。

仏身一体 摩利支天纏身」


そして、摩利支天の御力を纏った海が、覚悟を決めてみずからの胸に短剣を突き刺す。

『『やめろ〜』』

何処からか、空兄と優兄貴の声が聞こえた気がした。


海は餓鬼の世界に立っていた。

食べ物を求め彷徨う餓鬼。

飢えと渇きに苦しみ、喉を掻きむしる餓鬼。

力なくうずくまり、ただ涙を流す餓鬼。


その姿に海の目に涙が溜まる。

「仏身一体のスキル 昇泪降雨しょうるいこうう


海の涙が天に昇り、雨となって乾いた大地に降り注ぐ。

辺りには見る間に草木が生い繁る。

そして、海の涙が降らせた雨が餓鬼に降り注ぐと、餓鬼の身体が光に包まれ、赤子の姿となり天に昇華していった。




『妾は陽炎かげろう。誰も妾を傷つけることは叶わず、ひとときの死も、陽炎の幻惑にすぎません。さあ、生なる世界に戻りない』

そして摩利支天が天に帰って行った。



やがて、天から厳かな声が響く。

『餓鬼達は輪廻転生の輪に戻った。これで鬼の籠の試練は終わりじゃ。其方であれば、媛巫女の説得も叶うであろうな。さあ、仲間の元に帰るが良い』






気がつくと、周りには木が立ち並び…心配顔の空と優が、試練を乗り越えた海を眩しそうに見ていた。





用語解説  基本的にはWikipediaを参考にしています


(1)【高天原たかまのはら

日本神話における天上界


(2)【顕国うつしくに

人々が暮らす地上の世界


(3)【摩利支天まりしてん

陽炎や日の光が神格化された女神。 猪に乗る姿で描かれることが多い。陽炎や日の光の如く人々を護る護身の神。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ