始まりの章 その4
空が「イカとタコとカニか!」と、智慧の槍を剣に変化させて構える。
海が「エビ、カニ、タコじゃないのね!」とつぶやく。
「チコタンか!何人分かるかな??」
優が笑う。
そんな軽口を続ける3人に向け、いきなりレッドデビルの口から黒い墨が吐き出された。
「これを喰らえ!」
慌ててそれをかわすが…その墨が付いた砂浜が『シュー!』と溶け出した。
「強力な酸だ!気を付けろ」と距離を取りながら空が叫ぶ。
気がつくと、クラーケンの姿が消えている。
海が何かの気配を感じ、薙刀を身体の前に立てる。
『バシン!』と薙刀に衝撃が走り、見えないクラーケンの一撃が海を襲った。
「まぐれとは言え、よくかわしたな」と何もない所から声が聞こえた。
いや、良く目を凝らすと背景が波打って見える。
海が薙刀を構え直して注意した。
「クラーケンが保護色で見えなくなってる。気を付けてね」
『ドッカーン!』と、何かが爆ぜたような爆発音が響く。
サラタンが、その巨大な右爪を優に振り下ろしていた。
「スゲー馬鹿力だな」と優が呆れながら、「蟹は爪が美味いんだよな」とガイアの剣を振り翳した。
吐き出される酸のため、空はレッドデビルに近づくことが出来ない。
次々と吐き出される酸を避けながら、『くそ〜、砂浜だから投げる石も無い。何か飛ぶ武器が欲しいが…』と考えていた。
すると、空の頭に『僕を呼びなよ!』と声が響いた。
その声に導かれるように、空が九字印を切った。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
すると、光の道が天に伸び、一人の童子が顕現した。
「僕は不動明王の八大童子の8番目… 制多迦だよ。不動明王から力を借りてきたから、手伝ってあげる」と、制多迦が再び光になる。
「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす…仏身一体 制多迦纏身!!」
制多迦を纏う空が、レッドデビルに手を向けた。
「飛べ!ガルーダ!!」
すると、空の手に小鳥サイズの火の鳥が現れ、レッドデビルに突き刺さる。
『何、このショボい威力。お兄ちゃん徳低すぎ!!』
脳内に制多迦の罵声が流れる。
空が苦笑しながら、「迦楼羅 の怒りを受けてみよ!」と、『智慧の利剣』に迦楼羅の炎を纏わせた。
「仏身一体の行 神技 不動爆炎!!」
レッドデビルは、全身を迦楼羅の炎に焼かれ、魔石を残して消えていった。
そして、空を纏う制多迦も「お兄ちゃんの徳ならここまでだね」と告げ光に返っていった。
空が闘う隣では、海が見えないクラーケンに手を焼いていた。
『手を焼くんじゃなくて、あのタコ焼きたい!!』と内心で愚痴りながら、辛うじて見えない触手の攻撃をかわす。
「何故かわせる?」と驚くクラーケン。
「え?何となくかな!」
「ふ、ふざけるな〜!!」
クラーケンの攻撃が更に激しさを増す。
すると海の脳内にも声が響いた。
『目で見ていては本質は掴めませんよ。さあ、私を纏いなさい』
海が九字印を切る。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
すると、光の道が天に伸び、一体の羅漢が顕現した。
「私は、釈迦の十大弟子 の一人、阿那律です。心眼に目覚めつつある貴女には、私が御力を与えましょう」と、阿那律が光になる。
「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす…仏身一体 阿那律纏身!!」
すると、海の視界から全ての景色が消えた。
『え?何も見えない…』
慌てる海に『落ち着きなさい』と声が響く。
『今そこにある物は、見えていようと、見えていなくともそこに存在します。見るのではなく観るのです』
海が意識を集中させ、何かが蠢くのを感じた時、自然にその言葉が発せられた。
「色即是空 空即是色」
すると、そこに蠢くクラーケンの形をした闇が観えた。
「仏身一体の行 神技 心眼十文字斬り!!」
「更に徳を高めなさい」の声を残し、阿那律が光に返る。
そこには縦横に切り裂かれたクラーケンが、砂浜に横たわり…そのまま消えていった。
同じ時、優はサラタンを迎え討っていた。
「神技 飛斬!」
「神技 飛斬!」
「神技 飛斬!」
閻魔大王の元で習得した飛ぶ斬撃を繰り広げ、サラタンを近づけず、一方的に攻め立てる…ように見えたが、サラタンの硬い殻は優の飛斬では傷もつかない。
『ダメだ。もっと威力を出すには溜めが必要だが、そんな余裕は…』と、今もサラタンの爪を辛うじて避けながら、力が入っていない斬撃を飛ばした。
「ガハハハハ!何だ、その情けない斬撃は!!」
サラタンが笑いながら、優の繰り出す飛斬を余裕で受け止める。
「その程度の攻撃しか出来ぬなら…さっさと死んでしまえ!!」
必殺の一撃が優を襲う。
「うわー!」と、辛うじてその場から転がり、その一撃をかわした。
その時、『やれやれ、その蟹の言う通りだ。その程度の攻撃しか出来ぬなら…さっさと死ね』と、脳内に声が響く。
『だが、威力を出そうにも…』と逃げ惑う優に、『逃げが貴様の修練した剣か?』と厳しく叱責が飛ぶ。
それを聞いた優がハッとした表情を浮かべ、ガイアの剣を構え直した。
「どうした!逃げながら飛ばす斬撃は打ち止めか?」
サラタンがニヤニヤと笑いながら間合いを詰めた。
しかし、優は一歩も引かず…いや、自分から間合いを詰め、お互いが必死の間合いとなる。
「死ね!!」
先に動いたのはサラタンだった。
その巨大な爪が優を捉えるその刹那、優の身体が弾けサラタンの爪を切り落とした。
『やっと自分の剣を思い出したか。ならば俺を纏い奴にトドメを刺せ』
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」と九字印を切る。
「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす…」と唱えると、地の底から闇が浮かび上がる。
その闇から一体の鬼が、「我は八部鬼衆(5)が一鬼 夜叉なり!」と告げながら顕現した。
「我が身体は既に仏身なり、仏身宿りて我となす…仏身一体 夜叉纏身!!」
そして、爪を切り落とされ棒立ちとなったサラタンに必殺の一撃を放つ。
「仏身一体の行 神技 鬼速抜刀!!」
『生を望めば死が近づく。死を受け入れて生を掴むが修羅道と知れ』と言葉を残し、夜叉が闇に消えていった。
用語解説 基本的にはWikipediaを参考にしています
(1)【八大童子】
不動明王の眷属。
1.慧光童子
2.慧喜童子
3.阿耨達童子
4.指徳童子
5.烏倶婆誐童子
6.清浄比丘
7.矜羯羅童子
8.制多迦童子
(2)【迦楼羅(迦楼羅焔)】
不動明王像の背で燃えさかる炎を迦楼羅焔といい、迦楼羅が吐き出す焔を言う。
迦楼羅は伝説上の鳥を指し、ガルーダ、火の鳥、フェニックスとも呼ばれる。
(3)【利剣】
煩悩や邪気を打ち破る智慧や仏の救いの力の象徴
(4)【十大弟子】
釈迦の弟子達の中で主要な10人の弟子
1.舎利弗
2.摩訶目犍連
3.摩訶迦葉
4.須菩提
5.富楼那弥多羅尼子
6.摩訶迦旃延
7.阿那律
8.優波離
9.羅睺羅
10.阿難陀
(5)【八部鬼衆】
四天王に仕え、仏法を守護する8つの鬼神
乾闥婆- 持国天の眷属けんぞく
毘舎闍 - 持国天の眷属
鳩槃荼 - 増長天の眷属
薜茘多 - 増長天の眷属
那伽- 広目天の眷属
富單那- 広目天の眷属。
夜叉 - 多聞天の眷属。
羅刹 - 多聞天の眷属




