パンタジアの崩壊 「プロローグ:GENENDの帰還」
こんにちは!タイから来た作家です。現在、日本の市場で小説を公開しています。日本の読者の皆さんに自分の作品を知ってもらいたくて、色々なジャンルに挑戦しています。日本語での表現にはまだ慣れないことも多いですが、温かく見守っていただければ嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!
ドォンッ!
獣の肉に剣が食い込む音が森に響き渡る。七つの頭を持つ巨大な蛇がもがくも、ブロンド髪の少女が振るった剣の刃によってできた傷口からは黒い血が噴き出していた。彼女は月明かりに反射する騎士の鎧をまとい、青と金で縁取られたマントの裾が戦場の風にひるがえっている。
「遅かったわね…終わりよ、やぁっ!!」
彼女は地を蹴って前に飛び出し、剣を斜めに振り上げる。魔蛇の甲高い悲鳴が森を揺るがし、その体は地面に叩きつけられた。しかしその時—
「うっ—! 魔力がまだ残ってるの?!」
蛇の体から放たれた強烈な魔力の圧が彼女を押しつぶし、地面に膝をつかせる。彼女は剣を地面に突き立て、それを支えに立ち上がろうとする。
「…ちょっと油断しちゃったわね」
その声に恐れはなく、むしろ苛立ちがにじんでいた。ぷるぷると揺れる透明で丸いモンスター“ポル”が彼女の隣にいて、慰めるかのように震えている。
「帰りましょう、ポル」
彼女は深く息を吸い込み、背を向けて歩き出す。この勝利に命を賭けるほどの価値はない――そう判断した彼女は、無駄に力を使う必要はなかった。
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現代、パンタジア王国暦594年
この世界は「メデリアン」と呼ばれている。その広大さは誰にも計り知れず、三つの主要な大陸に分かれており、それぞれ全く異なる文明を持っている。
まず一つ目は「パンタジア」。魔法と古代技術が栄えるこの地には、多くの人間が住んでおり、巨大な都市や堅牢な要塞、長い歴史を持つ王国が数多く存在している。
世界の西には「アヌビス」がある。果てしない砂漠に覆われ、時の流れと共に飲み込まれた遺跡や古代都市が点在するこの地では、霊魂と死の力を操る文化が根付き、人々は目に見えない存在を信仰し、過去の精霊たちを崇拝している。
そして東には「モルカル」が広がる。魔獣と異種族たちの地であり、広大な草原や熱帯雨林、常に燃え盛る火山地帯が広がっている。この地の民は生まれながらの戦士であり、多くは狩人や大陸を超えて旅をする海賊である。
三大陸の他にも、伝説に語られる神秘の地が存在する。「ヌー・アトラス」と呼ばれる空に浮かぶ王国では、重力を操る魔法が使われており、また「ダルケン」と呼ばれる禁断の地は、禁術の魔法が生まれた闇の源とされている。メデリアン全土には、未解明の神秘と危険が満ちている。
パンタジア大陸の中心には、強大な力を持つ王国「パンタジア」がそびえ立っている。高度に発達した魔導技術と、天を突くような城壁に囲まれた首都「レファムス」は、文明と政治の中心であり「光の都」と呼ばれている。
レファムスの中心にはパンタジア王宮があり、その周囲には貴族や上級市民の区域が広がっている。さらに外側には高級店や巨大市場が立ち並ぶ商業区域があり、石畳の道路には夜になると輝く魔法が施されている。
この王国の魔導システムは極めて進んでおり、馬を使わずに動く馬車や、瞬時に情報を送信できる通信装置が存在する。
人々は特定の宗教や神を信仰していないが、代わりに己の力とこの世界の法則を信じている。強さと知識こそが未来を切り拓く鍵だと考えているのだ。
今夜は王国設立594周年の祝祭であり、同時に王女イヴレの誕生日でもある。王宮の大広間には各地から集まった貴族や要人たちで賑わっていた。
「本日ここに、王国の創設594周年と、我らが王女イヴレのご生誕を、皆で祝いましょう!」
国王の声が大広間に鳴り響き、人々は一斉に杯を掲げて「乾杯!」と叫んだ。市街地でも庶民たちが集まり、陽気な祝祭に興じている。この祭りは一年で最も大きな行事の一つだ。店々は夜遅くまで営業し、広場では芸人たちが舞を披露していた。
この王国には高度な文明、古代の遺産、魔導装置が数多く存在する。連絡や輸送に使われるそれらは使用者が限られているものの、運用には問題がなかった。
一般人がそれらを持っていない場合でも、必要ならば設備のある場所――例えば役所、組織、協会など――に集まれば事足りる。これらの施設は情報を迅速かつ正確に届けるために必要不可欠な存在だった。
「遅れてしまい申し訳ありません、陛下」
国王と一部の側近たちが談笑していたその時、小柄な少女が歩み寄ってきた。彼女は赤みがかった青いドレスを身にまとい、薔薇の輪のような髪飾りをつけていた。髪は金色で、瞳はピンクがかった紫色をしている。
「謝ることはない。こういう宴は気楽に過ごせばいいのだ……何と言っても、今日はお前の誕生日でもあるのだからな、我が愛しき孫娘、イヴレよ」
「……はい、おじいさま」
幼い王女――イヴレ。その本名は、
「イヴレ・アル・レファムス」
レファムス王国第七代目の王、ゼルディオ・レファムスの一人娘であり、王国の正式な後継者である。
イヴレは年齢よりも大人びた落ち着きと気品を備えていた。小柄で華奢な体つきながら、その眼差しには確固たる意志が宿っていた。
「それにしても、イヴレ姫……本当に美しくおなりになられて」
貴族の一人が近づき、丁重に頭を下げながら微笑みかけた。他の貴族たちも彼に倣って一礼する。
「ありがとうございます。皆さまも遠路はるばるお越しいただき、感謝いたします」
イヴレの口調には幼さが残るものの、その礼儀作法は完璧であり、周囲の者たちも舌を巻くほどだった。
王宮の祝宴は盛大に行われ、音楽隊が優雅な旋律を奏で、料理人たちは腕によりをかけて豪華な料理を振る舞った。
まるで、この世界のすべてが平和と繁栄に満ちているかのように見えた――
しかし、それは幻想だった。
――ゴゴゴゴゴ……
地面が震えた。
最初は誰も気づかなかった。だが次の瞬間、城の天井がひび割れ、石の破片が落ち始めた。
「地震か?!」「まさか、敵襲!?」「警備隊を――!」
混乱の声が飛び交い、人々はざわめき始める。
「おじいさま、これは……?」
「イヴレ、私のそばから離れるな!」
ゼルディオ王は剣を抜き放ち、すぐにイヴレをかばうように前に立った。だが、次の瞬間――
ズドォォン!!!
爆発音と共に、巨大な闇が空間を裂いて現れた。それは炎でも雷でもない、“虚無”そのものだった。見る者の心を凍らせ、魂を引き裂くような黒。
それが、王国の中心に現れた。
「こ、これは……『ヴォイド』……だと!?」
誰かが叫んだその名は、忌まわしき存在。古の記録にしか残されていない、世界を蝕む“虚無の災厄”。
そしてそれは、すべてを飲み込んでいった。
人も、建物も、魔法も、記憶さえも。
イヴレの瞳が見開かれる。
王宮が、街が、民たちの叫びが――闇に呑まれていく。
「いや……いやああああああ!!」
イヴレの叫びが夜空に響いた瞬間――
世界は、崩壊を始めた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!タイからの作家として、日本の読者の皆さんに作品をお届けできることをとても嬉しく思います。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!