【天然危険物】AI挿絵はあり? なし?
黒 「おひさしぶりっこ(死語)の黒崎です」
チ 「そんな恥ずい挨拶を恥ずかしげもなくかます破廉恥ド遅筆野郎のイマジナリー相棒、チロンちゃんなのです」
黒 「さて、1年以上ぶりに垂らす毒エッセイのテーマは『AI挿絵は是か非か』だ。
なろうやノクターンには挿絵にAI生成物を使ってる作品がある。その是非とやらを独断と偏見で語っちまおう、という寸法よ」
チ 「おー。君子なら近寄らない危うきネタをチョイスする御主人の蛮勇にスタンディング・オベーションなのです」
黒 「なお、ここでは便宜上〝AI挿絵〟と呼ぶけど、扉絵や設定画など、あらゆる画稿を含むと理解してほしい。
また、俗にいうポン出しのAIイラストだけでなく、トレスや加筆したものも含む」
チ 「らじゃ。ではでは、ネチっと語る前に御主人のスタンスを示しておくのが肝要と思うのでキリキリ示すがよいのです」
黒 「是か非かで言うなら非、ってのが僕様の考え。
とくに本気で書籍化やコミカライズを狙ってるなら、AI挿絵は自殺行為に等しいと思ってる。
じゃ、その理由をダラっと語ろうか」
【懸念①】 法的なリスク
黒 「AI挿絵をオススメできない理由の第一は、法的なリスク」
チ 「データセットの著作権問題とか?」
黒 「それもあるが、さらに深刻なのは〝ユーザーがより直接的に著作権を侵害してしまうかもしれないこと〟だ」
チ 「ほほー。なにやら戦々恐々の気配なのです」
黒 「生成AIは膨大な学習データの平均値をもとに模範解答を作り出す、と思われがちだが、実は違う。偏差の最大多数域であろう回答をするんだよ」
チ 「??? どゆこと?」
黒 「テストの点数を例に考えてみよう。
30人でテストをして、
0点が3人、30点が5人
60点が7人、90点が15人
という結果だったとする。
この場合、平均点は64点。
一方、最も人数が多いのは90点なので、偏差の最大多数域は90点となる。
両者には、かなりの差があるだろ?」
チ 「ですね」
黒 「このように平均値と最大多数域は必ずしも一致せず、むしろ大きくズレてることが多い。母集団の性質(テストでいうなら受験者の学力)のバラつきが大きいほど、このズレは大きくなりやすい。
では、ここで問題。
客観的にみて、このテストで目指すべき標準となるのは何点でしょう」
チ 「平均の64点」
黒 「ブブー」
チ 「あじゃぱー。じゃあ最大多数の90点?」
黒 「当たり。90点とった人が一番多いなら、傍目にはそれが基準──そのテストでは90点とるのが〝普通〟ということになる
このように我々の常識とか、正義とか、一般論とか、あるいは普通とされる概念は、価値観の偏差の最大多数域なんだよ。平均値ではなくね。
だから、ほとんどの生成AIは原理的に偏差の最大域の回答を作り出すようにできてる。
ときに斬新な回答をするようにも思えるが、それはそう感じる人間の見識が足りていないだけ。プロンプトに対して必要充分な質と量の学習データがあるなら、そのAI生成物は統計的・数理的に最も無難な要素で出来てるのさ。
チ 「ふむふむ。それでAIイラストはどれも似たり寄ったりなのですね」
黒 「プロンプトの工夫、ネガテイブ・プロンプト(忌避命令)の活用、任意の追加学習などで、ある程度は画風を操作できるが──
基本的なアルゴリズムはどうしようもなく、指示した方向性における模範回答が出力されることに変わりはない。
結果、どうあがいても既視感のある絵になる」
チ 「ふーん。マスピ絵だらけなのはユーザーの趣味かと思ってたのです」
黒 「まぁ、好みの問題もあろうが、彼らが思うところの〝神絵師〟になりきりたいプロンプト屋さんが挙ってマスピ絵を作らせてる、とみるほうが的確かと。
いわゆる量産型のマスピ絵って、絵心の無い人が直感的に〝上手い〟と感じる画風の類型なのよ。逆に絵心のある人ほど個性的な画風を好みがちで、マスピ絵には魅力を感じない。
余談だが、マスピはmasterpiece(傑作)の略で、本来は褒め言葉だ。
それが没個性的な絵の代名詞になってしまったのは、人気絵師の画風を表面的にパクっただけの〝見映えはいいけど味気のない〟AIイラストが粗製濫造されたからさね。
──と、ここまでが前段」
チ 「まだ前段? なげーよボケカス、と心の中でディスるのです」
黒 「あいかわらず心の声がダダ漏れですが」
チ 「それはさておき可及的すみやかに本題に入りやがりください」
黒 「前述のとおり、生成AIは与えられた指示文に対して最も無難であろう出力を返そうとする。膨大なデータセットの中から条件に合う情報を抽出・合成する、いわば模範回答合成型検索エンジンなんだ。
その精度はデータセット(機械学習で溜めこんだサンプル)の質と量で決まる。
ここで注目すべきは、生成AIに人間並みの類推はできないってこと」
チ 「??? どーゆー意味なのです?」
黒 「人間は、本物の猫の写真を参考にしつつ、キティちゃんみたいな抽象化・記号化した猫キャラを作ることができる。が、AIは生成したいものの学習サンプルがないと描けない」
チ 「より具体的なデータが必要なのですね」
黒 「直接的と言ったほうがいいかもな。
では、ひとつ実験をしてみよう。
代表的な画像生成AIであるStableDiffusionに〝初音ミク〟と入力すると、デフォルト設定でも一発でミクだろうと判別できるパチモン画稿を作る(※①)」
※①〈初音ミク〉と入力した結果
このことから、初音ミクを固有のキャラクターとして認識していることがわかる」
チ 「ミクたんはファンアートが多いから、無断機械学習し放題ですもんね」
黒 「一方、同じ条件で〝磯野ワカメ〟と入力したところ、謎の和柄が出てきた(※②)」
※②〈磯野ワカメ〉と入力した結果
チ 「あらま。キャラですらないのです」
黒 「対応する学習データがあまりにも少なく、磯野ワカメが固有名詞であることさえ認識できないんだろうな。
それでも無理やり生成すべく、〝磯〟と〝野〟から磯菊や磯菜といった植物を連想し、花柄模様を作ったのではないかと」
チ 「〝ワカメ〟の要素はシカトなのです?」
黒 「いや、もういっぺん生成させたら海藻の画像が出てきたよ(※③)」
※③〈磯野ワカメ〉を生成させた結果のひとつ
チ 「これはこれでウケるのですw
でもでも御主人? ググればワカメちゃんの画像は出てきますよね。だったら学習するチャンスはあるはずなのに、どうして生成できないのです?」
黒 「推論だが、学習サンプルがあまりにも少ない場合は機械学習が機能しないようにしてるのかも」
チ 「なんで、そんなことを」
黒 「できるだけたくさんのサンプルを混ぜ混ぜしないと、特定のサンプルにそっくりの出力をしちゃうからだよ」
チ 「なるほど。著作権対策なのですね」
黒 「ただ、ときおりその機能がうまく働かず、特定のサンプルに酷似した出力をしてしまうこともある。プロンプトが具体的なほど、そうなりやすいようだ。
他方、初音ミクの例からもわかるように、学習サンプルが豊富な有名キャラは固有の概念として定着し、名前を入力するだけで生成できる。
これは、キャラとその象徴的な要素が紐づけられてることを意味する。
ならば〝ツインテールの少女〟と指示してもミクっぽいキャラを作るんじゃね? と実際にやってみたのが※④。ミクにならないよう、あえて髪の色を変えてみたんだが──」
※④〈青いツインテールの少女〉と入力した結果
チ 「んー。前髪の感じとか、絶妙にミクたん感ありありなのです」
黒 「だよな。色合いこそ違うが、ノースリーブにアームカバーというコーディネートも何気にミクっぽいし。
前述の通り、AI生成物はデータセットの最大多数域の合成物だ。
なので無断機械学習で著作物をたらふく喰ってる場合、利用者が意図せぬまま著作権侵害の実行犯になってしまう蓋然性があるのよ。
初音ミクほどの有名キャラなら、さすがに似てると気付くだろうが、世間的にはそれなりに人気だけど自分は知らないキャラだとしたら──」
チ 「気付かないうちにガチパクしちゃうかもなのです。恐ろしや」
黒 「まあ、人間だってうっかり既存の著作物に似たものを作ってしまうことはある。しかし※④を見ればわかるように、生成AIのほうがはるかに依拠性の高い〝パチモン〟を作ってしまいやすい。
それこそが生成AIを利用するうえでの最大のリスクと言えよう。商業利用がなかなか進まないのは、このためさ。
だから既存の生成AIに頼らず、独自のものを開発しようとしている企業もある。
わざわざ多額の投資をして新しい生成AIを作ろうとするのは、既存のものが危なっかしくて使えないからに他ならない。
ここで参考までに、AI生成物と著作権に関する文化庁の見解を引用しておこう。
条件付きとはいえ無断機械学習を認めている著作権法第30条の4の存在からも分かるように、日本の政財界はどういうわけか生成AIに激甘だ。
しかし、アメリカやEUでは着々と法規制が進んでいて、いつまでも日本だけが例外ではいられまい。
事実、世界的には特異な著作権法第30条の4に関しては、ベルヌ条約の理念に反するという国内外からの批判が根強く、「同条項は国産生成AIの発展に寄与する」としていた文化庁や経産省はすっかりトーンダウンしている。
イギリスが似たような法律を作ろうとして挫折したように、世界が無断機械学習を許さない方向に向かっているのは明らかだ。
ならば、国産生成AIの信頼度を上げるためにも、件の条項の撤廃を含めた包括的な法整備が急がれよう」
【懸念②】 書籍化のチャンスを逸する
黒 「お次は、こちら。
懸念①の法的リスクにより、AI挿絵をそのまま商業利用することはできない。よって書籍化やコミカライズのさいは当然、絵師に依頼することになる。
だが、画像生成AIに否定的な絵師は多く、蛇蝎のごとく嫌ってる人も珍しくない。そういう人は、AI挿絵を使う作家の依頼なんか受けないさな」
チ 「でも、神絵師さんがみんな生成AIを嫌ってるわけじゃないですよね? なかには気にしない絵師さんもいると思うのです」
黒 「気にしないどころか、AI推進派の絵描きもいるよ。ところが生成AIがらみの〝やらかし事案〟が増えるにつれ、世間様の風当たりは強くなる一方だ。
当初は無条件で絶賛してたマスゴミも法的な不安要素を言い添えるようになってきたし、ある調査では8割近くの国民が〝生成AIには更なる法規制が必要だと思う〟と答えている」
チ 「んー。そのあたり、日本人は特にシビアみたいですね」
黒 「パブコメの統計をみても、厳しい目でみてる人が多いのは確かだな。具体的な反対運動は海外のほうが活発だけど。
ともあれ〝なんか生成AIって胡散臭くね?〟って認識が支配的になりつつある今、よほどの鋼メンタルかエゴイスト、もしくは無知でない限り、あえて積極的に使おうとはしまい。てことは──」
チ 「使ってると〝そういう人〟だと思われちゃう?」
黒 「ああ。それが事実かどうかはさておきね。となれば否定的でも肯定的でもないニュートラルな絵師たちも、世間体を気にして否定的な態度に傾きやすくなろう」
チ 「ですね。巻かれるなら長いもの、とりま大樹の陰に寄っとけの精神なのです」
黒 「てなわけで、AI挿絵を使ってると大半の絵師さんからソッポを向かれ、書籍化やコミカライズのチャンスが遠のくのは自明の理。
AI挿絵の作品が書籍化した例もあるにはあるけれど、迂闊に生成AIを使えばもれなく炎上する昨今、もはやAI挿絵はメジャーデビューの足枷にしかならないと考えたほうがいいかと」
【懸念③】 集客力と民度の低下
黒 「最後は、これ。AI挿絵は集客の妨げになるばかりか、民度の低い読者を選りすぐってしまうかもしれない、って話」
チ 「あやや? AI挿絵を嫌う人は多いでしょうから、集客力がさがるのは分かるのです。でも、読者の民度が低くなるってのは、どうしてなのです?」
黒 「ぶっちゃけ、現状の画像生成AIに肯定的な人は著作権に対する意識が極めて低く、作品や作家へのリスペクトにも乏しいと思わざるをえない。
全員がそうだと決めつけるつもりはないが、その傾向が顕著であることは、いわゆるAI推進派の言動からしても明らかさな。
で、そうした界隈の悪評が広まるほど中立的な人も否定派に傾き、かくして否定派が大勢となるや、それが正義のような雰囲気となった。
それでもなおAI挿絵を気にもしないのは、どんな人だと思う?」
チ 「……むー。さしものボク様も口にするのが憚られるのです」
黒 「だわな。さすればAI挿絵の集客力はますます下がる。効果が弊害に打ち消され、ややもすればマイナスに作用してしまうからだ」
チ 「〝彼ら〟の同類だと思われたくない心理が、新規の読者を遠ざけてしまうのですね」
黒 「そゆこと」
【まとめ】
黒 「ちょいと厳しい言い方になるが──
AI挿絵を使うなら、〝書籍化もコミカライズも目指さず、およそ上質とは言い難い読者にばかり囲まれて満足してる物書き〟と評価されても致し方ない。
そのレッテルに憤慨する矜持があるなら、集客効果より逸失利益のほうが大きいであろうAI挿絵に頼るのは、やめたほうがいい。
ついでに言うと、執筆に生成AIを利用するのもやめたほうがいい。
まあ、誤字・脱字を検出させるぐらいなら、作品をAIのエサにされる以外のリスクは無いだろうけど──小説を作らせて参考にしようってのは、全くおすすめできない」
チ 「ほう。そりゃまた何故?」
黒 「文章の場合、画像以上に学習サンプルへの依拠性(参考の度合い)が強くなりがちだからさ。
ことに小説では、既存の作品を切り貼りしたような作文をすることがあり、プロンプトが細緻であるほど、その傾向は強くなる。
だからAIに頼って小説を書いてると、知らないうちに盗作しかねないのよ」
チ 「あやややや。それってば怖すぎてタマひゅん案件なのです」
黒 「……お前、タマ無いだろ」
──終劇──
いかがでしたか?
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もちろん1個でもありがたや。
でもって、ついでに他の拙作もサクッと読んでみてほしいのであります。
く(`・ω・´)
では、また。
いつか、どこかで──