壱
神社とつながる小さな昔ながらの家がれん達を待ち構える。そこに一人、神主の姿をした老人がいる。
「おーい、親父!新年の挨拶に来てやったぞ!」
「…晴哉、何じゃ、その言い草は!お主、自分の実力をわk」「じいちゃん、あがるなー!」話を遮り、兄がドカドカと土間にあがっていく。
「おい、晴武!礼儀作法をしっかりと身につけよと言ったはずじゃぞ!」
「お久しぶりです。晴康さん。」
「うん、久しいの、恵梨香さん。」
この男、緋村家が神主を務める神社の現神主、緋村晴康。文武両道を極め、その見た目に惑わされる者も多い。見た目は60歳ほどだが、現在94歳の老人である。
「おじいちゃん、おひさ!」
「おお、れん、おひさ?じゃなww」
「相変わらず元気いっぱいだね!」
「おう、これでも、まだまだ能や歌舞伎は踊れるぞ!」
「親父、ちいと話があんだけど。」
「…分かった…れん、後でまたJK?の話を聞かせてもらえんかの?」
「うん…いいけど…」
れんが返事を返すと、すぐに父と祖父は部屋へと入っていった。
一時間が経った。れんは苦虫をかみつぶしたような顔で高校の予習をしている。そして、その様子を面白そうに見守る兄とその兄に「あんたも勉強しなさいよ。」と小言を言う母が居間にいる。
「お父さん達まだ?私呼び出されてるんだけど、いくら待てばいいの!」
「まあまあ、落ち着きなさいって」
「そだぜ、根気強く、根気強く!」
父と祖父は部屋に入ってから、1回も外に出ていない。それと同時にれんは祖父の家に来てから、あの謎の声が聞こえないことに不信感を覚えていた。
「そうだわ、お母さんに挨拶しに行きましょう!」
母が祖母の仏壇に行こうとした時、
「おい、れん。ちょっと話がある」
父が呼びに来た。
「やっとかー、おっそいよー」
「ごめんごめんww」
れんは緊張していた。久しぶりに祖父の寝室に入るからだ。なぜ今まで入らなかったのか、どうしてここまで緊張するのか。よくわからない。でも、ただ一つ分かるのは、不気味な気配がすることだけ。
「入るよ?」
「ああ」
「そんなに緊張しなくて良いから」
れんが襖を開けた。
しかし、そこには畳も電球もない。
雲が流れ、青く尾の長い謎の鳥と思われる生き物が飛び、平安時代小説に出てくるような寝殿造が待ち構えていた。
「な、な、何これ…」
「怖い怖い!無理無理、帰る!」
れんが後ろを振り返った時、襖が消え、神々しく輝く衣服を纏った顔面偏差値90を超える男が目の前を歩いていった。
(いやいや、あり得ないって!何あの神イケメン!クラスの男子でも見かけなかったよ!というかお父さんたちはどこ!マジで怖いよ!え…もしや…私…死んだ!?)
「んな訳ねえじゃんww」
「ウワッ…びっくりした~」
「あれ?驚かせちゃった?」
れんの心を読むかのようにしゃべりかけてきた赤髪に赤茶色の目をし、{妖}と書かれた白い布で口元を隠す謎の人物。頭をかきながら、またしゃべり出す。
「ごめんねwwそんなつもりなかったんだ。お嬢さん、君のお父さんたちはあの屋敷にいるよ。」
「本当ですか?」
れんがホッとした様子で聞き返す。
「本当だよ。なんなら連れてってあげよっか?」
れんは正直不安だった。初めてあった名も知らぬ男についていくのは危険すぎると。其れを見透かすように男は続けた。
「大丈夫だよww俺は君のおじいさんに逆らえないし。」
男は少し嬉しそうな表情を浮かべながら喋った。
(どういう意味だろう?)
「とにかく、行くよ~」
「ちょっと、痛い!痛いってば!」
男はれんの腕を無理やり引っ張りながら歩き始めた。れんの心は疑問と懐かしさでいっぱいだった。