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悪意の包容力(4)

 急に、風が吹いた。どこも開いていないのに、強い風が吹く。ちゃみはその髪をたなびかせ、風の行き先を見る。風は玄関からベランダへ続く掃き出し窓に吹いていた。

 2人は玄関を見るも開いていない事を確認、振り返ると――

 「――段ボール、剥がれてね?」

 風で、バタバタと段ボールが剥がれていく。たなびくガムテープの引き裂かれる音。段ボールの向こう側の窓は、部屋の明かりに反比例してまるで漆黒の海のよう。

 その、暗がりから。

 「ちゃみ先輩、アレ……」

 幕が開くように。

 「見てる、どうしよね」

 闇が消えていく。

 「ひっ、ひっぃぃぃ! 見ないでぇ!!」

 



 ――のっぺりと。窓いっぱいの男の顔が、そこに在った。顔が、巨大な顔が、地面からせり上がり、今……窓に目を押し付けて中をギョロギョロ見ている。

 



 シーリングライトほどある眼球の黒目が動き続ける。時折、呼吸をするせいか窓が白く曇り、それを窓についた肌が拭っていく。

 ハッハッハッハッハッハッハッ……という呼吸音が部屋中に響く。反響する呼吸音は脳の中にまで響くようで、ちゃみが思わずその場で吐いた。

 「ちゃみ先輩、俺、窓開けてアイツぶちのめしてくる」

 「ダメ゛ェ! それじたらっ、アタジら死゛んじゃう!!」

 吐しゃ物にまみれたマスクを外し、ちゃみは涙目になって海摩を制止する。彼女の背中を擦り、海摩は「マジか」と呟いた。

 「大丈夫、負けないっスよ。俺も悪霊憑いてるし。見たくないですか、悪霊大戦争」

 「……バカ言わないで。アタシは、死にたくない。勝ち負けとかどーでもいい」

 ちゃみは日傘で窓の向こうの化け物の視線から身を守りながら替えの黒マスクを取り出し、身に付けた。

 「――玄関から出る。今、そう心で決めても悪いモノが視えない。行こ」

 「えっ、鈴木さんは?」

 ぶるぶる震えてる鈴木を指差す海摩に、ちゃみは踵を返して吐き捨てた。

 「無視!!」

 「冷たい……」

 歩を進めながらちゃみは、

 「扉、開けて」

 靴を履きながら海摩に命令する。彼は、踏みつけるようにスニーカーを履き、「鈴木さん大丈夫かなァ」と心配する素振りを見せながら扉に手を掛け、開いた。



 「――こんに、ちわ」


 そこには、巨大な口が、在った。

 「っっっっジかよ!?」

 口は扉を塞ぐように縦向きに張り付いており、カサカサの唇も、黄色い歯も、口の周りのブツブツと生えた毛も、眼前で蠢いていた。

 生暖かい吐息、噎せ返る生臭さ。吐息に一瞬、目を覆ってしまった海摩に舌が伸びた。

 「――ぁァ!?」

 舌は器用に彼を包み込み、その巨大な口の中に仕舞いこもうとするも、

 「マジかよ!!」

 海摩は両手を扉に掛け、両足で踏ん張ってそれに耐えた。

 全身の筋肉が膨れ上がり、血管がパンプアップする。それほどの力で、舌は海摩を飲み込まんとしている。

 「ちょっ、ちゃみ先輩……助けて……っ!」

 ジリジリと口の方に丸められつつある海摩。力を込めている腕と脚がプルプルと震え、限界の近さを悟らせる。

 「ごめん、助けたらアタシも死ぬから無理」

 「~~~~っけんな!! このクソメンヘラッ!!」

 「言われ慣れたわそんなん」

 あっさり宣告され、当のちゃみは数歩下がり背を向け、海摩と玄関の巨大な口から離れる。

 舌を出し、笑っている口は「ハッハッハッハッハ」と荒い息を吐き出す。ヌラヌラと光る舌と、獲物に歓び小刻みに震える歯。徐々に扉から剥がされ、飲み込まれんとする最中、


 弾けた。


 音がした。光が見えたような気もした。気付くと、舌の拘束を剥がし、海摩は羽撃く鳥のように鷹揚に両手を拡げていた。

 「ぁに?」

 ちゃみが振り返る。そこには、首を不可思議な方向に曲げ、目を妖しく光らせている海摩がいた。


またすぐに更新します。

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