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悪意の包容力(1)

 海摩(シーマ)は道中、何度もちゃみに話しかけた。しかし、彼女は何も語らずに歩き続ける。靴のエナメルの輝きが暗闇で反射し、ゆるやかな光を放つ。その夜の中でも、彼女は日傘を射し続けた。傘は外界と彼女を遮断しているようであり、彼女は何も見ず、聞こえず、感じないように見えた。

 海摩も、最初の10分ほどは何度も「先輩! 今回の仕事は!?」や「先輩! 何年この仕事をしているんですか!?」と訊ねたが、何の反応もない人形のようなちゃみに、

 (パワハラ気質? いや、ここで諦めたら男が廃るじゃねェか!!)

 緊褌一番、彼はちゃみの進行方向に立ち塞がり、彼女の肩をそのグローブのような両手で掴んだ。

 「押忍!! 挨拶させてください!! 自分ッ今回から仕事を同行させてもらう鮫島海摩でっっっす!! ちゃみ先輩ッ!! 未熟な自分にご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします!!!」

 鼓膜に響く大声量。大口を開く様は捕食者のソレと酷似している。もはや、威嚇とも見られないその行為にちゃみは、

 「――えっ……ナンパ?」

 「どういう思考回路ですかソレ!?」

 肩を揺すられ、「あ・あ~」と口に手を当て喘ぐちゃみに、思わず海摩は手を離す。

 「気持ち悪い……」

 「あっごめんなさい!」

 ちゃみはそのまましゃがみ込み、そのままカタツムリのように傘の中に隠れた。

 「ごめん、アタシ……その、薬飲んでるから頭がボーっとして、何か良く分かんなくてぇ……」

 「あっすいませんでしたッ!! 背負いましょうか!!?」

 「えっなに、声の音量壊れてる……? 耳鳴りハンパないんだけど」

 「背負いますか!!?」

 「二郎かよ。ちょっと待って――待ってってば!!」

 海摩はちゃみを純粋な好意のみで無理やり背負う。抵抗するも、恐ささえ感じる力強さに、ちゃみは暴れることもできずに背負われてしまった。

 「コイツ頭おかしい……」

 「安心してください、引っ越しのバイトもやってましたから――まぁ3日で先輩に冷蔵庫投げ付けて首になりましたけど!!」

 「背負って5秒で犯罪自慢!? キ〇〇〇じゃんもう!!」

 「そんな事より今回の仕事って何ですか、ちゃみ先輩?」

 促されるも、彼女は人通りが少ない住宅街とは言え、人の目が気になり「下ろしてくれたら話す」と海摩に伝える。海摩もそう言われ、やっと彼女を解放した。

 「アタシ、もう君のこと嫌いかも……」

 「面と向かって言われるとけっこう傷つきますね」

 「いやマジで自業自得だろ」

 海摩は自身が事務所に就職した事を再度伝えると、彼女は目も合わせず、ファイルを見ながら相手をする。夜なのでただのフリである、目を合わせたくない為だけの。

 「――ん、分かった。あの、契約書に書いてあったと思うけど、この仕事、”業務上肉体的または精神的、あるいはその両方に不利益を蒙る可能性があるが以下の場合でもその責任は本人に付随する”って文面あったの見た?」

 「そんなのあったの?」

 あったのじゃなくて……とちゃみがファイルを閉じる。

 「――――致死率3パーセント。それがこの仕事。ソシャゲのガチャを引いたらSSレアが出るくらいの確率で人が死ぬ。アタシがここで仕事を始めてから、4人のうち2人が行方不明、1人が後遺症の残る怪我で引退、最後の1人は今も精神病棟の檻の中。毎回、君みたいな人が来て、アタシと組んで、いなくなる。アタシも、毎回自己紹介したり名前覚えたりするのがホント無理。だから、アタシん言う事聞いて? それが君の仕事。出来る?」

 それに対し、海摩は手を挙げて「はい!」と答える。

 「質問していいですか!?」

 「ぁに?」

 「何でそんなに危険なんですか?」

 その質問に、ちゃみは目頭を抑えて溜息をついた。

 「君のイカれた挨拶のお陰で脳みそがマトモな間に教えといてあげる。アタシは、未来が視えるの――”死ぬ瞬間のみ”の限定で! 何かしようとした時、それがアウトなら死ぬ瞬間が視える。だから、この危ない仕事で生き残れたの。でも――」

 ちゃみは話を遮って薬を何錠も流し込んだ。水無しで嚥下すると、再度黒いマスクで口を隠す。

 「薬飲まないと自殺する瞬間ばっか視ちゃうから、こーやって薬で意識を曖昧にしてるの。ボンヤリしてるのは悪いと思ってるけど、悪いのはみんな一緒でしょ?」

 そう言って彼女はまた傘を射して歩き出す。海摩は彼女が落としていったファイルと薬のゴミを拾い、後を追いかけた。


またすぐに更新します。

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