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結局家に帰れたのは日が登りきっての時だった。幸いなのが今日が日曜日と言うことだろう。

床で寝てたから体は不調で、喜怒哀楽が激しすぎて疲れた。だから、俺は重い足取りでシャワーだけを浴びた。本当なら風呂に浸かりたい。だが、沸かしている間にまた深い眠りにつきそうだから諦めた。

「はぁ、疲れた。」俺は冷蔵庫にあるビールを求めた。

一人暮らしの冷蔵庫は狭いが、申し分ないほど有能だ。帰ってくれば冷えている麦酒が飲めるのだから、他にだって生ハムやサラミ、チーズも冷やしてくれる。もはや、結婚を前提に考え始める。

感謝と高揚感を持ちながら冷蔵庫を開ける。

パン、チーズ、魚肉ソーセージ、パックのコーヒー、必要最低限のものは揃っている。

「嘘だろ、ビールないじゃん。」ガクッと細々く耐えていた気力が急降下した。

薄い布団に潜り眠ろうとした。日曜日の朝は思いの外静かで三連休であることを思い出させた。眠ろうとするほど聴覚は敏感になり回りの静けさでさらに際立つ。


カタッ カタッ カタッ カタッ


時計ではない何かの音が一定のリズムで鳴っている。


カタッ カタッ カタッ カタッ


いくらたってもやむ気配はない。耳がなれる気配もしない。俺は徐々に苛々し始めた。

「なんなんだ!どこでなってる!」布団を勢いよく剥ぎ、耳を澄ませる。

どうやら鞄の方から聞こえるようで、鞄を乱暴にひっくり返して中のものを出した。

スマホ、ライター、煙草、手帳、資料、くしゃくしゃになったコンビニのレシート。

男の鞄なんてこんなものだ。

「ん?なんだこれ」

鞄の中から、2、3cmほどの大きさの箱?が転がっていた。

あぁ、昨日矢沢先輩にもらったストラップか。

ストラップを拾い上げまじまじと観察した。動きそうもなく、中に機械がある感じもしない。

「これじゃないのか」

カタッカタッ

指先から振動が伝わる。箱が動いている。

「うわぁ!」箱を前方の方に放り投げ、箱の挙動をうかがう。

もしかしたら、あの小さな箱から何か大きく狂暴なものが出てくるかもしれない。

そうなったら俺はどうにも出来ないが、逃げたくなるし、身構える。

数秒様子を伺ったが、何かが出てくる様子はない。

カタッカタッ

箱が動いた。伸ばしていた手を引っ込めた。

「全く、最悪な扱いだ。もう少し広いとこに入れてくれれば良いものを」

声がする。少女のような少年のような。

俺は辺りを見渡した。テレビも動画ついていない。家の周りには人のいる気配がない。

「馬鹿か、目の前におるだろ?」

目の前を見た。そこには2、3cmの箱がある。

箱か、箱がしゃべっているのか。

信じられない思いをしても、馴れることはないらしい。

「やっと気づいたか阿呆が」

確かに箱から聞こえる。

「あぁ、お前はしならないのか。我の名を」

若い声なのにずいぶん古風な言い回しだ。

「し、知らないな」

「仕方ないな小僧。教えてやろう。我が名は、雲雀。よく覚えておけ小僧。」

自分よりずいぶん若い声から小僧と言われるのはいかがなものか。ただ、古風な言い回しをしているだけで若いのではないか?。

「わかった、雲雀。だが、年上に向かってその口調はいかがなものだろうか。」

やはり、大人とは冷静に落ち着いて指摘するものだ。

「小僧お前は、学生の頃佐々木と言う女に恋し告白したよな?愉快なことに学生全員知っている恋人持ちのことを知らずおずおずと告白しておったなぁ」

高校の時のことだ。

「上京した時、飲みサーに入り飲んだくれていたが二次会、恋人出来ずむなしく金を費やしただけだったなぁ」

大学の忌々しい若気の至りだ。

「あぁ!これを忘れていた!小わっぱの時、ミサコのところ森で迷子になり新聞にも載ったなぁ」

小学生の時、ミサコおばあちゃんの田舎で3日間も迷子になり地元の新聞に載ったのだ。帰ってきたのは奇跡だと。それ以来ミサコおばあちゃんの田舎には行っていない。

「な、なんでそんなことまで知っているんだ」

「簡単だ阿呆。我がお前より年上なだけよ。年上には言葉を慎めよ」

箱もとい雲雀は一体何なんだ。経験した幽霊、怪奇とは違う。もっと得体の知れないもの。そして、関わってはいけない。本能がそう言っている。過去の俺が。


「ミサコは、去年死去したなぁ。小僧次はお前だなぁ」



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