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3/7

取材

 あれから4週間、外にでたのは病院ぐらいだ。リモートで、校閲やもらった情報で記事を書いたりしていた。会話は全てチャットで行えて楽だった。そしてやっと、この前病院に行き完治が確認できた。今日は久々の出勤だ。

道中聞こえる人の声や鳥の鳴き声が懐かしく感じる。

「おや、平坂くんもういいのかい?」

後ろから聞き覚えがあったような声が聞こえて振り返る。綾瀬先生だ。

「お久しぶりです。もうバッチリ聞こえます!」

「良かったよ。そうだせっかくだしエレベーターを見てみよう。」

エレベーターどうしてだろうか。物珍しいものでもないし、普通に古めなだけなのにな。

「こっち?」

「はいそうです。」

外からは見えないが曲がってすぐにある。

「あれ?電気がついてない。」いつもはボタン、エレベーターの中と電気がついているのに全くついていなかった。

綾瀬先生はボタンを押す。


なにも反応はしない。

「仕方ない、階段でいくか。」

「あ、はい」

綾瀬先生は軽やかに階段を登る。

「はぁはぁ、」俺はこの4週間でかなり大量筋力が落ちたみたいだ。

「情けないな。平坂くんの方が若いんだから頑張りな」

ドアを開けて先に入っていってしまった。

「はぁー。おはようございます」

「うわ、すごい顔だなぁ」

矢沢先輩がコーヒーを飲みながら待ち構えていた。

「ええ、この4週間でずいぶん落ちたみたいで。」

「綾瀬先生が呼んでるぞ」

狭いオフィスだが応接空間は一応ある。

そこに足を運ぶと、綾瀬先生が涼しい顔でコーヒーを飲んでいた。

「取材取れた?」

「日程の返信はまだですが、来月にはできるかと」

「ありがとうね」

先生はコーヒーを一口飲んで続けた。

「今日、取材につれていこうかと思ったがあまりにも体力がないようだね」

「まさか、登山ですか?」

「いやぁ、またトンネルに行こうかとね」

正直行きたくない。大の大人でもトラウマになる。

「先生あまり、いじめないでやってください。鼓膜が破れたんですよ。俺でも行きたくないですよ」先輩が横から入ってきてくれた。

「矢沢くんも来れば問題ないだろ」

「綾瀬先生」矢沢先輩は目でNOと言った。

「わかったよ。矢沢くんだけでいいよ」

「そういうことだから、平坂通常業務を続けてくれ」

返事もする暇なく応接空間から追い出された。

「やるか。久々だなぁ」

パソコンを起動させる。4週間前のままだ。まぁ、当たり前だな。

昼休憩がおわり、15時ぐらいになった頃オフィスのドアが開いた。誰かと思ってみてみると唯一の同期、芦屋 (ミチル)だ。

「あれ?平坂じゃん。復帰したの?」

「もう完璧だよ。体力を除けばな」

「はぁ?こっちが山行ってる間ゴロゴロしてなぁ」

芦屋は俺とは違って入社そうそう取材に行っていた。何でも昔からオカルト好きでわざわざここを志望したそうだ。

「やーもう大変でさぁ」

「なんの取材にいったの?」

「山の怪異について、もう全部よ」

「へーそうなんだ」俺はこの業界に入ってからも全く興味を示しておらず、知識なんて皆無だった。

「えー、1つもわかんないの?」逆に芦屋は知識が豊富すぎる。もう俺は要らないだろってぐらい。

「あーえー、くねくね?」

「今回のとは違うけどまぁ、近いね。田舎だし」

「惜しかったなぁ」俺はまたパソコンに向き直る。

「そういえばさ、矢沢先輩から聞いたんだけどここのエレベーター使ったことあるの?」

「え?なにいってんだ?普通に使えただろ。今日は使えなかったみたいだけどな。」

パソコンを、見ながら答えた。

「え?」

「なんだ?芦屋」

「ここに来てからエレベーター動いてたとこなんて見たことない」

「偶然だろ?」

「私試してるの、ここ一ヶ月」 

「良く続いたな。」

「うん。めっちゃ身近で楽だからね。」動機が不純すぎるな。

「それでね、ここのエレベーターの曰くがね。」パソコンから芦屋の方に向きかえり「辞めてくれ。怖いじゃないか。」と話を止めようとした。

「は?そういうの信じませーんwって感じだったじゃん」俺にもわからないが、鼓膜が破れたあの日以来なにか周りに嫌なものがまとわりついている気がした。

「俺にもわかんねぇけどよ。今日ずっと一人なんだよ。こうなんか、ゾワゾワすんだよ。」

「風邪でもひいてんじゃないか?引きこもって免疫落ちてんだよ。」芦屋はオカルト好きなくせにこういうことをよく言う。

「オカルト好きなのによくそう言うこと言えるよな」

「なんもしてないんでしょ?憑くわけないでしょ」

それもそうだ。 

「で、その曰くってのが。ざっくり言うと、ここで女の人がエレベーターに潰されたの」

「うわぁ、なんで言うんだよ」

「問題はそこじゃないの。ここさ地下1階があるらしいのよ。で、そもそも女の人が潰されたのは事故だし。で、わざわざなんで地下1階を隠しているのか」

「そりゃ不気味だからだろ?」

「なら、エレベーターを取り壊すなり、このビルを売っちゃえばいいじゃない」

「確かに。ん?待てよ、B1の表記なんて見たことないぞ。エレベーターを取り壊してないんだ。表記も残ってるはずだろ」

「いや、信憑性ないよ。乗れないはずのエレベーターに乗れてる時点でおかしいし、そんなエレベーターの表記なんて信用できない。」ごもっともな意見だ。

「今から乗ってみない?」

「は?やだよ!仕事しろ!」

「いいじゃん行こう」

芦屋は俺の右腕を掴んで引っ張った。

「仕事しろよ」4週間なにもしてなかったせいで、筋力が落ち芦屋の引っ張りに耐えるのに精一杯だ。

「たばこ休憩分だけだからぁ」

俺は折れて、芦屋とエレベーターホールへ向かう。

「なぁ、ここじゃなくて1階の方がいいんじゃないか?」

オフィスのある階、4階のエレベーターホールにいる。

「ここにすら来ないなら動いてないよ」

芦屋は下ボタンを押す。





「ほら光らない」

グーっと下からなにかが登ってきて、ポーンとなった。

「え?」

「動いた!やっぱり平坂がキーなんだ!」

エレベーターのドアが開き、中にはちゃんと箱があった。芦屋に引っ張られ、エレベーターに乗り込む。

「芦屋」

辞めた方がいい、本能がそう言っていた。

「平坂みろ!B1の表記だ!」

芦屋は呑気にスマホでパシャパシャと写真をとっている。

-パッ

B1の表記が着いた。まだ誰も押していない。

「な!」

出ようとした時には扉は閉じ降り始めていた。

「平坂、B1についたらエレベーターから出ないで目をつぶってろ」

芦屋は真剣に言った。

「芦屋なにか知ってるのか?」

ゾワゾワとする。足がすくむ。歯が鳴る。

-ポーン

「目をつぶれ平坂」

俺は子供のようにぎゅっと目をつむった。そして、耳も塞いだ。なにも見ない、なにも聞かないに徹底した。

ポンっと肩になにか触れた。俺は大きく肩をはね上がらした。

「ふっ、驚きすぎw」

肩の感触の正体は芦屋だった。

辺りを見渡すと1階のようだった。

「たてる?」芦屋の差し出した手に捕まって立とうとしたが、力が入らない。

「あれ?力が」

「驚きすぎて腰抜けてんじゃないの?」芦屋は俺の肩に手を通して、エレベーターから引きずり出してくれた。

「なにしてるの二人とも?」

頭上から声がして見上げると、矢沢先輩と綾瀬先生だ。

「矢沢先輩すごいですよ!エレベーター動いたんです!」

「朝は動かなかったんだけどね。どうやったの?」綾瀬先生はメモを取ろうと、メモ帳を広げて構えていた。

「平坂にエレベーターの話をしてからオフィスの階から乗り込みました。」

綾瀬先生は興味深くメモしていた。

「で?仕事はどうしたの二人とも」

「え、これからやろうとね」

「芦屋に無理やり付き合わされて。でも、後少しで終わります。」

矢沢先輩は終わるならと許されて、オフィスにみんなでぞろぞろ戻る。

「あ、綾瀬先生。返信が返って来ました。来週の土曜日を提案されました。どうでしょう」

「問題ないよ。場所は任せるよ」

「はい」

その後定時になっても応接室から先輩と先生は出てこなかった。

「かえろ、かえろ」

芦屋は取材をまとめ終わって、あとは記事のチェックだけらしい。仕事が早くてうらやましい。

「平坂、復帰祝いにのみいかね?」

「いいけど。今日誘いに乗ってろくなことなかったからなぁ」

「そんなん日常じゃん」

タイムカードを、切ってオフィスを後にする。

「芦屋、駅どこだっけ?」

「久々すぎて迷子か?この道真っ直ぐじゃん」

「違う。お前の最寄り駅だ。」

「あーそういうこと、K駅だけどなんで?」

「近い方がいいだろ居酒屋」

「なるほどねぇ気が利くねぇ、今度から私もそれやろうかな」

酔う前から酔っぱらってるテンションなんだと思って居酒屋につれてった。

「平坂、なんかみた?あ、私焼酎水割りで」

「なんもみてねぇよ。俺は生で」

「そう。そういえば日本酒のめる?」

「なんだよ急に。飲めるけど」

「いやさぁ、この業界お祓いとかお清めとかでお神酒使ったりダイレクトに飲んだりとか。」

「周りはよくやってるよな。俺は取材行ったことないからしたことないけど。」

「私さ日本酒どうにもダメで。」

お通しと酒が運ばれてくる。

「日本酒飲まないと行けないから、余ったら飲んでくれない?」

「は?」

「ちゃんとコップ分けるからぁ」

まぁ、分けるならいいかと承諾した。

あれから芦屋は5杯も飲んだ。

「おい、ペースが早くないか?」

「酔ってるけど大丈夫。理性はある」

ダメな台詞だ。

「日本酒飲むかぁ。」

「これが最後な。」

日本酒少量をコップにあけ芦屋に渡す。芦屋はくいっと飲み、拳を机に軽く打ち付ける程度に悶えた。そんなにダメなのか日本酒。芦屋が飲まなかった日本酒を、俺も一気に飲む。

「うっ」

気持ち悪い、ぐるぐるするなんて度の強いのを飲んでたんだ。やばい、意識が。俺が倒れたら芦屋は俺のことを運べない。先輩に迷惑が。

「やっぱり憑いてたんだ。」

意識がなくなる最中芦屋の言葉が聞こえた。



目を開けたとき、既視感も一切ない全く知らない天井だった。

「俺はまた病院に運ばれたのか?」

「平坂起きた?日本酒平気って言うのに、つぶれやがって」

タオルを首にひっかけた芦屋の姿があった。

「芦屋ここは?」

「私の部屋」

「あぁ、そうか。お前の」

今おかしなところがあった。誰の家だと言った?芦屋の家だと?

「どした?頭痛い?」

「いや、大丈夫」

生まれてこのかた女子の部屋に家に入るのは高校以来だろうか。酔いつぶれた羞恥と久々の女子の部屋で緊張する。

-ガチャ

「だだいま、み、ち、る」

ドサッとなにかが落ちる音が玄関の方でする。

「みちる?」

芦屋の名前を呼ぶ声がする。男の声だ。修羅場と言うやつになるんじゃないか。

「あ、お兄ちゃんお帰りー」パタパタと芦屋が玄関の方に走っていく。

「満、男か?」

「そうだよ。会社の同期。」

「な、彼氏か?なんで兄ちゃんが帰ってくるこの部屋に呼んだんだ?結婚の挨拶なのか?」

「落ち着いて、お兄ちゃんわけがあるの」

「わけ、お前酒臭いぞ。まさか、成り行き!」

ゴンと鈍い音がしてから、また話し声が聞こえた。

「わけあって男をあげるなら連絡してくれ満。心臓に悪い。」

「あーごめん。酔ってて忘れてたわ」

2つの足音がリビングに近づいてくる。俺はあわてて床に土下座をした。

「お兄さん!いつもお世話になってます!」

「お、お兄さん」ドサッっと2回目の音がした。

「ハッッッ」と芦屋の笑い声だけが響く。

ひとまずローテーブルに集まり座った。

「平坂、あれわないわw」まだツボにはいって抜けていない芦屋がお茶を持ってきてくれた。

「すまない。」

「俺は満の兄の(トウ)だ。」

「はじめまして。同じ部署に所属しております。平坂 孫兵ともうします。」

「そんなにかしこまらなくていいよ、平坂と同い年だし。」

同い年なのか。同い年の兄の妹ということは、芦屋は年下なのか?

「満、事情は聞いたが彼には話さないのか?」

「矢沢先輩にまだ止められててね」

「そうか」

俺はなにか隠し事をされているのだろうか。話してることなどちょいちょい引っ掛かっていたが。

「お兄ちゃんには、もう大丈夫かみてほしいの」

「満見れるだろ」

「見たよ。見えなかったけど、一応見たら一発KO」

「そいつ、うっうん。彼が下戸なだけだろ」

「飲めるって確認したし、3杯飲めてたからあれだけではつぶれないよ」

「はぁ」

めんどくさそうに、お兄さんは手をいろんな形に、組んでから眼の前をサッと通してから俺のことをまじまじと見つめた。

「立って回れ」

慌てて立ち上がって、ぐるりと回った。回った衝撃ですこしはきそうになった。

「うっ」

「満、矢沢さん呼べ」

「はーい」

「座っていいよ。」

ゆっくりと腰を下ろした。

「矢沢先輩、芦屋です。平坂無理でした。」

「はい、私の家です。兄にもみてもらいました。」

玄関の方で電話している声が聞こえる。

「平坂さん、取材に行ったことは?」

「ないですよ。俺正直、オカルト興味ないから昇進とか考えてないんです。」

「誰かについてって、心霊スポット的なの行ったことは?」

「あー、4週間前に、綾瀬先生とトンネルへ」

「どこの?」

「Y市の哭きトンネルです」

「どこだそれ」

なんとなくわかっていた。本当に地元の人しか知らない心霊スポット。綾瀬先生がよくみつけて来たものだ。

「ですよね。地元の人しか知らないですし。」

「地元じゃそんなに有名話か?」

「えぇまぁ。知らない人はいないですね」

お兄さんは少し考えてからまた口を開いた。

「そんな有名所でもらってきたとは思えない」

「もらってきたとは?」

「幽霊、怪異」

さらっと言った。芦屋の兄だけはある。お兄さんもオカルト脳だったとは。

「おにい」ギロリとにらまれる。

「道さん。そんなオカルトチックなことないですよ」

「それはこちらが決めることだ」

こちらとは何のことだろうか。俺は”こちら”に入っていないのだろうか。

玄関から電話を終えた芦屋が戻ってきた。

「いやぁ、平坂って引き寄せ体質なの?」

芦屋が聞いてくる。

「ないって。見たこともないし」

「満の話によるとみるようになったのは入社してからって感じだな」

「まぁざっくりしたらそうですけど」

「忘れてるだけとかはないの?」

「忘れてるならなおさら無理だろ」

「これを機に思い出したりとか」

「あのな、トラウマから塞ぎこんだ記憶ってのはそう簡単に出てこないもんだ」

完全に蚊帳の外で2人だけで話が進む。どんどん居場所がなくなってきた時、インターフォンが鳴る。

「矢沢さんかな?思ったより早かったな」

「俺も行く」

2人は玄関のほうに立ち上がり向かっていた。

「はぁ」俺は一息ついてお茶を飲む。

‐コンコン

「?」

‐コンコン

窓のほうから音がする。2人はまだ玄関で話している。

俺はなぜだかカーテンをめくった。

「え?矢沢先輩?」

ベランダには玄関にいるはずの矢沢先輩がいた。ジェスチャーで開けてくれと言っている。

「芦屋、矢沢先輩が外にいるんだけど」

「えー?なにー?」芦屋が戻ってきてくれた。

「あー賢いなぁ」芦屋がリビングに戻ってきたとき窓をみて見たことない冷徹な顔をしていた。

「芦屋、あれ」

「矢沢先輩じゃないよ。開けなくて正解だよ平坂」

「お兄ちゃん、憑いてきてるわ」

「こっちもだ」

芦屋は手を横、縦に動かしながら唱えた。

臨兵闘(リンピョウトウ)者皆陣(シャカイジン)裂在前(レツザイゼン)

すると窓の外の矢沢先輩が、胸を押さえて苦しみだした。

胸には光る賽の目がみえた。

「平坂動くなよ」

芦屋がもう一度手を振った。

「なんなんだ。俺は何を、見て、」

天井がぐるりと回って俺はまた意識を失った。














体が痛い。

「うっ」

「やっと起きたか」

先ほどの格好よりずいぶんラフな格好になった、お兄さんがいた。その横でお兄さんにもたれ掛かって寝ている芦屋。

「俺はどのくらい」

「1時間は寝てたな」

「それは、すみません。すぐ帰ります」

床で寝たせいか、体がいたくもう若くないことを知らされる。

「それは、できない。憑いてきてるからな。矢沢さんが来るまで待て」

「はぁ。」色々なことがあり、反論する元気ないので従う。

しばらくの無言が続いて俺が口を開いた。

「さっきの矢沢先輩は」

「本人ではないし、生きてる人間ではない」

「あの呪文と手の動きは?」

「九字だよ」

「くじ?」 

はぁーと大きなため息をついて頭を抱えた。

「お前さぁそれでもオカルト記者かよ。よくそれでくびにならないな」

さっきより態度が悪すぎやしないか。

「まぁ、雑用しかしてないので」

「はぁー。九字はな、ざっくり言うと賽の目に切るんだよ。」

「切る?」

「ちっ、矢沢に聞け。あと矢沢がどれくらいか聞け」

「は、はい」

鞄からスマホを取り出して電話をかける。

-プルルル

「はいはい?」

「矢沢先輩ですか?平坂です」

「どうしたの?」

「道さんが、あとどのくらいかと」

「いまね、エントランスだから上がっていくよ」

「承知しました。失礼します」

「後でねー」

通話ボタンの終了を押す。

「今エントランスだそうです。」

「そうか」お兄さんは目を閉じてそこからはなにも言わなかった。


沈黙が流れ、矢沢先輩が部屋に来るのにかかった時間がとても感覚より想像より長く感じた。

ポーンとインターフォンがなる。

「お、俺でてきます。」

「あぁ」

道さんは、興味無さそうに返事をした。

俺はドアを開けて、矢沢先輩の姿を確認する。

矢沢先輩はそこにいなかった。誰もいなかった。

「あれ?」手汗が滲んでくる。先ほどの光景が浮かんでくる。

「イイナァ。チョウダイヨ」

耳の側、後ろがわから聞こえた。

ドアを閉めようとしたけど間に合わなかった。

「ヘンジガナイカラ、イインダヨネ」

なにかが巻き付く感じがする。

「イインダ イインダ イインダ

 アハハハハ」

「ダメだよ」

矢沢先輩の声が聞こえた。

「イヤァァァァ オマエ オマエ!」

纏わりついていたのが消えたような感覚だ。

「大丈夫か?平坂」

今回は本物の矢沢先輩だ。

「なんとか」

「入ろうか」



「やぁ、道くん。久しぶり」 

「久しぶりです。矢沢さん。いつも満がお世話になってます。」

芦屋は道さんの肩から膝へと移っていた。

「あ、あの」

俺は昔話が始まって取り残されることを危惧していた。

「先に取っちゃおうか」

矢沢先輩は鞄から大きい短冊、お札だだろうか。を取り出し俺のおでこに張り付けた。

「これでよし!」

「え、これで終わりですか?」

「あー30分は剥がさないでね。」

大変なことがあって、かなり待たされて。お札貼って30分。

疲れた。

「矢沢さん、あの事は平坂に話してないんですか?」

「話してなかったけど。こうなっちゃったから話してもいいかな」

矢沢先輩は冷蔵庫からお茶を入れて座った。

「平坂。うちはオカルトを扱っているよな」

疲れて話をほぼ聞いていなかったので、「え、はい」と生半可な返事を返す。

「平坂は取材は行ったことなかったな」

「はい。ないです。あ、でもこれから」

「それも、取材だけど、"取材"じゃない」

日本語と言うのはややこしいもので、同じ音、同じ字、同じ意味とあまた存在する。もとの意味であろうと、あと付けだろうと。疲れている平坂に混乱を与えるのは容易だった。

「えっと、それはどういう。」

「簡単に言うと、心スポに行って浄霊又は退治を行う。」

退治、浄霊。俺はいつから危ない宗教に入信してることになっているのだろう。もしかしたらもっと悪どいかもしれない。"会社"と書いて宗教なんて読むと言われたら回避なんて無理だ。俺は別の意味でブラック企業に勤めてしまっていたのか。サビ残だらけのアイツを笑っていた頃の俺を殴りたい。

「平坂、信じたくないが今から言うことは事実だからな心して聞けよ」

「浄霊以外にもまだオカルトじみたことがあるってことですか」蚊のような細い声で答えた。

「今、お前の身に起こった事に対してかな」

「始まりはーーー







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