オカルト社
指先が冷たくなっても青白く光るスマホをみることは止められない。酒や薬物よりもヤバいやつだ。
もう、痛くなっている指でメッセージを開く「早く帰ってこい」と職場からのメッセージが届いていた。俺は仕方なくタバコを取り出して一本吸う。
「あぁ、めんどくせぇ」
タバコをギリギリまで吸い職場へ戻る。
冷たい雨のなか。
平凡な人生を送ってきた中で多分一番の異変が今この時だろう。俺は何となくで、雑誌の記事を書く仕事をしている。ほどよく格好いい仕事だろう、「あぁ、あの俳優と話したことあるんだ、」「○○の雑誌の記事はオレが持ってるって」女にも男にもほどよくカッコつけられる仕事。
と、
思って入社したはいいが、俺が担当になったのは"オカルト"だった。下らねぇだろ、だいの大人がオカルトって。それっぽく書いて子供を楽しませるのを作るのかと思ったら、ガッチガッチのオカルトで現場に取材まで行かされた。オカルトの現場なんてどれも基本山奥だ。根も葉もない噂に踊らされるなんて馬鹿らしい。まぁ、俺も金のために踊らされてるんだけどな。
一応俺の勤めている雑誌会社は大手だ。だが、そのきらびやかな待遇は本社ならの話、オカルトが本社にあるわけがなく本社から数駅離れた寂れた駅近の雑居ビルに入っている。少なくてもの救いはこの雑居ビルにはエレベーターがあること。そして、雑誌にでてくれるオカルト小説家がいるということ。
雑居ビルの奥まったとこにあるエレベーターに乗り込む。4階を押す。
ここのエレベーターは扉のところが窓になっている。なにか見るかもしれないと思うやつもいるだろうが、俺はそんなことはないこの時代みんなスマホに釘付けだからな。
先ほどきていた、会社からのメッセージに《今戻ります》と返信をしていた。エレベーターの扉が閉じて登り始めた瞬間なにか、手のようなものがしたから伸びていたように見えた。視界のはしに一瞬とらえた。目をあげたときにはもう階と階の間だった。この仕事に関わってから、ややオカルトチックな考えをし始めていたのは認めよう。エレベーターのしたから手なんて出てくるわけがない。だからこそ、確信に思えた。俺はそれを認めた恐怖を否定したくこのエレベーターのことを調べようと思った。
「ただいま戻りました。」
「平坂遅いぞ」
俺の先輩、矢沢晴明だけが事務所にいた。
「先輩、他の人は?どこに行ったんです?」
「取材だろ。これやっておいてほしいんだ、」渡されたのはオカルト小説家の取材記事、まとめておけと言うことだ。
「了解です。先輩、さっきエレベーターで手みたいなもの見たんですけど、先輩見たことありますか?」受け取った資料をペラペラ見ながら聞く。
「どうした、珍しいな平坂がオカルト的なこと言うなんて。俺はないけどなぁ」
「認めたくはないですけど、見てしまったんでね」
「まぁ、他にも見たやつはいないだろうよ」
どうゆうことだろうか。みんな特別に若いわけでも体力があるわけでもないはずだからエレベーターは必需品のはずだ。
「どうゆうことですか?」
「あそこは曰くがあって誰も使ってねぇんだよ。」確かに、誰にも出くわさないわけだ。
「お前だってみただろ、あの荒れよう。平気でも使いたくねぇよ。ボロいわ」
そこまで言うほどここのエレベーターはボロくはない。まぁ、古くさい程度あるが。
「そうですか?古くさくはあるけど」
「いやいやそんなどころじゃない。ボタンはつかねぇし、中の電気もついちゃいない!使えるかすらわかんねぇ!」先輩は笑いながら強く言った。
「そうなんすね。」ますますオカルトじみてきたので、俺はエレベーターを使っていることを伏せた。手には冷や汗が滲んだ。その話のあとは、任された仕事を淡々とこなした。
「平坂、今日は華金だ飲み行くぞ!」先輩が肩に手をかけながら誘ってくる。
「今日はちょっと気分がのらなくて」エレベーターのことがまだ気がかりだった。
「なんだよ、つれねぇな。まぁ、今日お前おかしかったしな。」先輩はあっさりあきらめて帰っていった。
俺は帰るとき初めて階段を使った。