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【ヤル気のない冒険者のヤル気のない日常】  作者: ばてぃ~
第1章【ヤル気のないおっさん、周りにウザ絡みされる。】
6/23

6・【おっさんだって反省する事はある。】


「はぁ・・・」


何の依頼も受けずに掲示板を飛び出したシルバはギルドに併設された居酒屋で独り深いため息をつく

居酒屋よ言っても流石にこの時間は酒を煽る輩は少・な・い・。


シルバ自身も後で依頼を受けるつもりである為に飲み潰れたい気持ちとは裏腹に眠気覚ましの珈琲を注文していた。

そんな彼の溜息の元は勿論・・・ラミアだった。


さっきは流石に言い過ぎたと反省出来る位には頭は冷えた。

ただ・・・自分は変に目立ちたくもないし因果な運命に巻き込まれたくも無い。

程よく悠々自適に、そして程よく平々凡々に生活できれば良いと思っているし必要以上に張り切るつもりもない。


朝起きて、仕事して、酒飲んで、眠りにつく・・・

それ以上は求めないし、求めるつもりもサラサラ無い。

そんな彼からすればラミアの存在は非常にイレギュラーな存在だ。


助けた事については一晩経った今でも後悔は無い。

だがそれにより面倒な人生を送りたくも無い。

そんな思いが大人気なく爆発してしまい、あの様な言い方になってしまった。


「よぉ女泣かせ!!!」


そんな自己嫌悪に陥っていたシルバに対し、容赦のない物言いで声を掛けながら勝手に対面の椅子に男が座りこむ。


「なんだ髭禿、俺に喧嘩売ってんのか?」


眼前の男の性格上、そんなつもりがない事は百も承知ではあったが虫の居所が悪いシルバは少し苛ついた表情でそう答える。

すると目の前の男はブンブンと首と手を振りながら即座に否定してくる。


「どうしたシルバ、今日のお前さんはやたら機嫌が悪ぃじゃねぇか。」


「・・・うるせぇ。」


シルバがぶっきらぼうにそう返答すると「ガハハハッ」とシルバの眼前に居座る男は笑い飛ばす。

それがこの男の人間性を表しているかの様だった。


「で、バルカーノ。女泣かせってのは何だ?」


髭禿ことバルカーノにシルバはそう問いかける。

ただシルバ自身、十中八九今朝のラミアとの件だろうと予想はしていた。


「どうせお前さんの事だから予想してんだろ?【舞姫】との掲示板前での件だよ。」


「だろうな・・・」


バルカーノの答えに対して予想通りであった為、シルバは思わず渋い表情を浮かべる。

朝の一件は大勢の冒険者が集まる時間帯でもあった為、どう考えても目立ち過ぎるのだ。


「・・・・・・そんなに広まってるのか?」


「今日一番の話題なのは間違いねぇだろうな。考えても見ろよ?C+ランクのロートルがSランクの【舞姫】が掴んだ腕を振り払ったんだろ?どう考えても良い話のネタじゃねぇか。」


「だよなぁ・・・」


シルバはバルカーノにそう言われて思わず頷く。

シルバ自身、他人事であれば最後まで聞く程度には興味がありそうなネタだ。

それが自分以外の冒険者が当事者としてではなく聞いてしまえばと考えると想像すらしたくなかった。


「だが・・・俺は泣かせてなんかいないぞ?」


「泣かせた泣かせていないなんざどうでも良いんだよ。面白い話には尾ひれがつくもんだろ?」


バルカーノが即座に反論してくる言葉にシルバはグゥの音も出ない。

どんな些細な話題でも冒険者に広まれば大袈裟に伝播するものだ。


「まぁお前さんは実際に泣かせてはいないだろうが・・・【舞姫】が哀しそうな表情だったのは間違いないぞ?」


「うぐっ!!」


普通に考えて手を振り払われながら断られてしまえば哀しそうな表情をするかは兎も角、嬉しそうな表情はしないだろう。

【舞姫】の端正な顔立ちが哀しさを浮かべる表情を想像して当事者シルバは罪悪感に駆られる


「わ、分からないぞ?【舞姫】はSランクだ。これ以上に辛い事なんざ幾らでもあっただろうし・・・」


シルバは言い訳を並べながらも段々と言葉が尻すぼみになっていく

バルカーノとしては、シルバのこう言う人間性を普段から好ましくは思っている。

思ってはいるが、言う所は言わないと誰の為にもならない事も理解しているのだ。


「今までに辛い目にあってきたから今回も大丈夫なんて事は無ぇんだよ。大丈夫って奴は感情を麻痺させてんのか、無理に取り繕うとしてんのか、壊れちまってるもんなんだよ。」


「・・・・・・」


「それに【舞姫】が此処から出て行くときに哀しげな表情をしていたのは間違いないぜ。・・・なんせこの俺自身が目撃してんだからな。」


「・・・・・・」


バルカーノの言葉が一々シルバの胸に突き刺さる。

シルバからすればこの様な話を聞かなければ、珈琲を飲んで心を落ち着けた後に依頼を受けて酒を飲んで眠っていただろう。

後日にラミアと出くわしても自分に絡んでくる事も無くなり万々歳だとすら考えていた。


だが聞いてしまえばそうはいかない。

無理に心を落ち着かせようにも、何かの拍子でラミアの哀しげな表情が脳裏にチラついていくだろうし、ギルドで彼女を見つけてしまう度に罪悪感に駆られてしまう。


当然ながらシルバはそんな生活を求めてはいない。

バルカーノに『要らない事を告げやがって』という感情を乗せて睨みつけるが、当の本人はニヤニヤしているだけだった。


「ふぅ・・・【舞姫】は何の依頼を受けたんだ?」


「ダブルの『オボロ山』に住む魔獣討伐らしいぜ。」


「・・・・・・」


シルバはそれを聞くと無造作に伝票を掴み取り清算をする。

ついでに店員にバルカーノに対しての酒を注文し、そちらも支払うとサッサと出て行った。


「お優しい事で。」


シルバの去り際の姿を見送り、奢られた酒を朝から口に含みながらバルカーノはどことなく眩しいモノを見るかの様にそう呟いていた。

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