5・【おっさんだって苛つく事はある。】
「ラミア」
「なんだ?」
「何故お前が此処に居る?」
「そりゃ此処がギルドだからだろう?おっさん遂にボケたか?」
シルバがラミアと邂逅した次の日、シルバはいつも通りギルドへ向かった。
『ブラックラヴィット』の魔核を紛失していなければシルバ自身、今日は休みとしていただろう。
だが・・・昨日の収入の8割以上を占める魔核を紛失したとなると酒が完全に抜けきってはいないとは言え、流石に休みのは憚られた。
いつも通りにギルドへ向かい、受付にギルド会員証を見せ、さぁ今日の依頼はどんなもんかな?等と思いながら依頼掲示板へ向かう。
そこまでは良い。
シルバにとってはいつも通りのルーティンだ。
だが・・・そこで彼自身のルーティンや日常では起こり得ない事が起きた。
ギルドの依頼掲示板は大まかに3つに分けられている。
★1(シングル)・★★2(ダブル)・★★★3(トリプル)となっており、★の数が多い依頼は難易度の高い依頼という事だ。
簡単に言うと新人用・中堅用・高ランカー用という風に割り振られている。
シルバはいつもC+ランクである為に中堅用の掲示板へ向かう。
そこで掲示板を確認しているシルバの脇に突如、Sランクの高ランカーであるラミアが現れたのだ。
彼女が高ランカー(一般的にはB+ランク以上)になってから★★2(ダブル)の掲示板に向かってきたという事は未だかつて一度も無い。
だからこそ突如脇に鎮座されたシルバは勿論、それを見ていた周りの中堅どころも思わずざわめき出してしまう。
「ちげぇーーよっ!!!何でお前がダブルの掲示板に来てんだよっ?!お前はアッチだろうがっっ?!!」
シルバはそう言って★★★3(トリプル)の掲示板の方を指さす。
だが指摘された当人は涼しい顔をして「まぁまぁ」等と言いシルバを宥める。
「別にSランクが★★2(ダブル)の掲示板から依頼を受けてはいけないという規則はないだろう?私も偶には初心に帰ってみようと思ったんだよ。」
「・・・・・・」
ラミアにそう言われてしまえばシルバは何も言えない
確かにギルドではランクに見合った依頼を受ける様に推奨・要請はされているが強制ではない。
装備品を揃える金銭は勿論、ケガを負う事や死亡する事までもが冒険者自身の自己責任である以上、ギルドとしても強制が出来ないのだ。
「あぁ、そう。じゃあまぁ・・・頑張れよ。」
ラミアにそう言いながらシルバはこの場を立ち去ろうとする。
開始早々にいつもの日常とは違う出来事に遭遇した為、一度頭を冷やそうとしたのだ。
そんなシルバの腕をラミアは突如掴みかかる。
「・・・・・・なんだよ。」
「まぁそう邪険にしないでくれよ。私も久しぶりのダブルでね・・・生憎ダブルを受ける冒険者との交流がおっさんしかいないんだ。」
「・・・お前だったらソロでも充分可能だよ。」
シルバの言葉はまごう事無く真実だ。
街どころか国にまで名を認知されている程の高ランカーである彼女にとって★★2(ダブル)の依頼などはパーティーを組む必要などない。
パーティーを組む相手によっては彼女自身が迷惑を被る可能性すら有り得るのだ。
「ほら昨日にあんな事があったばかりだろう?流石に1人と言うのも些か怖くてね。」
「ハッ!!」
ラミアの言葉にシルバは思わず鼻で笑う。
Sランクと言えば普段は★★★3(トリプル)の依頼を受ける様な連中だ。
それこそオーガの群れと戦ったり、龍種と戦ったり、未開拓の土地の調査と其処にいる魔獣と前情報なしに日々戦っている様な連中なのだ。
その高ランカーの中でも上位に位置する【舞姫】が★★2(ダブル)を1人で受ける事に萎縮しているなんて信じられない事は誰にとっても必然であろう。
「お前さんが相手だったらダブルの魔獣も見ただけで逃げちまうから大丈夫だよ。」
「でも「もし本当に怖いのならシングルにしとけ。どちらにせよ俺はご免だ。」
シルバはそう言い捨てた後にラミアの腕を振り払い、ズカズカと若干大股に歩きながらその場を後にした・・・