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【ヤル気のない冒険者のヤル気のない日常】  作者: ばてぃ~
第1章【ヤル気のないおっさん、周りにウザ絡みされる。】
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4・【おっさんだって自己紹介する事はある。】


「・・・俺はあん時に、気にすんな、関わるなと言っただろうが?」


男はやけ酒気味に飲んでいたのは理由がある。

【舞姫】を助けた事は欠片も後悔はしていない。


だが・・・その時の立ち回りで『ブラックラヴィット』の魔核を落としてしまったらしく稼ぎの大部分を紛失してしまったのだ。


更に平穏に暮らしたい男は、目の前の【舞姫】に対して関わるなと過剰とも言えるくらいに念を押していたのだ。


にも拘わらず夕食を食べだしてから程なく、当人が自分の背後に立っているのだからやり切れない


そこからやけ酒に走るのも致し方ないと言えば致し方ない道理なのだろう。

・・・少なくとも当の本人からすれば、だが。


「少なくとも私はそれに了承した覚えはないわ。」


「・・・・・・・・・」


そう言われて男が思い返してみれば、確かに【舞姫】は呆けた表情で男のいう事に耳を傾けていただけであり、一言も承諾の意を示していなかった。

示していなかったが・・・


「・・・一応、恩人の意志を汲んでくれたりはしないのな。」


「・・・・・・悪いとは思ってるわ。けどあのまま気にしないで生活できる程図太い性格もしてないから。」


男は【舞姫】にそう言われれば、まぁそんなものかもしれないなと納得してしまう。

が、同時に本当に気にしないで放っておいて欲しいとも思いながら再度酒に口をつける。


「・・・で?」


「あん?」


暫し黙りこくりながら無言で酒を煽る男に対し、【舞姫】に言葉の続きを促される。

それに対し首を傾けながら返事をすると、また顔を真っ赤にしながら口調を荒げる。


「あん?じゃないわよっ!!おっさんの名前よっ!!さっきから聞いてるでしょっ?!!!」


「あ~~・・・・・・酒好き太郎。」


男は程よく酔った頭で咄嗟に偽名を答える。

が、当然の様に再度鬼の形相で【舞姫】は声を荒げる。


「そんな分かりやすい偽名で騙される訳ないでしょーーーがっ!!!」


「っつてもなぁ・・・俺の名前をお前さんに言うメリットは無いし。」


「何言ってんのっ?!!私がギルドに報告すればギルドランクが上がるわ!!何たってA+ランクの大部分をソロで倒したんだから!!それにおっさんの言う通り私は一代当主とは言え貴族、貴族としての礼も出す事が出来るのよ?!!」


「それがメリットにならない・・・」


人生に一花咲かせてヤルぜ!!みたいな奴なら喜びそうなものではあるが、実際男は少しも嬉しくはない。

平穏に日々を過ごして、平穏に人生を終わりたい。

出来れば嫁さんでも傍に居てくれたら嬉しいが、別に居なくても構わない。

そんな虚脱的な日々をこよなく愛しているのだ。


男からすればSランクの【舞姫】を助けたと注目されるのも、A+ランクの【灰色ノ剣】と渡り合ったという様な注目も等しく嬉しくない。


ましてや貴族としての礼?絶対に要らないという様な気持ちだった。


「・・・どうしても教えてくれないのなら、ギルドの待合室であんたの名前が呼ばれるのを待ち続けるわよ。」


「・・・いや別に良いよ、だったら明日からこの街離れるし。」


変に注目を浴びる位ならば街を離れる。

面倒ではあるがどちらがデメリットが大きいと言われれば男としては注目される方がデメリットが大きかった。

男もまた冒険者であるという事も大きな要因の1つではあるだろうが・・・


「~~~っ!!!良いから!!名前!!教えなさいっ!!」


「えぇ~~・・・旨みが無さ過ぎる・・・」


しびれを切らした【舞姫】・・・ラミアの横暴とも言える命令に辟易とした表情を浮かべる。

そんな表情を浮かべているのを見たラミアはガックリと肩を落としながら言葉を続ける。


「じゃあどうすれば名前を教えてくれるの?」


「ん~・・・」


ラミア自身、若干諦めたかの様な表情でそう質問する。

彼女は恐らく目の前の男は教えないの一言で終わらせるだろう・・・そう考えていた。

だがそう考えていたラミアは次の男の言葉で驚いた表情を浮かべる事になる。


「ギルドへの報告、貴族としての礼等の全てを行わずに此処の酒代を奢る事かな・・・」


「っっ?!!」


要は礼を放棄すれば名前位は教えてやると目の前の男は言ったのだ。

それは冒険者、貴族としての立場としては苦渋の選択ではある。

ただラミア本人からすれば真摯的でサッパリとした気持ちのいい心根を持つ男性に映る。

男の何気ない一言がラミアの好感度が非常に高まった瞬間だった。


「わ、分かった・・・遺憾だが恩人の要望に応えよう。で、で、でだっ!!おっさん・・・んんっ!!おっさんの名は何というのだっ?!!」


「おっさんの名前1つで鈍んだけ食いついてくんだよ・・・」


ラミアの挙動不審な態度に苦笑いを浮かべながら、男は徐に腰を上げる。

そして会計票をラミアに渡して去り際にボソッと呟く


「シルバ・・・シルバ=エドルだ。」


名前を一言告げた後、シルバはあれだけの量を飲んでいたとは思えない程しっかりとした足取りで店を出て行く


「シルバ・・・」


ラミアは告げられた名の主がもう居ない酒場でそう静かに単語を反芻させる。


・・・コレは名前を告げた事により面倒な事から解放されたと勘違いした、やる気のない冒険者のやる気のない日常譚に成れば良いなという物語である。

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