23・【おっさんだってエア乾杯くらいしたい夜はある。】
「・・・つー訳で、今回のマダムからの依頼を受けたって訳だ。依頼は無事に達成したから今後は俺の事も漁られない。過ぎた事をほじくり返しても面倒なだけだろ?だから俺としてはこれで丸く収まるのが一番なんだよ。」
あれからサジテリアを落ち着かせた後にシルバは事の成り行きを説明していた。
シルバからすれば喉元を過ぎた面倒ごとをこれ以上ややこしくしたくないし、【女帝】の覇権争いの火種になんて絶対になりたくない・・・そんな思いで面倒ながらもサジテリアに説明していたのだが・・・
「ぐぬぬぬぬ・・・」
「ギルマス堪えてください。シルバ君もこれ以上の面倒ごとにはしたくないといってますから、ねっ!!」
「わ、わかって・・・るわ、よ。ぐぬぬぬぬ・・・」
「ハークも大変だなぁ~。」
シルバの本意ではないと我慢するサジテリア、必死に宥めるハーク、そして他人事の様にソファーに寝そべりながらハークに同情するシルバ・・・そんなカオスな空気が場に蔓延していた。
ハークがそんなシルバに対して少々殺意を覚えても仕方ないのかもしれない。
「ま、てな訳でそろそろ充分に話は出来ただろ?俺もそろそろ晩飯の時間だからな、お暇するわ。」
「えっ?!えええっ?!!」
そしてシルバはそんな場を一切の遠慮も無く完全にぶった切って立ち上がる。
そしてもう暫しシルバと話せると思っていたサジテリアはシルバと窓を交互に確認する。
確かにギルドマスター室から見える空は若干薄暗くなっていた。
昼前から始まった【舞姫】を交えた聞き取り調査、その後暫くしてから戻ってきたシルバとの談笑と続けていた為に気づけば日は傾きかけていたのだ。
脳内で今日一日を振り返りサジテリアは焦燥感に駆られる。
「どどどどど何処で晩御飯食べるの?よよよ良かったらいいいい一緒に・・・食べない?」
「あぁ・・・今日は色々と疲れたからなぁ・・・一人で喰うわ。折角誘ってもらったのに悪いな。」
動揺しながらも渾身の勇気を振り縛ったサジテリアの誘いだが、残念ながら心身ともに疲労が溜まっていたシルバは若干の申し訳なさもあったがキッパリと断り、室内から出て行った。
「うぅぅ・・・そんなぁ・・・」
「だ、大丈夫大丈夫っ!!彼も疲れてるだけだからっ!!ま、また元気な時に誘えば来てくれるよっ!!」
そして断られたサジテリアと彼女を必死にフォローするハークの声だけが無情にも長い時間木霊する事となった・・・
◆
◇
ゴキュゴキュゴキュと喉を潤す複数の音が酒屋に木霊する
「・・・かぁ~~っっ!!!」
そしてその木霊する音に参加する内の1人であるシルバは、涙を目の端に溜めて酒を煽っていた。
当人からすれば陰鬱な気持ちでギルドへ向かった時とは違い、全ての面倒ごとが正に今日に片付いたのだ。
しかも、ギルドから危険視問題視される事も無く大金も手に入れ、マダムとの契約も無事に行使される事となった。
【舞姫】にも借りを返してもらった為にもう絡んでくることも無い。
ギルマスと会うのも当分先だろうから、後は悠々自適に生活できていた3日前までの日常が戻って来るのだ。
「栄光ある明日からにかんぱ~い。」
シルバからすれば輝かしい未来に向かってジョッキを上げて1人で明日からの日常を祝う。
ーーーガチンッーーー
「・・・・・・・ん?」
自分の持った木製のジョッキが何かにぶつかる感触があり、シルバは首を傾ける。
彼は今晩、誰とも食事を共にはしていない。
心身ともに疲れていたからこそ、一切の気兼ねなく、自分のペースで食べたい物を食べ、飲みたいものを飲む事でリフレッシュを図っていたのだ。
にも拘わらず、誰かのジョッキと自分のジョッキがぶつかる音と感触に思わず首を横に向ける。
「よ、よぉおっさんっっ!!ぐ、偶然だなっ!!」
「・・・・・・・」
すると自分の隣の席に鎮座していたのは・・・やたらとキョドキョドとした動きで声を掛けて来る【舞姫】だった・・・
「なななななな・・・」
「いや偶然?おっさんが此処で飲んでるのを見かけたから?せ、折角だからと、隣に座っただけだからっ!!」
「なななななーーーーんでだよーーーーーーーーーーーーーーーっっ!!!」
突如の事で混乱したシルバは天井を見上げてそう叫ぶ。
・・・・・・おっさんの平穏な日常は、まだまだ時間がかかってしまう・・・かもしれない。
第1章【ヤル気のないおっさん、周りにウザ絡みされる。】 <<完>>
此処までご一読いただき有難う御座います。
残念ながら本作品は皆さまには余り楽しんでもらえなかった様で申し訳ない限りです。
力不足を痛感してしまいました・・・
またその内にパワーアップした時に投稿したいと思いますが一先ずは此処で完結とさせて頂きます。
この度は本当に有難うございます。




