18・【おっさんだって考え込む事はある。】
「・・・・・・」
シルバの鋭い目線を頬に感じながらラミアは考えていた。
かなりの高確率でシルバの願いは達成できていない。
何故ならシルバからの願いは『灰色ノ剣の罪名と判決、出向先を聞いてくれ』というものであるのだ。
にも拘わらずギルドマスターからは抽象的な回答しか得られていない。
これがギルドの依頼であれば間違いなく達成出来ていない状況である事はラミアも察していた。
そしてシルバの鋭い視線を受けている現状を省みるに、未だチャンスはあるという事である事も彼女自身、察してはいる。
(でも・・・知られない権利って・・・)
ラミア自身は貴族であるが、所謂成り上がりの一代貴族だ。
王法に詳しい訳でも必死に覚えようとした事も無い。
だからこそ法律関連の話題を持ち出されてしまうと若干混乱してしまう。
自分が冷静でない事を自覚した彼女は心を落ち着かせる為に深く息を吸い、そして吐き出す。
そして今までのやりとりを頭の中で整理していく。
(ギルマスはさっき・・・今の貴女にはって言ったよね?という事は今じゃない私だったら伝えることが出来るんだ。・・・でもおかしくない?私は襲われた方なのに襲われた被害者が教えて貰えないって・・・)
彼女は高ランカーである故に駆け引きや頭の回転は決して悪くない。
それは★★★3(トリプル)の依頼とでもなれば人では先ず倒せない様な依頼が蔓延し取り敢えず倒せば良いという様な単純な依頼はほぼ存在しない事に起因する。
『情報は理解し、けれど鵜呑みにはせず。』
『状況は良くも悪くも変化する。ならば自分も変化せねば勝機は無い。』
ラミアは今までの経験則上でそれを理解し、身に着けていた。
(知られない権利があると言うのなら・・・知る権利だって当然ある筈。じゃあ知る権利を発動させるには何が不足しているの・・・お金?でもお金を払えば誰でも分かるの?・・・だったら被害者だけがお金を払うの?・・・何故?・・・・・・っ!!!)
「あ、あのぉ・・・本当に大丈夫でしょうか?は、『灰色ノ剣』はA+ランクです。奴らが街に忍び込んで私を襲ってきたら・・・幾ら私がSランクだとしても先日と同様、不覚を負う事も否定できません・・・」
だからこそ彼女は正解に辿り着いた。
正解までの過程は違えども、被害者が求めるモノは何か?という答えには至る事は出来たのだ。
そしてその言葉を聞くと同時にシルバの視線が明らかに柔らかくなり、サジテリアの口角が僅かに上がる。
そしてそれと同時に彼女らが座する部屋の空気が明らかに弛緩した事が誰でもくみ取れた。
「そう・・・確かに相手はA+ランクだもの、その懸念点は理解出来るわ。では被害者である貴女の為に彼らの罪状及び出向先を伝えましょう。」
サジテリアはそう言いながら仕方がないという態度を崩さずに淡々と告げる。
それに対してサブマスターも記録管も何も言わず、彼女の言葉を全員が待った。
「先ず彼らの罪状だけど暴行罪、傷害罪、強姦未遂、奴隷売買法違反、通謀罪が王法による罪状となるわ。それに加えてギルド規約としての私闘禁止違反も適用されるわね。」
サジテリアがスラスラと罪名を告げる言葉にシルバは若干眉を顰める。
シルバの表情をチラリと見た後にサジテリアは言葉を続ける。
「以上の罪状による罰則だけど・・・流石に極刑とはいかなかったわ。『エンリュ山脈』の方で10年間の強制労働、ギルド会員永年除名に決定したわ。私闘禁止違反だけで永年除名は有り得ないけれど・・・王法に付随する罪状が余りにもタチが悪かったから、ね。ギルドとしてもその様に決断したわ。」
「なるほど・・・」
ラミアはそう応えながらチラリとシルバの方へ視線を向ける。
するとシルバは何かを考え込む様に目を伏せっており、ラミアの視線に気づいていない。
だがラミアの視線に気づくと小さく頷き、シルバはサジテリアに向けて言葉を発した。




