17・【おっさんだって神頼みはする。】
「ラミアちゃん・・・あなた、変な事を聞くのね?」
「変な事・・・ですか?」
サジテリアの言葉に対し、ラミアは訳が分からないという風に言葉を反芻する。
実際、その言葉の意味をよく知るシルバは心の中でもう止めろと叫んでいた。
「知っての通り、私たちの住む【エーラ王国】は王国の法律・・・通称『王法』に則って全ては決められているわ。」
「はい・・・勿論それは知っています。」
サジテリアの諭すかの様な口調にラミアは素直に頷く。
その様子を見たサジテリアは全く険の無い彼女の表情を見て微笑みながら言葉を続けた。
「王法の序文にはこう書いているわ。『全ての王国民の安寧の為、この法律を制定する。全ての王国民とは男、女、若者、老人、被害者、加害者、人族、魔族、王国籍を持つ者、王国籍を持たない者拘わらず、当王国に立つ全ての者である。』とね。」
「は、はぁ・・・」
ラミアはサジテリアの言葉の真意を理解していないのだろう。
彼女の表情には『難しい事は分からない。』と如実に書いている。
「詰まり加害者・・・今回は【灰色ノ剣】ね、彼らにも安寧の権利があるの。彼らは罪を犯したから王法によって罰せられる。けれども彼らの最低限の権利として『知られない権利』というモノが存在しているのよ。」
「知られない権利・・・」
「そう、自分達がどうなったのかを周りに喧伝しない権利よ。もし自分達が罰せられた事が王国中に知られれば親族は勿論、出身地の者やその地の貴族が迫害される可能性があるわ。そうなれば彼らは彼らだけじゃなく、親族やただその地に生まれた者の人生にすら苦渋を与えるのよ。だからこそ・・・『知られない権利』。」
「・・・・・・」
「だから今の貴女に私たちが告げられる事は2つだけ。『この街から追放される。』事と『2度とこの街には入れない』という事だけよ。・・・だからこの街で安心して過ごしなさい。」
「は、はぁ・・・」
2人のやりとりを聞いてシルバはハラハラとしていた。
このままではサジテリアに完全に言いくるめられ、奴らの罪状や向かった先を知る事が出来なくなる。
(こんな事なら【舞姫】にもうちょっと指南するべきだった・・・)
シルバは内心でそんな事を思いながら悔いてしまう。
実はシルバはこのギルドマスターの部屋に入るまでにラミアに1つお願いをしていた。
そのお願いとは、『灰色ノ剣の罪状と連れていかれた先』を聞き出す事だ。
彼女は高ランカーであり、貴族だ。
駆け引きや心理戦は得意だとシルバは勝手にそう思い込み、そして決めつけていた。
だがラミアは嘘が下手であり、駆け引きが得意なタイプではない事は先程のやりとりでシルバ自身、十二分に理解出来た。
(頼む・・・気づいてくれ・・・)
膝の上に置いた握り拳に汗がにじみ出る。
この王法でラミアが『灰色ノ剣』の生末を知る手段は実はあるのだ。
王法も一般の法律に漏れず加害者よりも被害者の方が尊重される。
だから彼女がギルドマスターに一言こういえば良いのだ。
『彼らが逆恨みして街に出入りしなくとも無断で侵入して危害を加える可能性がある。冒険者の自分は彼らの動向を知らないと不安で冒険者を続けることが出来ない』と。
『知られない権利』は飽くまで第三者に対しての権利であり、当事者が訴えかけて来ると当てはまらない。
それ故此処でシルバがその事を口に出したとしても、身元が割れていない現状では教えてもらえない可能性があるのだ。
「あ・・・ちな・・・何でもないです、はい。」
だからと言ってただ指をくわえて黙っている事も出来ず、シルバは援護しようと口を開く。
だがサジテリアの無言の圧力によって黙らざるを得なかった。
(頼むっ!!!気づいてくれっっ!!マジで頼むっっ!!!)
取れる手段が無言でラミアに視線を送るだけしか出来ない現状でシルバはじーっとラミアを見つめ続けていた。




