14・【おっさんだって性格を理解される時もある。】
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「お、おう・・・一晩でもの凄く老けてねぇか?」
「ハハッ・・・ハァァ~~・・・」
次の日、ギルドロビーでシルバを見たバルカーノは開口一番にそう告げてきた。
シルバは酷い言い草だとは思ったが、恐らくその通りだろうと思い力なく笑う。
「で、あれから何かあったんだろ?何があったんだよ?」
「いやぁ~・・・それはお前の為にも聞かない方が良い。」
シルバからすれば昨晩のマダムとの件を話す訳には当然いかない。
自分の信用も落ちるし、バルカーノに身の危険が及ぶ可能性すらある。
そう思いながら忠告すると意外にもバルカーノは「そうか。」とだけ言い大人しく引き下がって来る。
「・・・・・・」
「ん、なんだその顔は?」
「いやぁ・・・思った以上に簡単に引き下がるんだな、とな。」
「馬~鹿、お前さんは言いたいことは渋らないし、言いたくない事は頑として話さないだろうが。」
意外そうに告げるシルバに対してバルカーノは何でもない風にそう答える。
バルカーノの言葉を聞いてシルバ自身もそうかもしれないと思うと同時に、気心の知れた人物が1人でも居るという事は有難いなとシミジミと感じ入っていた。
「お、おっさん・・・」
「ん?」
シルバが感慨に浸っている中、自分を呼ぶ声が聞こえて思わず振り返る。
そして固有名詞でもないのに「おっさん」という言葉で自分が思わず振り返ってしまった事に内心大いにショックを受けた。
そして振り返ると予想していた通りの人物、【舞姫】が其処に立っていた。
「おぉ、【舞姫】の嬢ちゃんじゃねぇか?普段は他の冒険者に絡まねぇのに珍しいこった。」
「・・・・・・」
ラミアはそんなバルカーノの軽口を無視して、ジッとシルバの方へ視線を向ける。
シルバはシルバでこれ以上目立ちたくはないのだが、ラミアに対して昨日は大人気ない態度を取っていたためにどうも拒否しにくかった。
「・・・・・・髭禿、悪いな。」
「なぁに、お前がモテモテで何よりだ。んじゃ今晩暇ならまたマダムの所でな。」
バルカーノはシルバの端的な謝罪を受け入れ、手をヒラヒラ振りながら去っていく。
その後ろ姿を見ながら、アイツのああいう所が良い所だよなと妙に感心してしまう。
「おっさん・・・」
「よぉ。」
遠慮気味に呼ぶラミアに対し、軽い口調でそう挨拶を返すと彼女の顔がパッと輝く。
やはり自分は彼女を傷つけていたんだなと思うと妙に申し訳ない気持ちになってしまう。
「昨日は悪かったな。俺はどうも・・・目立つのが苦手でな。」
「ううん、私も悪かったから。」
「「・・・・・・・・・」」
お互いに謝罪の言葉を告げた後、どうにも話題が無く無言になってしまう。
これは良くない雰囲気だと内心汗だくになるシルバだが、生憎彼にはそれを打開する手段が思い浮かばなかった。
「おっさん・・・今日は依頼受ける、の?」
「あ、あぁ・・・流石に2日連続で仕事休んでちゃ食っていけねぇからな。」
「っっ?!!!」
シルバが何気なく言ったその言葉に対し【舞姫】は驚いた様な表情を浮かべる。
何気なく返答したシルバは気づいてはいないが、その一言で彼女は確信した。
『昨日にソードバードから助けてくれたのは目の前の男だ』と。
昨日にギルドの掲示板前で会った時点で依頼を探していたのは間違いない。
にも拘わらず、昨日には依頼を受けていないという事だ。
何故か?理由は単純だ。
自分を追いかけてきてくれたからだ。
昨日、『ソードバード』に襲い掛かられる直前、シルバの声が聞こえた・・・気がした。
その時点で追いかけてきてくれたのでは?という淡い期待はあった。
だが今日、シルバに出会うと2日連続で仕事をしていないという。
それに加えてチラリとシルバの腰部分を確認すると短刀が3本、不自然に無いのだ。
そうなって来ると淡い期待は確信に変わり、それ故に目の前の男に恩を積み重ねてしまったと考えるのは貴族としても高ランカーの冒険者としても、又、彼女自身の性格からしても自然な事だった。
「お、おっさんっ!!何か困ってる事は無いかっ?!!」
「・・・何だいきなり?」
だが本人に問い詰めても知らぬ存ぜぬで押し通してくることは付き合いの浅い彼女でも理解が出来た。
更に言うならばそうすればする程にシルバに迷惑がられる事も理解している。
ならばどうするか?直接謝礼を喧伝したり言いふらさず、おっさんの願いを叶えるのが1番良いのだと
昨晩に検討した結果、彼女の中で結論付けられていたからこその彼女の言葉であることをシルバは知らない。




