13・【おっさんにだって当たり散らしたい夜はある。】
「・・・・・・」
シルバはマダムと話し合った後に賃貸で借りている自宅に到着した。
そしてそのまま何も言わずに真っすぐと寝室へ向かい、身体をベッドに身を任せるかの様に倒れ込む。
「・・・・・・」
そしてそのまま瞼を下げ、眠りにつく
「ふ、ざけん・・・なぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
訳が無かった。
一度下げた瞼を再び上げて、ベッドに身を任せたままの状態で大声で叫びだす。
そして再度ベッドから身を上げると、無言でリビングへ向かってグラスに水を注いでから一気に飲み干す。
「ふぅ・・・・・・・・・ふざけんなぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
そして一息ついた途端に再び大声を張り上げていた。
血が滲まん限りに握りしめた拳をそのままテーブルに打ち付け、そのまま怒涛の様に言葉を羅列させる。
「ふざけんなふざんけんなふざけんなぁ!!!なぁ~にがマダムだ?!!何が【裏女帝】だっ?!!よりにもよって何つー依頼を持ってくるんだよっ?!!300万ダレスどころか1,000万ダレスでだって受けたくねぇわ!!!それを・・・俺の情報を漁らない対価として150万ダレスだとっ?!!!150万ダレスぽっちで俺の人生を滅茶苦茶にする可能性があるんだぞっ?!!マジでふざけんなっっ!!!!」
シルバは一気にそう叫ぶと肩で息をしながら心を落ち着かせる。
だが・・・頭を冷やせば冷やすほどに割に合わない依頼だと心中で嘆いていた。
「よりにもよって・・・【灰色ノ剣】が除名された理由と現在の場所を特定しろ、だと・・・」
確かに今朝にギルドへ行った際、A+ランク【灰色ノ剣】を除名処分するという一文が掲示板に記載されていたのはシルバ自身も確認していた。
ただ、ギルド屈指の上級ランクパーティーの除名処分理由が明記されていない事からもマダムが興味を示すのも致し方ないかもしれない。
ただ・・・シルバにとっては依頼難度も勿論ではあるが、自分が関与した出来事を報告しなければならない事が何よりも億劫だった。
「依頼かぁ・・・依頼なんだよなぁ・・・」
シルバが此処まで嘆くのにも当然理由がある。
先ず、依頼である以上は虚偽報告が出来ない。
虚偽報告を行った事がバレた場合はその事が冒険者登録名簿に記載される為に使用が著しく低下する。
それに加えてギルドに不利益を与えたとしてランクの低下及び一定期間はランクが昇級されなくなる。
更に場合によっては依頼主及びギルドに損害賠償を支払わなければならないのだ。
その為にシルバはこの時点で【灰色ノ剣】と【舞姫】、そして自分自身の事を伝える義務を負う。
「しかもアイツ等の行先を調べるとなると・・・ハァ・・・」
除名処分になったモノの行先はある程度は限られる。
だが・・・それをダイレクトに調べるとなるとギルドに聞かなければならないのだが、ギルドはギルドで一冒険に教える筈が無い。
となると・・・足を棒にしながら時間と労力を掛けて調べるか、ギルドに忍び込んで情報を抜き取るしか手段はない。
鮮度が命である情報に時間をかけすぎる訳にもいかないが、ギルドに忍び込んだ事がバレた場合は一発で除名処分及び損害賠償・・・更に国法に則って裁かれてしまう可能性も十二分に有り得るのだ。
「マジで最悪だ・・・いっそこの街を出ちまうか・・・」
この街にシルバ自身、愛着が無い訳では無い。
だが今後の事を考えれば出て行かざるを得ないという選択肢を選ばなければいけない。
彼にとってはそれ程に難解で億劫になる様な指名依頼だった。
「何のための指名依頼なんだよ、マジで・・・」
ギルドに流れて来る依頼に関してギルド自身が内容を吟味した上で否決する事は無い。
極論、王を殺してくれという様な内容であっても、又その報酬が1ダレスでもギルドは受ける。
但し一定期間の間、冒険者が依頼を受けなければ差し戻しと言う形で依頼主へ突っ返すろいう形を取る。
指名依頼もそれと同様にどんな依頼、どれだけ安い報酬でもギルドは受ける。
その上で指名された冒険者に差配した上で冒険者自身に判断を委ねるのだ。
「正式に指名依頼を受けて断れば良かった・・・」
シルバ自身、もしその様な形で断ったとしても先程と同様の形を取って来る事は間違いないと確信しているが・・・それでもそう思わざるを得なかった。
そんなこんなで途方に暮れながら、シルバの夜は更けていった・・・




