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どうやら土地神様のバチが当たったようです  作者: 小雨
第三章 ギターと駄菓子
8/11

2 リュックサックの中身

「太一、太一!そろそろ起きなさい!則君と約束してたんじゃないの?則君来てるわよ!」

頭が重い。瞼もなんだかいつもより腫れぼったい気がする。階段の下から母さんが叫んでいる。あくびをしながら寝癖のついた頭を手ぐしで整えながら階段を降りていくと、玄関にパンパンのリュックサックを背負った則が何やら興奮気味に待っていた。

「太一、まだ寝てたのか?もう10時半だぞ。早く着替えてこいよ。石のありかが分かったぞ!」

(石?石・・・。石のありかが分かった!)

「太一、ひどい顔だな。目とかむくんでるぞ!あっ、昨日夜中にこっそりカップ麺でも食っって汁まで飲み干したんだろ?塩分取り過なんじゃない?」

太一は、階段を駆け上がり、トレーナーとジーンズに着替え、携帯と道守をトレーナーのポケットに突っ込んだ。朝ご飯を食べている暇はないので、仕方なく顔だけ洗うことにした。則の言うとおり洗面所の鏡に写った顔は、瞼が腫れていて寝ぼけ顔がさらにぼぉっとして見える。

「ちょっと則と出かけてくるから」

台所脇の廊下を走り抜けると

「あら、太一朝ご飯は?」

「いらない!急いでるから!」

「せっかく準備したのに。太一がいつまでも起きないから。何度も声かけたのに」

「残しておいて。後で食べるから。じゃあ行ってくる」

既に玄関の外で自転車にまたがって待っていた則にあわせて、ガレージから自転車を出す。

「でっ、どこなの?石は」

「俺んちの畑にあるんだって」

「なんで畑にあるの?」

「昨日、夕飯の後、じいちゃんとばあちゃんと話してて、たまたま石の場所が分かったから何度も太一に電話したんだぞ!メールもしたけど、全然返信ないから、朝一で迎えに来てやったわけ」

「返信出来なくてごめん。昨日は疲れて早く寝ちゃったんだよ」

「早乙女先生が病院に運ばれたり、学校中大騒ぎだったもんな。これも太一が行ってた石の影響か?なんだか責任感じちゃうな、俺」

「うん・・・。たぶん」

(則も多少気にしてたんだ。昨日倒れた早乙女先生ともやしが実は付き合ってて、お腹の中には赤ちゃんがいるって衝撃の事実は則は知らない。でもなんとなく、昨日道守から聞いたことは今ここで話してはいけないような気がする)

「石の件だけど、じいちゃんが盆栽棚のところに置いた翌日にばあちゃんが、藁や鍬と一緒に庭にある石を何個か一輪車に乗せて畑に持って行ったんだって。じいちゃんがよく石を拾ってくるから、ばあちゃん困ってて前からこっそり畑で使えそうな石は、拾って持って行ってるんだって。通りで見つからないわけだよ!」

「そうだったのかぁ。で、畑のどこに持ってったんだ?」

「う~ん。それが分からないんだ。昨日何度もばあちゃんに聞いて、思い出してって粘ったんだけど・・・。今朝も確認したんだけど、まったく思い出せないって。まぁ、畑にあるってことは分かってるし、二人で探せばすぐ見つかるよ」

自転車をこぎながら則は、相変わらずのんきに構えている。則の家の畑で小さい頃に則とよくキャッチボールをしたが、かなりの広さだったような気がする。

「則の家の畑ってかなり広かったような気がするけど、どのぐらいの広さなの?」

「う~ん、五反ぐらいだって。ところで五反ってどれぐらいなんだ?」

「俺も分からない・・・。」

太一の家から自転車で五分ほど走ると則の家の畑に着いた。畑の西の奥の方にビニールハウスが二棟。その手前には、大根やネギ、白菜、キャベツなど冬野菜の畝が整然と並んでいる。

(やっぱり広い。広すぎる・・・。則が考えてるほど簡単には、見つからなそうだ)

畑のすみの通路に自転車を止める。

「今朝、道の駅の直売所の分の出荷は済んでるから小松菜のビニールハウスから探そう。ばあちゃん石を持っていった日、ハウスで作業してから外の畑の手入れしたみたいだから、その順番でな!必要なものは、俺がちゃんと準備してきたから。ほら!」

パンパンに膨らんだリュックを得意げに開ける。

「まずは、軍手、懐中電灯、お茶、それに栄養補助食!」

「栄養補助食って・・・。ほぼ駄菓子じゃん!」

ピンクと緑のネジネジゼリー6本、大根の赤い漬けたやつ2個、チョコ、ポテトスナック、ジャムパン2個、麩菓子1袋!

(リュックをパンパンにしていたのはこれが原因か!)

太一があきれてため息を漏らすが、則は全く気にする様子がない。

「あと、ほらこれ飲んで。どうせ太一、朝ご飯何も食べてないんだろ?」

リュックからコーンポタージュの缶を取り出した。

「俺って、気が利くだろう?ばあちゃんの店の自販機でわざわざ買っておいてやったんだぞ!感謝しろよな」

自慢げにもう一缶リュックから取り出し、少し缶を振ってからプルタブを開ける。筆の太文字で豪快に『おしるこ』って書いてある。

「さてと、俺も水分補給しよう」

太一も缶を振ってからプルタブを開ける。

「水分補給って・・・。朝からよくそんな甘いもの飲めるな。則、ちゃんとお茶も持ってきたんだろ?そっち飲めば良いのに」

「太一は、全く分かってないなぁ。朝は糖分だろ?」

相変わらず、よく分からない持論を唱えている。太一もコーンスープを口に含む。クリーミーで甘塩っぱい味が口の中に広がり、コーンがコロコロと転がる。お腹の中に温かいスープがじんわり広がっていくとなんだか気分的に少し落ち着く。

「良い匂いだなあ」

もぞもぞとトレーナーのポケットから道守が顔を出す。そう言えば、今朝は珍しく静かだった。

(昨夜のことを、気にしているのか?何か気まずく感じているのか・・・)

「太一。昨日は、悪かったな。太一の気持ちを考えずに、色々話してしまって・・・」

(やっぱり気にしてたのか。一晩ぐっすり寝たら不思議と気分は、スッキリしている。もやしと早乙女先生の組み合わせには、未だに大分モヤモヤ感が残るが、早乙女先生達のためにも今日こそなんとか石を見つけてやる!)

「大丈夫、必ず今日、石を見つけるから」

「何だ?太一急にやる気出しちゃって。さっきまで寝ぼけてたくせに。まずは、小松菜のハウスからだな!探すぞ!」

則は飲み終わったお汁粉の缶を自転車のカゴに投げ入れる。見事一発でカゴに入った。慌てて太一も飲み干すと同じように自転車のカゴに投げる。カコンと軽い音をたて、カゴの中に収まった。今日は、何か良いことが起きそうな気がする。

 ハウスを開けると11月末というのにむっとした空気が流れ出てくる。晴れているので、中はかなり温かく汗ばむほどだ。入り口付近に、藁や農機具、空箱、肥料の袋等が積まれている。藁の重しに石が5つのっていた。ポケットから葉っぱ(道守)をだして一つずつかざしてみた。

「違う、これも違う」

残念ながらそんなに簡単には見つからないようだ。それから収穫済みの株の根元や、通路を歩きながらくまなく探したが、それらしき石は、見つからない。汗が頬をつたってくる。

「太一、熱いから、少し休憩しよう」

「そうしよう。」

則がハウスの外にプラスチックの空箱を逆さにして2だしてくれた。

「ここに座って」

リュックの中をガサガサあさりお茶を2本取り出すと、1本を太一に押しつける。

「やっぱり則の家の畑は広すぎるよ。見つかるかな?」

「そんなに心配しなくても大丈夫だって。まだ時間はたっぷりあるし。

お茶が喉を通っていく感じが心地よい。今日は、則が色々準備してきてくれたものがめずらしく役に立っている。

 2棟めのハウスの捜索を終える頃には、12時半を回っていた。再びプラスチックの空箱に腰をおろす。則が持ってきてくれたジャムパンをかじりながら作戦を立て直すことにした。動いた後に外で食べるジャムパンは格別だ。中のイチゴジャムも甘酸っぱくていい。

「これ食い終わったら、ハウスの西側の石垣のところを探そう。それでもダメなら外の畑をローラー作戦だ」

もごもご口をうごかしながら、則はいつになく真剣だ。ふと空を見上げると飛行機雲が細く伸びている。湿度低めの風も心地よい。

「まあ、みつかるよきっと。早乙女先生の体調はどうかな?心配だな」

則も飛行機雲をみつめている。

太一は、お茶でジャムパンを流し込む。

「そうだな。回復してると良いんだけどな・・・」

 畑の西側は、田んぼに接していて畑の土砂が流れ込まないように高さ80㎝ぐらいの石垣になっている。

「ここにあるんじゃない?石だらけだし、良い感じに苔むしてるし。ばあちゃんが補修のために石を置いてもおかしくない!よかったな、太一。すぐに見つかりそうだ」

「午前中からここを先に探せばよかったな」

石段の北の角から南に向かって、手に持った葉っぱ(道守)をかざしていく。

「違う、これも違う・・・。似てるけど、これも違うな・・・」

慎重に探すが、全く見つからない。

石垣の南の角にたどり着いた頃には、携帯の時計は、14時半。暗くなるまでにあと2時間しかない。則のリュックの中には懐中電灯が入っていたが、暗くなってしまっては、見つけられないだろう。

残りは、冬野菜が植えてある畝だけだ。立ったりかがんだり、スクワットを繰り返しているような状態で、さすがに足がだるくなってきた。半分ほど残っていたお茶を一気に飲み干す。則が先行して歩きながらそれらしき石を探し、その後を太一がついて行く。気になる石にかざしてみるのだがやはり道守の反応はすぐれない。外の畑の3分の2ほど調査した頃には16時を過ぎていた。日焼けしたのか鼻の頭と頬がなんとなくほてっている。ペースを上げなくては。二人の影もだいぶ長くなってきている。残り3分の1をなんとか三十分で終わらせたが、既に日は傾いてきている。時間切れか・・・。則と相談して、最後に畑の東南のすみにあるイチゴの畝を探して今日は修了にしようと決めた。来年のためのイチゴの苗が既に植わっており、冬越しのために株元に藁が敷いてある。則のばあちゃんが大切に育てているイチゴで、5月ぐらいになると太一の祖母にお裾分けのイチゴがどっさり届く。そのまま食べても市販のイチゴより味が濃くおいしいが、余った分は、ばあちゃんがジャムにしている。

「ここで最後か・・・」

則が太一の手元を懐中電灯で照らしてくれる。太一はかがみながら注意深く藁の間に軍手で探りながらじりじり進む。所々に、風で藁が飛ばないように針金や木片、石などで固定してある。イチゴの苗を傷つけないように慎重に確認しながらの作業だ。辺りはもう真っ暗。イチゴの畝も残り2メートルほどしかない。

(見つからなかったらまた振り出しか・・・)

藁をかき分ける太一の軍手指先ににざらっとしたものが引っかかる感覚がした。懐中電灯を近づけてもらうと、5㎝四方ほどの苔むした石がある。葉っぱ(道守)をあてると

「これだ!太一!やっと、見つかった。ありがとう」

興奮気味に道守が叫んだ。

「これだ!則、見つかった」

「やったな太一!」

則も拳を振り上げガッツポーズをしている。一瞬にして疲れも吹っ飛び、二人で大騒ぎしていると

「友則~、こんなに暗くなるまで何やってるんだ?」

「太一も人様の畑で、何してる?こっちに来なさい」

ふと声のする方を見ると、太一と則のばあちゃんが農道で仁王立ちになりこちらを懐中電灯で照らしてきた。照らしながらもこちらに近づいてくる。

「まぶしいよ。ばあちゃんちょっと太一と昨日話してた石を探してた。でももう見つかったから大丈夫」

「見つかったから大丈夫って、ここのところこそこそと何をやってるんだ?また、なんか悪さをしたのか?友則!」

則のばあちゃんが孫の耳を思いっきり引っ張る。

「いたい、いたいってばあちゃん。はなして!」

「太一もこの一週間、様子が変だった。何を二人で隠してるんだ?一緒にばあちゃんの家に来なさい。話はじっくり後で聞くから」

「分かった・・・」

自転車をカラコロ押しながら徒歩で3分ほどで太一のばあちゃんの家についた。

居間のこたつの上に新聞紙を敷いて石の上に葉っぱ(道守)を乗せた。太一のばあちゃんが人数分のお茶を持ってきた。

「さあ、お茶でも飲みながら、話を聞こうか。ねえ、信ちゃん」

「そうだね、文ちゃん。」

太一のばあちゃんの文子と則のばあちゃん信子は幼なじみで同じ年に婿をもらい結婚し同じ年に出産した。仲がよくしょっちゅうどちらかの家に寄っては、お茶を飲んでいる仲。

当然情報共有のスピードも早い。太一は、何をどのくらい話せばよいか、戸惑いながらもポツポツと語り出した。則が誤って石碑を壊したこと、太一が神様に石を探すように頼まれたこと、石碑が欠けた影響で町中に些細な変化やズレが起きていることなどを伝えた。

「前からあの石碑は田村家にもゆかりがあって大事なものだって言っていたのに。」ふう~と太一のばあちゃんがため息をつきお茶を一口すすった。

「文ちゃん。元はと言えば家の友則のせいだ。太一君もごめんね。迷惑かけちゃって。友則、なんて罰当たりな、すぐに話してくれればよかったのに。黙ってるなんて・・・。情けない」

座椅子に腰掛けてお茶をすすっていたじいちゃんがこたつに歩み寄った。

「まあまあ信子さん。そのぐらいにしてやって。明日、じいちゃんが応急処置だけど欠けた部分をくっつけてあげるから。でも、ずっとそのまんまにしておくのも申し訳ないなぁ・・・」

「そうね、石碑自体もだいぶ古くなってきたし、この際寄付を募って新しいものを建立しようかしら?ねえそれが良いかも、信ちゃん!」

「良いわね。文ちゃん!早速石屋さんにも相談しなくちゃ。その前に明日友則と旦那と一緒にお詫びに石碑の回りをきれいにするから」

「あら、それなら太一と私たちも一緒に行くわ」

「じゃあ、その時に欠けた部分をじいちゃんがくっつけるから」

何だが大人三人で盛り上がっている。結局、一時間ぐらいで話がどんどん進み、明日の9時から皆で石碑周辺の掃除と応急処置をすることが決定した。19時前に夕食だからとお開きにすることになった。帰る間際、則のばあちゃんが手提げ袋からサイダー3本と大量の駄菓子が入った袋を太一に渡してきた。

「太一君、友則が迷惑かけちゃってごめんね。これよかったら食べてね」

「こんなに沢山。もらっちゃって・・・。ありがとうございます」

「良いのよ、ほんの気持ちだから。ほら友則、太一君に迷惑かけたんだから、ちゃんと誤って」

「太一、色々悪かったな。ごめんな」

「いいよ。石も見つかったし。一緒に探してくれたし、気にしないで」

「太一、じゃあな」

「うん、則また明日」

ばあちゃんと並んで自転車を押しながら則は帰って行った。






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