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どうやら土地神様のバチが当たったようです  作者: 小雨
第二章 探し物
5/11

2 未確認生物

翌朝、学校に着くとツチノコのニュースで持ちきりだった。野球部の佐々木が会話の中心にいて

「昨日一つ上の先輩たちが学校の裏山をランニング中に見たらしい。太くて短い胴体なのに少しジャンプして草むらに消えたんだって。まだ近くにいると思うから、今日からツチノコ捕獲大作戦やるんだ!ジャーン!これが秘密兵器」

佐々木は、机の上に真新しい金網のねずみ補り機を乗せた。

「何が好きか分からないから、餌は、ゆで卵と魚肉ソーセージ、スルメを準備したんだ」

どうやら部活の時に、野球部総出で設置するらしい。

「捕まえて町から金一封もらったら、野球部全員で食べ放題行って皆で焼き肉をたらふく食うんだ。皆も協力してくれたら、一緒に食べ放題行こうぜ!」

クラス中かなり盛り上がっている。既に金の使い道まで決めているようだ。

 「大変だ!大変だ!」

そこに中嶋が息を切らし駆け込んできた。太一が怪訝な顔をすると

「今、職員室に行ってきたんだけど、体育の肉ゴリたちが盛り上がってて、今年から持久走大会10㎞から30㎞にした方が良いって提案してた!」

「えっマジかよ!」

一瞬でツチノコ捕獲大作戦の熱い空気が吹っ飛んだ。

体育教師の肉ゴリこと金剛猛は、32歳独身で趣味は筋トレ、好物はプロテインと鶏ささみだ。筋肉ゴリラ(略して肉ゴリ)のあだ名にふさわしい体格で、無駄に熱血で生活指導担当でもあり、日々生徒をしごくことに生きがいをかんじている。当然、生徒たちからはあまり好かれていない。

「しかも当日休んだヤツは、後で追走があって、放課後に分割で30㎞走らせるんだって!あと来年は、体力テストの1500m、全国平均超えるまでクラスで連帯責任ではしらせるらしい。超えるまで球技とかやらせないんだって。今年の体力テストの結果が悪かったらしくて、もっと厳しく鍛錬しないとって、体育教師たちが張り切ってたよ。もう嫌だよ俺。」

則が肩を落とす。クラスメイトたちも一斉に肉ゴリへの不満を口にし始めた。

「それだけじゃなくて肉ゴリたちが、修学旅行先も体力気力作りのために、登山とキャンプ飯ごう炊さんのプランに変更すべきだって盛り上がってた・・・」

ブーイングの嵐だ。毎年修学旅行は、定番の京都・奈良・大阪で、出来たばかりのUSOユニバーサル・スタジオ・オオサカに行くことを、太一は何より楽しみにしていた。クラスメイトもそれは同じで、さらに肉ゴリの無謀な提案に文句を言いまくっている。

(道守が言っていたズレが大きくなるって。このことか?遂に実害が伴ってきた・・・。)

「太一、何だ?この騒ぎは?」

胸ポケットの道守はごそごそと落ち着きなく動き回っている。会話の輪からぬけた則が、太一の方へやってきた。

「あっ、太一。早乙女先生今日から復帰だって。さっき職員室で会った。元気そうだったよ。良かったな!」

則は、何やらニヤニヤしている。

「そっか、良かった」

(最悪のニュースの中に、たった一つだけ朗報が舞い込んだな・・・。早乙女先生体調良くなってよかった)

 3限の英語の授業でもプチ事件が起こった。連日の石探しの影響で、残念ながら太一は英単語テストで6割点数をとれなかった。これで3回目だ。1ヶ月に3回続けて英単語テストで6割を下回ったものは、その日の放課後、補修を受ける決まりになっている。今回は珍しく三高も呼びだしされることになった。あとは、常連の則と佐々木だ。

 補修に三高は、現れなかった。一つの単語につき10回ずつ書き取りしてその場で覚える。書き取り終了後、再テストを受け6割以上点数をとれれば解放されるが、不合格の場合は、単語の書き取りからテストの流れをひたすら繰り返す。補修で完全に覚えさせるという地獄のスタイルだ。英単語教師の鳥羽は、このテストスタイルからも分かるとおり結構粘着質だ。細い銀縁の眼鏡に、おちょぼ口、髭が濃いので、朝は少し青く見える程度でもいつも午後には若干無精髭状態になる。留学経験がないため英語の発音はイマイチだ。

 地獄の書き取りの後、再テストを受ける。あとは採点結果を待つだけだが、利き手がだるくて限界だ。

(早く帰りたいなぁ・・・)

頬杖をついて太一がぼぉっとまどろんでいると、教室の外で何か金属製のものを強く床に叩きつけたような音の後、ジリリリリ・・・とけたたましい非常ベルが鳴り響いた。

それだけではなく、何かが勢いよく吹き出す音とともに白いもやのようなものが充満する。慌ただしい足音。二人組の黒い影が走り去る。

「お前ら、何したんだ!ちょっと待て!」

鳥羽が教室の外へ飛び出していく。太一たちも廊下へ出たがと辺り一面真っ白な粉が舞い散り、非常ベルも鳴り止まない。

「非常ベルってどうやって止めるんだ?」

則が不快そうに耳を塞いでいる。佐々木は意外にも冷静に非常ベルの前で注意書きを読んでいるが、止め方は分からなかったようでとぼとぼ教室に戻ってきた。仕方なく鳥羽が戻ってくるのを待つことにした。3分ぐらいしてベルが止み、すぐに息を切らした鳥羽が戻ってきた。

「ダメだ。逃げられた。顔も確認出来なかった。悪いけど3人で廊下の掃除手伝ってくれるか?消化器の粉がひどすぎて先生一人じゃ終わらないから。頼むよ」

「え~。何で俺たちが?この後、用事あるんだけど」

佐々木の用事は、多分ツチノコ捕獲大作戦のことだろうなと太一は確信したが黙っていた。

「はい、このマスクをつけて、はい、ほうきとちりとり持って!」

鳥羽は、廊下の窓を細く開け始めている。

「粉を巻き上げないようにそっとほうきで集めて。ちりとりに入れたらゴミ袋に捨ててくれ。仕上げにぞうきんで水拭きするから」

「なんで俺たちが、掃除しなきゃいけないんだ?」

佐々木がつぶやく。

「ごめんな。君たちのせいじゃないのに手伝ってくれてありがとう」

「先生、誰がやったか心当たりは?」

則は、鳥羽に話しかけながらのんびりほうきで粉を集めている。

「それがなぁ・・・。逃げ足が速くて。顔を見られなかったから全く見当もつかない。こんな悪さをするなんて。職員会議で報告してやる。でも犯人は、名乗り出ない限り分からないだろうな・・・」

粉を集め終わってからのぞうきんがけも大変だった。一度吹いただけでは、ぞうきんがけの後に白い選が残ってしまうので何度も水拭きを繰り返した。何度ぞうきんをすすいだことか。片付け終わった頃には17時をまわっており、辺りは真っ暗だ。

「暗くなるまで手伝ってくれてありがとう。おかげできれいになったよ。今日は単語テストの点数は、おまけしてやるからもうかえって良いよ。お疲れさま」

3人ともクタクタだ。佐々木はツチノコ捕獲機を設置できず、自分のロッカーに突っ込んでとぼとぼと帰って行った。太一と則も、もう真っ暗で石探しは無理なので大人しく帰ることにした。

「太一、そんなに落ち込むなよ。もう、じいちゃんとばあちゃん旅行から帰ってきてる頃だから、石のことよく聞いておくから」

「よろしくな。今日は、お疲れ。なんか最悪な日だったな」

太一がため息をつくと則が肩をトントンと叩いて

「まあ、俺に任せておきな。明日には、石見つかるかもよ!じゃぁな!また明日」

「良く聞いておいてくれよ。じゃぁな!」

自転車をこぎ出すと道守がひょっこりポケットから顔を出す。

「太一、今日は凄かったな!あの雲みたいな白い粉は何だ?」

道守がそわそわと落ち着き無く動いている。

「あぁ、あれは消化器の中に入っている消化剤。消化器を誰かが床に叩きつけたから吹き出したんだ」

「あれは消化器の中にはいっているものなんだな。そう言えば前に荒神様の荒ちゃんに聞いたことあるぞ!」

「前に話してた竈の神様?」

「そうだ。初期消火には消火器が欠かせないから、その家にも備えてほしいものだっていっておった」

「そう言えば、今竈使っている家ってほとんど無いけど、竈の神様って普段何してるの?」

「確かに竈は少なくなったが、その代わりに今は、ガスコンロやIHコンロがあるだろう?火や熱で料理をするのは、昔から変わらないだろう?だから火元を守るという仕事は、変わってないんだよ」

「そうなんだ・・・。全然知らなかった」

「今日は、太一が補修を受けてくれたおかげで、良いものが見られたな」

道守は、口笛を吹き出した。

(まったく、人ごとだと思って気楽なもんだ)

「太一、もっとスピードを出せ!もうすぐ夕飯だ。今日も太一の母上が変わった料理を作っているんだろうな。たっぷり匂いもかげるし。楽しみだ。

「本当に道守って匂いフェチだよね」

「何だ?匂いフェチって」

「匂いを嗅ぎたくて仕方ないってこと」

「まぁな、私たち神様は、基本的に匂いを嗅ぐだけで、匂いだけではなく食べ物の食感や味を感じることが出来るんだ!だから匂いはとっても大切だ」

「お供え物とかも?」

「あぁ、私たちが一番最初に匂いで味わうだろう?後の残り物は、動物たちにお裾分けしている。酒の場合は、匂いだけでちゃんと酔っ払えるぞ!」

「へぇ~。酔っ払うんだ!」

「それより、今は夕飯が大事だ!急げ、太一!」

「はいはい。分かりましたよ」

 夜遅く則からメールが届いた。

「じいちゃんに聞いたら、自転車の修理したときに、かごにコケのついた石が入ってたんだって。見たことのない珍しいコケがついていたから、盆栽に植え付けようとしてとってあるらしい。盆栽の棚に置いたって。明日、放課後探せばすぐ見つかると思うよ!よかったな!」

「みっちー、則からメール。石則の家にあるらしい。明日見つかるかも!」

「そうか。それは良かった」

まるで、人ごとのような生返事だ。最近道守は、テレビに夢中で、熱心に夜のニュース番組をみている。どうやらチャンネルを使わずに自分で代えることが出来るようで、ザッピングしながら好みの番組を見つけては、楽しんでいる。すっかりテレビっ子になりつつある。

「太一、今日はギター弾かないのか?弾いてくれ!」

「いいよ。」

ケースから取り出し軽くチューニングする。

(やっと石が見つかりそうだ。久々に良い気分)

「そう言えば、父さんが夕飯の時、ツチノコで町おこしするって張り切ってたね。ツチノコTシャツの試作品注文したみたいだし、ツチノコップにツチノコストラップ、箸置きとか色々考えてるみたいだけど、そんなの流行るのかな?これもズレが加速してるうちの一つなの?」

「う~ん、たぶんな。太一の父上は、日頃から町をもっと盛り上げたいと強く思っていて、その気持ちにブレーキがなくなっているんだろう。日頃持っている願望を自分の気持ちの思うままに実行したくなっているんじゃないかな?」

「それって今日の消火器のイタズラも?」

「たぶな、やってはいけないと禁止されるとやりたくなる心理だな」

「押してはいけないボタンをどうしても押したいみたいな?」

「まぁ、そんな気分に町中がなっているんだと思う」

「三高も遅刻、早退が最近続いているけど、もとからグレたい願望があったってこと?あんな真面目だったのに」

「そうなのかもしれないなぁ。本人にしか分からないが、何か思うところがあったんだろう」

「そんなもんかなぁ~」

「そんなもんだろう。さあ太一早く何か弾いてくれ!」

「はいはい。わかりました」

太一は、最近耳コピしたばかりの曲を弾き始めた。



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