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どうやら土地神様のバチが当たったようです  作者: 小雨
第一章 雨の金曜日
2/11

2 ハガキの木

畦道の雑草と稲を刈り取った後の田んぼが目の前にある。

「いってえ・・・」

 どうやら派手に転んだらしい。ゆっくりと上体を起こすと学ランの右側半分にべっとりと泥がついている。自転車も右側面がドロドロでタイヤと泥止めの間にもみっちりと土がめり込みゆがんでいる。

(この制服と自転車なんとかしないと・・・)

顔についた土を制服の左袖で拭う。風で頭上の楠の葉がこすれざわざわと音を立てた。

「やっと引っかかったな」

楠の幹の上の方から男性の声がする。なんだかうれしそうだ。

(あれ?俺、頭打っておかしくなっちゃったのか??)

そう思うと急に背筋がぞわぞわして冷たい汗が流れた。

「そんなに、恐れることはない」

(まただ。やっぱり完全におかしくなってる)

「おかしくなってなどおらん。仕方ないこれを見るがよい」

目の前に風に乗り一枚の葉がひらりと落ちてきた。確かあれは、昔から楠のすぐ側に植えてあったハガキの木の葉だ。太一がまだ小さかった頃、ばあちゃんと散歩でよくこの道を通った。その時にハガキの木のことを教わり、よく石で文字を書いたりして遊んだ記憶が蘇ってきた。畦道に落ちていた小枝がじんわりと持ち上がる。

(どうやら目までおかしくなったらしい)

小枝は葉の上でくるくると器用に動き回っている。

「これでどうだ」

自信満々の声が響いた。

「どうって言っても」

目をこらすとこけしのような非常にシンプルな顔がハガキの葉に刻まれている。

「人は人の顔のようなものを見ると安心するんだろ?」

顔のようなものの口のような部分がもぞもぞと動いている。

(何だ?この中二病みたいな状況は。やっぱり完全におかしくなったらしい)

より一層、体中の体温が下がっていくのが分かる。

「全く物わかりが悪い。お前はおかしくなってなどおらんと言っているではないか。」

ハガキの木の葉はしゃべり続ける。ひらり楠の近くの石碑の上に移動するとぴょんぴょん跳ねていた。

「そこにある石にでも腰掛けるがよい」

制服についた泥を払いながら石碑の左側の石に腰掛ける。

「さて早速本題に入るが、お前は昨日この道を通って下校したか?」

「したけど、何?」

「お前は昨日もそこで転んで吹っ飛んで、この石碑にぶつかっただろう?」

(俺だと決めつけているが、全く身に覚えがない)

「下校のとき確かにこの道を通ったけど。転んでないし、ぶつかってない」

「なんだ。人違いか。せっかく術で罠をかけておいたのに」

人に濡れ衣を着せ転ばせるなんて。しかもあからさまにがっかりした声音に段々腹が立ってきた。

「お前、人違いですむと思うのか?」

「おい、先程から気になっていたんだが、神様にむかってお前はよせ。礼儀を知らぬのか」

「神様?」

「この石碑に刻まれた文字を読んでみろ」

苛立たしげに飛び跳ねている葉っぱの下の石碑に目をこらすと、苔むしていて読みにくくなっているが文字か書いてある。

「みち・そ・つち?」

「近頃の若者の学力低下は深刻だと噂に聞いたが、漢字も読めなくなっているとは。なんとも嘆かわしい・・・」

葉っぱの口元が偉そうにブツブツ何やらつぶやいている。

「だったらなんて読むんだよ!」

道祖神(どうそじん)だ。我が名は道祖神の道守だ」

「お前本当に神様なら何で罠をかけたあげく人違いなんかするんだよ」

「だからお前はよせ。無礼だろう。呼び名か・・・。そうだな道守様でも良いのだが少し堅苦しいなぁ。まぁ、みっちーとでも呼ぶがいい」

(みっちー。なんだこの変に軽い感じは。威厳があるんだかないんだか・・・)

「じゃあ俺のこともお前って呼ぶなよ。俺は田村太一だ。せめて名前で呼んでくれ。」

「承諾した。ところで太一。他に下校の時にこの道を通りそうなヤツはいるか? 丁度太一と似たような背丈で体格、服装、そういえば髪型も似ておった。

(俺と似てて、この道を通るやつ・・・。あっ、いた! 中嶋だ!)

「多分同級生の中嶋ぐらいしか通らないと思うけど」

「あの者は中嶋というのか! 実は、昨日そいつがここで派手にすっ転んで、こともあろうか自転車ごと私の石碑に吹っ飛んできたんだ」

「はあ・・・。それで」

「その時、石碑の角が欠けたんだ。」

(確かに向かって右側が5㎝角ぐらい欠けているけど・・・)

「それは気の毒に・・・。じゃあ、後のことは中嶋に直接言って」

「ちょっと待て。話を最後までちゃんと聞け」

仕方なく太一は、石から浮かせた腰を戻し渋々座り直す。

「私は、昔からこの土地の人々を守る神だ。だが昨日から急に持っている力の一割も発揮出来なくなってしまった」

「そうなんだ。それでなんかまずいの?」

「まずいに決まっているだろう。私はこの土地の人々を守るために日々町中を駆け回っているが、石碑が欠けてからこの場所から全く動けなくなってしまった」

「へぇ~。動けないんだ」

「それだけじゃない。普段なら石碑を欠けさせた犯人捜しなど朝飯前だが、どうやらその能力も失ったようだ。だからこうして術で罠を仕掛けてお前を転ばせて捕まえたわけだ」

(まったくなんて人迷惑なんだ・・・)

「あと、今日お前の周りでも何か些細な変化はなかったか?」

(変化、変化・・・。確かにあった!)

「今日、皆俺以外、なんか微妙に変だった」

葉っぱはなんだか急に気難しい顔つきになる。

「やはりそうだったか。困ったことになったな・・・」

「何が?」

「私は、この土地の人々か健やかに幸せに暮らせるように見守ると共に、非常な繊細な調整を行っている。どうやらその力も失ったようだ」

葉っぱは益々残念そうにため息をつく。

「それってまずいこと?」

「この力が戻らないと、どんどん微妙なずれや歪みが増していき、いずれ調節不可能な無法地帯になってしまう」

「無法地帯って。俺の周りの変化も加速するってこと?」

「そのとおり」

(それは、マズイ。このまま周りのヤツの変化がどんどんエスカレートしていったら。考えるだけでゾクゾクする。なんとか石を元に戻さないと。中嶋! まずは中嶋に連絡だ。)

学ランのポケットを探り携帯を取り出す。パカッと開けると画面も割れていないし、電源もちゃんと入っている。電波も三本だ。さっそく着信履歴から折り返す。

「もしもし? どうしたの太一?」

呼び出し音が5回すると則のいつもののんびりした声がした。

「お前、今どこにいる?急用なんだけど!」

「従兄弟の(まさ)にいの車の中。土日は東京の政にいの家に止まるんだ。さっき学校まで迎えに来てもらって、今向ってるところ。」

「えっ? 東京、土日泊まりって」

「それより何? 急用って」

(ダメだ。中嶋は土日帰ってこない。どうしよう・・・)

「則どうせ土日いないんだろ。メールで詳細送るから、今日中に必ず返信しろよ!」

「なんだか分からないけど分かった」

太一は慌てて電話を切るとメールを打ち始めた。

「則が昨日の帰り道楠のところの石碑を欠けさせたおかげで、なぜか俺に呪いが欠けられた。呪いを解くために欠けた石を探してる。何でも良いから昨日のことをよく思い出して返信するように!」

東京小旅行で浮かれている則からいつ返信がくるかは分からない。太一は携帯を閉じると石碑の周りをぐるぐる回り、石の欠片がないか探す。楠やハガキの木の周りもよく見たがやはり欠片など落ちていない。手がかりは全くない。肩を落とす太一に葉っぱはなだめるように

「まあまあそんなに落ち込むな。期限は11月30日まであるから。ゆっくり探せば良い。」

「期限決まってるの?先に言ってよ。」

「そうカリカリするな。少し冷えてきたから場所を変えよう。そこで細かい説明はするから。」

葉っぱは勢いよく石碑から飛び跳ねると学ランの胸ポケットに滑り込む。

「何だよ。いきなり!」

「これからは私をいつも携帯するがよい。力になるぞ!」

どうせならドラマの東君の恋人みたいにかわいい彼女をポケットに入れてみたかった。自転車をおこし泥止めにつまった土を枝で取り除く。ペダルを踏んでみるとなんとか動くようだ。

(この泥汚れ母ちゃんにばれたらマズイ。まずは学ランと自転車をなんとかしないと・・・)

とりあえず太一は自宅ではなく近所に住む祖父母の家に向うことにした。




 拙い文章を最後まで読んでくださりありがとうございました。


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