5.7 飛龍と飛鳥 兄妹のすれ違い
魔術師連盟ではクラスファーストが招集され、本部待機命令が出された。
強制はされていないものの、ほぼ全員である約三十人が決めた。
総帥、近藤の人望とカリスマによるものといえる。
しかし総帥室ではナンバー2の実力者、方条飛龍が拒否の意志を伝えていた。
「そうか、仕方がない。
それは方条家の意志か?」
「いえ、私の意志です」
「では、飛鳥君は」
「飛鳥には仕事があります。
おそらく」
「それがいいだろう。
倉瀬君や大森も君と同じ事を言いに来たよ。
それが賢い者の正しい判断なのだろう。
特に飛鳥君や倉瀬君はまだたくさんの可能性がある。
この戦いに参加しないのなら私のように道を踏み外すこともないだろう。
飛鳥君に会ったらここへは来なくてよいと伝えてくれ」
「わかりました。
私はあなたを尊敬しています」
飛龍は部屋を出ると飛鳥が近くの長椅子に掛けていた。
目の前まで歩み寄る。
「総帥がお前は来なくてもよいとおっしゃった」
「何で?」
「お前の事をきかれたから、仕事があると伝えておいた」
「兄さんはどうするの」
「昨日言ったはずだ」
「どうしてっ」
「何度繰り返せばいいんだ」
飛龍の背を見ながら
「私は参加する」
飛龍は歩みを止め、振り向き。
「まだ解らないのか。
お前には一千年に渡って伝えられてきた仕事があるはずだ」
「それならお祖母様でもかまわない。
私ができることをしたい。」
飛鳥は自分の言葉に「はっ」とした。
通常の継承法では受け取った側にしか記憶が残らない。
「お祖母様にも記憶が残っているのか。
そのことはいい。
だったら連盟のためか?
あるいは方条の名誉?」
飛鳥は何も言わない。
「お前は仲間が自殺しようとしているのを止めずに一緒に死ぬのか?
それは単なる自己満足にしかならない。
何かのためにと思うのなら死ぬことよりもやるべき事をやるべきじゃないか。
他人のために何かをするのはよいことかもしれないが、自分が背負うのは悪いことに思える。
お前にも俺にもこの戦いを止める力はないだろう。
しかしお前には人のために本当にできることがあるはずだ。
結局は自分で判断するしかない。
正しい答えなど存在しないのだから」
飛龍は再び歩みを進めた。