3.15 封地侵入 包囲!
四時、山嶺が徐々に明るくなってくる。
隼は眼を調整し、マンホールを開けた暗い穴を覗く。
だいたいの構造は確認できたがやはり見えにくかった。
「準備が足りなかったな」と思いつつ尋ねる。
「誰か、明かり持ってない?」
「電話もあるが」
と大島が答えてライターを出した。
「なぜそんなものを?」
松田が尋ねた。
「魔法の触媒。
だいたい携帯している。
魔法を使うか」
大島はライターの火を点け、小声で詠唱を始め、そして呪文を唱える。
魔法は詠唱などを行い、様々なものに影響し現象を起こす。
行使者自身の消耗を削減できるため、術に比べてより大きな現象を引き起こすことができるが制御は難しくなり、複雑な魔法には高度な技術が必要になる。
「照炎」
炎はライターから離れて球となり、蛍光灯のような白色の光を放って大島の手の少し上を浮いている。
その光を使って中の様子を探る。
底まで3メートルほどの深さ、中の通路の幅は5メートル近くある。
中央には幅2メートルほどの溝があり、水が勢いよく流れている。
「以外と広いな。
臭いもないし」
「水は湖から直接入ってきているからな」
「大島さんは何でも知っているねえ」
「先降りるぞ」
大島が先に降り、隼もそれにつづく。
周囲を見渡す間もなく左右に人の気配を感じた。
すぐに距離をつめられ、ハンドガンを構えた八人に囲まれる。
顔にはライトが照らされた。
後ろの方にも何人か控えており、中には子どもの姿も見えた。
隼は逃げることを考えたがすぐに無理だと判断する。
大島は光を消した。
隼は上に向かって。
「武器を持った集団に囲まれた。
逃げられそうにないから閉めて先に戻って」
上では黙ってマンホールを閉じる。
下では大人しく手を挙げて待機。
話している言葉は外国語で隼には解らなかった。
一人が照炎と似た魔法で中を照らす。
そして大島が奥に連れて行かれる。
大島は隼に「心配ない」と眼で訴えた。
隼は十三歳くらい二人の男の子と女の子、二十歳くらいの女性と男性、五人に囲まれる。
すると女性が
「二人について行って」
ライトを持った男の子二人が歩き出した。
相変わらず背後は三人に固められている。
五人が能力者だというのは容易に想像がつく。
しばらく歩き、徐々に明かりが見えてきて川に出た。
夢界で聞いたことを思い出し「地龍川だろう」と思った。
日の光が水にも反射して眼を射す。
固めていた者達は来た道を戻っていく。
子どもに知っているいくつかの言葉でお礼を言って、そこを去る。
子ども達は少しうれしそうな様子だった。
帰宅後すぐに二人へ連絡をする。
倉瀬の判断でまだ通報はしていないらしい。
大島の様子から多分、無事であると思われるので通報については様子を見ることにした。
隼は大島にも電話を掛けたが留守番電話になってしまった。
そして事態をもう一度確認する。
「あの集団は標準語を使っていなかったことから、おそらく国外の人物。
あるいは、この言い方は偏見になるかもしれないが、怪しい宗教か何かの団体だろう。
大島の様子を見た限りでは多分、大丈夫だと思う。
知り合いかもしれないし・・・。
もしかしたら事態は一刻を争うかもしれない。
だけど悪化だけは防ぎたい。
とは言え、警察やYSSに連絡しても混乱するだけかもしれない」
YSSとはイグドラシル内部の調査、警備を行う、イグドラシル内の警察的組織。 外部にも派遣されている。
結局判断が付かず、この事は夢界で相談するのが良いように思えた。