3.9 識
昼になり、中央図書館へ向かう。
途中で倉瀬、大島、松田と会い一緒に向かう。
草薙のことを倉瀬に尋ねる。
「少し用事ができたみたいで、十分ほど待っていてくれだって」
倉瀬が草薙から指示を受けており、図書館に着き八階へ上がると草薙の言う通りで人が少なかった。
それから隼の名義で十席ほどの小さな部屋を借りて、そこで草薙を待つ。倉瀬と大島に視線を配って質問する。
「ところで識って具体的にどんなものなの?」
「具体的にと言われてもなあ」
二人は顔を見合わせ、大島は倉瀬に話しを振った。
「難しいよね。
知識というか、感覚にも近いものらしいし。
得た人じゃないと解らないんじゃない?
言葉で説明するのはかなり難しいと思うよ」
大島がさらに付け足しをする。
「言語は長い年月を掛けたものとはいえ、人の創ったものだからな。
伝えられることは限定されるし、限界もある」
「どうやって得るんだろう?」
松田のつぶやきに大島が尋ねる。
「欲しいのか?」
「まあねえ。
できるのなら」
「お前じゃ無理だ。
松田ができるのなら、識使いが全世界で数十人のわけないだろ」
隼はあっさりと指摘した。
「うるさいな。
判ってるよっ」
松田は怒りを込めて言った。
倉瀬が松田の質問に答える。
「最初は身近なものからが多いようだよ。
たとえば・・・自分の部屋のカーテンとか。
最初は瞬間的なもので、徐々に限定条件が減っていくらしいよ」
「どういうこと?」
隼の質問に今度は大島が答える。
「大きい小さいはあるものの、どんなものでも常に変化しており、全く同じ状態になることはほとんどあり得ない。
だから最初はそのものの、その状態の時だけの識が得られるわけだ。
それから徐々に条件が減っていく。
カーテンだったら日の当たり方など、どんな環境でもよくなったり、自分の部屋以外のカーテンにも干渉できるようになったりしていく。
さらにそこから布の識を得たり、遮りの識を得たりしていくらしい。
って、解るか?」
無言の二人に倉瀬がさらに付け足す。
「識は単純なものほど多くに干渉できる。
さっきの「遮り」とか、そう言う物質的でないものの方がいいらしいよ」
隼と松田は無言で顔を見合わせた。
その様子を見て大島が
「やっぱりだめだな。
俺達より言葉の使える草薙の方がいいだろう」