2.7 オルガン奏者
隼は夕日を浴びて通りを歩く。
休日でこの時間になると人通りは少ない。
ほとんど音を立てずに歩けるため、僅かな衣擦れの音が最も大きな音だったが美しい夕日が静寂を消していた。
空を眺め「綺麗だ」とつぶやいた。
イグドラのオルガンホールに行きたい気分になった。
このホールは五百人ほど入れる小さめのホール。
外観のドームが特徴で中央図書館とは違った印象を受けるものの、やはり教会の聖堂をイメージする建物。
神聖な雰囲気を感じるのによい。
近くまで行くと建物には明かりがあり、扉を押すと意外にも開いた。
入ると人の気配は感じなかったがオルガンらしき音を聞取った。
日はさらに沈み、窓からの光は少し離れた街灯のみとなった。
やや暗い廊下の照明は一つ置きに点いている。
奥へと進み、ホールの扉に近づくと音が漏れている。
扉を引くとオルガンが響いていた。
演奏しているのは長い髪の人で、その艶やかな黒髪と華奢な体格から若い女性であることは判った。
背から見られる動きも滑らかで美しくしっかりしたものだった。
そして演奏に聴き入る。
様々な強い空気の振動を全身に受ける。
有名なクラッシックの曲だった。
隼の中に「綺麗」や「凄い」と言った様々な感情が生まれた。
同じようなことが以前にあったような気がしたが、その探索よりも今は曲に神経を傾けたかった。
演奏は五分ほどで終わり、隼の方へ歩いてくる。
腰辺りまである切りそろえられた髪。
年齢は隼と同じ位だった。
話しかけたくなった。
「綺麗でした」
特に反応なく横を通り過ぎていくが嫌な気はしなかった。
そして出口のところで
「流れを感じなさい」
意味不明だが、隼には草薙のような能力はないのにその言葉に強い力を感じた。
「もしかして」
隼はドームのフレスコ画や壁のステンドグラスを眺めながらつぶやいた。