2.5 図書館探索と識
二人は中央図書館に到着し、下の階からしらみつぶしに探している。
館内は多くの人で混雑しており、通りに入って探さなくてはならなかった。
そうして探していると担任の佐藤を見つけた。
隼が声を掛ける。
「佐藤先生」
佐藤は背後から肩をたたかれて驚いた。
そんな反応を無視して隼は尋ねる。
「12クラスの草薙って知りませんか」
「知っているけど、どうしたの?」
「ここで見かけたかを聞いているんです」
隼は高圧的に尋ねた。
「いっ、いいや、見かけて」
隼の態度に佐藤は詰まらせながら答えた。
「じゃ、いいです。
邪魔をしました」
二人はさっさと去る。
佐藤はため息を吐き隼の背を見届けた。
その目には鋭さがあった。
「担任に対する態度には見えなかったが」
大島は周囲に視線を配りながら言った。
「あの人の場合、ああやって聞いたほうが早く聞き出せる」
隼と大島は四階まで登り、席についてゆったりと読書をしている草薙を発見した。 隼はその余裕にいらつきを感じ、確保しようと草薙に近づくがそこにあったかのように突然、巨大な書棚が現れ通路を塞いだ。
「これも顕現術ってやつか?」
隼は現れた書棚の本を引き出しながら尋ねた。
「周囲を見ろ。
無関係の人が居るのに誰も驚いた様子がない。
能力で幻覚を見せられているのだろう。
たぶん」
「本当か?
かなりリアルだぞ。
本も取り出せて、しっかりとした文章も書いてある」
本をめくって内容を確認した。
「この図書館は基本的に能力の干渉を受けない。
だから顕現術を使うより幻術を使った方が効率的。
だけどこれは幻術と顕現術の組み合わせかもしれないな」
「回りこんでも無駄だな。
さっきの技で消してよ」
「消滅波動か? さっきの顕現術と違って、幻術だと効かない可能性がある。
それに室内であの音を出すつもりか?
隼はまだしも普通は耳を痛める。
多分、この幻術は催眠のようなものだろう。
こうして棚や本に触れているのも、他からみればパントマイムになっているんじゃないか」
「これでもか?」
隼は棚に足をかけて乗った。
そのとき、書棚を通り抜け二人を怪しんでいく女性がいた。
「大島さんの言う通りか」
「ちょっと棚を押してみてくれないか?」
隼は棚から降りて、徐々に棚を押す力を強めると大きな音を立て数台の書棚が将棋倒しになった。
その衝撃と音に隼は焦った。
大島は落ち着いて
「これは幻覚じゃなかったな。
となると、通り抜けた人も実体じゃなかったのか。
このフロアの人の注意もなくしたんだな。
すごいな」
「こうなるのが解っているなら先に言え。
落ち着きすぎだ」
大島に文句を言って振り向くと倒れた書棚は消え、倉瀬達が草薙と話していた。
「隼、どうしたんだ?」
一件にまったく気づいていない松田が隼の怒りを感じて尋ねた。
「見てくれるって」
一件を理解している倉瀬がにこやかに言った。
倉瀬は高校生ではわずか二人しかいないクラスファーストである。
草薙はやはり余裕で本を読んでおり、隼はいらつきを感じたが何とか静めた。
感情の動きを草薙に干渉されていたことは知る由もない。
草薙に本を渡す。
「凄い。
重いな。
特別図書以上の本だ」
草薙は驚いたように言った。
特別図書とは特別な許可を取らなければ閲覧できない図書。
貴重なものや特殊な本が指定されている。
草薙はページをめくりながらさらに続ける。
「何が書いてあるかはわからないが「識」について書かれているようだ。
強い力を感じる。
預かってもいいか?」
「ああ、読めなきゃ持っていてもしょうがないし」
「そうでもないが、じゃあ月曜の昼ここで」
そう言うと草薙は下へと降りていった。
隼は草薙の言葉が引っかかり倉瀬に視線を流すが微笑むだけだった。
大島が不審な表情で倉瀬に尋ねる。
「どこで見つけたか話した?」
「いーえ」
首を振りながら言った。
「奴にとっては出所なんてどうでもいいんじゃない」
隼らしからぬ楽観的な意見だった。
松田をみて
「もう、帰っていいぞ」
「昼食も自分で払ったんだけど」
「かえっていいぞ」
強調して言った。
「もしかしてボランティア・・・ わかりました」
松田は悲しそうに帰っていった。
「隼はまだ帰らないのか?」
松田の背を見ながら大島が尋ねる。
「うん。少し、本を見ていく」
「じゃ、お先に」
「僕も帰るから」
「二人ともお疲れさま。
ありがとう」
感謝の気持ちだけで二人を見送った。
「識か」
隼は一人つぶやいた。
簡単に言うと識とは真理。
完全な知識。
全てに識が存在し、識を獲得することによって獲得したものの完全な支配が可能になる。
最上級の能力。
識を持っている者を「識使い」や「識者」と呼ばれ敬われている。
識の獲得者は少なく国全体、つまり識者連盟に二十人ほどいる。
世界中のほとんどの識者がここに居ると言われている。
美術書を鑑賞していると十七時をまわり帰ることにした。




